
こんにちは、佐藤です。1人で忘年会を楽しむ「ぼっち忘年会最強プラン決定戦」に、私も参戦することになった。「1人で飲みに行け」と言われたならば、それは私の独壇場。みんなチマチマ家とか会社とかで何やらやってるみたいだけど、こんな時こそ本当にしたいことをすべきでしょうに。
1人飲みが「慰め」であってはいかんのですよ! 真に道楽すべき! 趣味に没頭しようぞ!
ってことで、私はミュージックバーをハシゴすることにした。そこでしか聞けない音と、そこでしか見ることのできない風景。そして、そこにしかない出会いがある。それを満喫できるのが1人飲みであると私は考える。
・私の飲み方
先にお伝えしておくと、私は酒が弱い。普段なら缶ビール1本で足りる。常習的に酒を飲まないので、少し飲むとすぐに酔いが回る性質で、日常に酒を必要としていない。なくても困らないのである。
だが、酒は好きだ。種類を問わず、長い歴史が紡ぎ出した銘柄のワインなり、ウイスキーなり、スピリッツなり、リキュールなり。それらが培った伝統と文化には敬意を評している。
酒の場もまた好きだ。居酒屋はそれほど好まないが、ごきげんな音楽を聞いていれば、心地よく酔うことができて、いくらでも飲める気がしてくる。実際そういう状況だと、缶ビール1本と言わず、4~5杯飲めてしまうから不思議だ。
これはおそらく、私にお酒を教えてくれた人生の師匠がそういう人だったからだろう。まだ私が地元にいて、音楽バーで勤めていた頃、CDやレコードを携えてフラリとやってきて……。
「佐藤、今日はコレ」
といって、プレイヤーで流させた。あの人はスピーカーから紡がれる音に静かに耳を傾けつつ、カンパリロックに口をつけていた。その影響で、私がもっとも好むお酒はカンパリなのである。要するに、憧れが自分の体質にも影響したということなのだろう。音楽さえあれば、ツマミも要らない。
そんなわけで今日の舞台は歌舞伎町である。音楽でハシゴするには、この街がちょうどいい。
・Rock Bar Mother
まず1軒目はここ、「Rock Bar Mother」だ。ここは私が20代の頃から営業している、老舗のミュージックバーである。記憶が正しければ、初めて訪ねたのは24歳くらいのことだったと思う。そうすると、四半世紀以上営業していると思うのだが、詳細はわからない。
まだ上京する前のこと、数年に1度東京に遊びにいくのが楽しみで仕方なかった。とくにここに来れば、好きな曲をリクエストでき、爆音で聞くことができる。
「東京、すごいな。歌舞伎町、さすがだな」
どれほど深く東京に憧れたことか。そんなお店を地元に作ってみたかった。
店内は照明を目いっぱい暗くしている。おまけに音楽は爆音で会話もままならない。その中で、手渡される懐中電灯を頼りに、オーダーしたりリクエストしたりする。
店内には膨大な量のCDが置かれており、リクエストファイルから聞きたいアーティストの名前を伝えて、お店所有のアルバムの中から「〇番の曲をかけてください」といった具合でリクエストするのである。
さあ、まずはアサヒ(税込700円)の缶を頼んでおいて、1曲目はどうしようかな~。客は私のほかに外国人の男性が1人しかいない。今流れているのは、お店の人の好みでLINKIN PARKだ。そっちの方のロックはあんまり聞いてこなかったなあ。
続いて流れたのは男性の頼んだJIMI HENDRIX。いいねえ~、70年代で行きますか~。
だが、今日の幕開けにふさわしい1曲を選びたいってことで、PRIMAL SCREAMの『ROCKS』にした。そうだ、今日はロックな夜にしよう! 軽快なリズムとギターリフで、心に高揚感が宿る。だが、まだ時間が早いせいか、店内の空気は熱くなってこない。
あっさり1本飲み干したところで、次の店へ行くことに。立ち上がったところで、Queens Of The Stone Ageの『No One Knows』がかかって、お! っと思ったけど、座り直すのも気が引けてそのまま外へと出た。
・GODZ
次はMOTHERからすぐのところにあるメタル寄りのお店「GODZ」。どちらのお店もチャージがないから助かるんだよなあ。一応予算は5000円ってことなので、極力お酒に費やしたいところ。
さて、こちらはMOTHERほど足繁く通ったわけではないのだが、とにかく音がデカいので気に入っている。店内はメタル一色で、MOTHERよりも広くて明るいためか、外国人人気が高い。以前来たときは、自分以外全員外国人観光客なんてことがあったな。今日は日本人客もちらほら。
巨大なテレビの前のテーブル席に腰かけて、ビール(税込1000円)を1杯頂く。
店の雰囲気は好きだし、音がデカいのも気に入ってるけど、いかんせん、私はメタルの分野に明るくない。せいぜいメタリカ・メガデスを聞いて育ったものの、これらをメタルとくくると怒られそうだが、そのくらい疎い。店内で流れる曲も、聞いたことはあるけど曲名もバンド名もわからない。けど、やっぱ爆音は気持ちいいもんだな。小さくつま先でリズムをとってるだけでも気分が良くなってしまうよ。
えっとこの今、流れてる曲、聞いたことがあるし好きなんだけど、なんてバンドだろう。お店の人に聞くに聞けず、周りは外国人なので、英語でなんと言ったらいいのやら……。気軽に尋ねるにはもう少しお酒が足りないな。とりあえず、次の店に行こうか。
サビ終わりに「ラララ、ララララ、ラララ~」って入ってる曲のタイトルがわかる方、教えてください。たぶん5人組で2000年代に流行った曲だったと思います。結構ヘビーな演奏なのに、そのラララが似つかわしくないなと昔から思ってました。わかる方、お願いします。手がかりが雑ですみません……。
・ジャズ喫茶ナルシス
メタルで少し疲れたので、気持ちを落ち着けるために「ジャズ喫茶ナルシス」へ。
ここをご存知の方も多いだろう。古くからある老舗中の老舗で、歌舞伎町のド真ん中にありながらも、ここだけ異世界に感じる喫茶店である。
店内には膨大な数のレコードが収蔵されており、それを聞かせてくれる。ジャズのアナログ盤を聞ける貴重なお店だ。カウンター席にはこの場で出会ったと思われる外国人観光客が数名いて、英語で盛り上がっている。テーブル席には1組のカップルと1人の私。軽やかなピアノジャズを聞きつつ、キリンの小瓶(1100円)を傾けた。
そのアルバムが終わったところで、ママさんがレコードを変える。やけに親しみのあるしゃがれたボーカル。時折、話しかけるような調子で歌うその声に、聞き覚えがあった。
Louis Armstrongだ。軽やかなスウィングのビートに歌声が踊っている。あとからわかったが、ピアノはDuke Ellingtonだったようだ。ママが英語で外国人に説明しているのが聞こえてくる。
すると、その男性は手帳らしきものから1枚の写真を見せている。それは幼少期の自身のもので、日本とアメリカ人のクォーターであることを伝えていた。おそらく祖父母との写真なのだろう。
写真を見て「かわいい」と連呼するママ、その隣で恥ずかしそうに笑う男性。バックにはSatchmo・Ellington。まるで映画やドラマのワンシーンを見ているようで、なぜか私は妙に感動していた。劇場の特等席に座って、一夜限りの即興劇を見ている気分。
いよいよ酔いがまわって、いい感じになり始めている。外国人たちが帰るタイミングで私も小瓶を飲み干して席を立つ。すると誰の演奏かわからないけど、『朝日のごとくさわやかに』が流れ始めた。明日の朝がさわやかであるかどうか、今日のこれからにかかっているな。
・JAZZ Decoy
そういえば、ゴールド街にもミュージックバーがなかったっけな? まあ、歩いていればどこか見つかるだろう。小道にたむろするキャッチたちをいなして、ゴールド街を回った。
界隈を1~2周回っても、それと思しき店が見つからなかった。が、ふと見上げると「JAZZ Decoy」とある。和訳すると「囮(おとり)」か、いいね。その囮にかかってみよう。
階段を上がるとそこは小さなバー。ゴールド街らしい床面積の小さい横長のお店だった。カウンター上のテレビでは『ブレードランナー』が流れている。BGMはジャズではなかったけど、耳障りの良い洋楽が流れる。
日本人のお客さんが1人と、ここでもまた外国人観光客が2名。歌舞伎町周辺に外国人のいない店はもうないんだな。
そろそろビールに飽きたのでカンパリソーダ(税込1300円)をお願いした。もうカンパリに行っても良い頃合いに仕上がっている。取り立てて話すこともない。外国人たちも少し手持ち無沙汰な感じで、テレビを眺めている。少し椅子をずらしただけで、店内の全員がこっちを見たりして、なんとなく場は緊張していた。
こういう緊張感、嫌いじゃないなあ。気づかい合ってる空気、お互いに何かをつかもうとしている雰囲気に、平和なものを感じる。
すると突然、ママが男性にレコードを見せた。「今日中古屋で買ってきた」といってEarth, Wind & Fireのアルバムを出したのだ。どうやらこの男性は常連さんのようで「懐かしいねえ」なんてしげしげとそれを眺めている。
「こっちは新品」といって出したのが、CELESTEだった。イギリスの女性シンガーソングライターで、私は一時1枚目のアルバムにハマっていた。その彼女が新譜を出していたなんて知らなかった。
「CELESTE、アルバム出したんですね」
「先月出たみたいですよ。私は前のアルバム知らないけど」
「1枚目、いいですよ。おすすめです」
なんて話をして、思わぬ収穫を得た。まさかここでCELESTEの話を聞くとは、おとりにかかってみるもんだな。
・Alternative
さあ、もう1杯飲めるかな? ここまでで4100円使っている。あと1杯は行けるんじゃないの。ってことで、馴染みの店「Alternative」へ。ここは数カ月に1回程度訪ねており、飲みに出かけたときには締めに、マスターのクニさんの顔を見て帰るのが、私の流儀だ。
覗いてみると、今日に限ってクニさんは休みだった、残念……。それでも1杯とカンパリソーダを頼んだところで、スタッフの子に一応尋ねる。
「ここってチャージがあったよね?」
「はい、チャージが800円でカンパリが700円です」
「ってことは、トータルで~……、5600円! もういいや、せっかく気分がいいのに、5000円で切り上げるとか意味がわからん。1人忘年会なのに遠慮する必要ないだろ」
そんなわけで当初の予算は破棄して、私はフィーバータイムに突入しました。予算、気にして飲み歩くバカいるかよ!
ここでよく会う常連さんと、しょうもない世間話をして、今さらお互いの名前を確認し合ったりして、「どうせまたここで会うでしょ」とあてのない約束をして店を出た。
そして私が向かった先は……。
・Rock Bar Mother再び
帰ってきたよ! Motherに!!
さっきは時間も早かったから割と静かだったけど、もう22時過ぎてるから、店内が騒がしいぞ。Black Sabbathの『War Pig』が階段の外まで聞こえてきてるじゃないか。追悼だな、複数名の叫ぶ声が聞こえてる。いいぞ、俺も混ぜろ!
エビス(税込800円)を頼んで、私もロックパーティーに参戦! 次から次へとかかる定番ロックナンバーに、店内全員大盛り上がり! 日本人も外国人も関係ない。同じバンド、同じ曲を好きな仲間だ!
Rage Against the Machineの『Killing in the Name』に全員頭振る! 合間で私が「ナゲット割って父ちゃん」って言っても誰も気づきもしない。だって爆音だからね!
Metallicaの『Battery』で全員拳をあげる! イントロから大合唱です。テレレ~テ~レレ~♪ ってみんながそれぞれの “口ギター” を炸裂!
もう最高だな! やっぱ音楽があればツマミはいらねえ。ロックが好きならみんな仲良し。英語話せなくても通じ合えるものがあるよね、ね! それでも多少、気の利いた冗談くらい言いたいので、英語はしゃべれた方がいいけどね。
・真っすぐ帰ら……ない!
さすがにそろそろ疲れてきたので、帰路についた。
が!
私の忘年会はまだ終わらない。実は家の近くにごきげんなバーがあるのですよ。そのお店というのは「Bar プードル」。
このお店は、広告やPRの企画制作を手掛ける「株式会社おくりバント」の高山洋平さんのお店なのである。高山さんは「プロ飲み師」を自称しており、業界の有名人なのである。2025年4月にオープンしたこのお店はホントにうちの近所で、徒歩3分の距離にある。締めにここで1杯頂いて帰るとしよう。
「こんばんは~」と入ると、いつも元気な高山さんが出迎えてくれた。
「あれ? どうしたんすか。こんな時間に珍しいですね」
時計はすでに0時を過ぎているが、忘年会の最後はここで迎えたかった。
「今日は音楽をテーマに1人飲みしてたんですよ」
「なら僕の曲を聞いていってくださいよ」
スーズトニック(税込1000円)を頂きつつ、高山さんのスマホから曲が流れるのを待った。
実は高山さん、ワールドJポップ専門の「DJマリアージュ」名義で活動もしている。ワールドJポップとは、海外のアーティストが日本語で歌う歌謡曲のことを指す。それを専門的に扱うDJは、高山さんしかいないだろう。
音楽の制作も行っており、なんと中野区のシティプロモーションソングも制作しているのだ。その曲「ナカーノ」はデトロイト出身のシンガー「メアリー・スミス」とのデュエット。彼がかけてくれたこの曲の歌詞の一節を紹介しよう。
これがナカーノ さすがナカーノ 世界の中のナカーノ
それがナカーノ ふしぎナカーノ 宇宙の中のナカーノ
「これ、高山さんが歌ってるんですよね?」
「そうです、僕です。いい曲でしょ?」
「ステキですね。中野への愛が詰まってます」
その昔、師匠が言っていた言葉を思い出す。「音楽には2つのジャンルしかない。いい音楽と悪い音楽の2つだ」。混じりけのない中野区への愛を歌ったこの曲は、間違いなくいい音楽だ。
ロック・ヘビメタ・ジャズといろいろな曲を聞いて飲み歩いたけど、帰ってきた場所で地元の曲を聞けるなんて素晴らしい。今日は本当に良い夜だった。
予算やお店を決め打ちして楽しむ忘年会もいいけど、行き先を決めずにフラリと飲み歩くのも良いもんですよ。1人忘年会なんだから、気ままにいきましょう。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
▼中野区への愛が詰まった曲『ナカーノ』
佐藤英典










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