漫画の世界には俗に言う「チートキャラ」が存在する。ドラゴンボールの悟空もチートと言えばチートだし、両津勘吉もある意味でチートキャラだろう。そして我らが『魁!! 男塾』の江田島平八も問答無用のチートキャラだ。

さて、この記事では『魁!! 男塾』の作者・宮下あきら先生のロングインタビュー第5弾をお届けしたい。今回は男塾を掘り下げて「江田島平八」や「死んだキャラを生き返らせた理由」について伺ってみることにした。

・路線変更

熱心な読者の方ならばご存じの通り、男塾は途中から緩やかに作風が変わっている。当初はギャグ要素が強く、テーマに沿った読み切り型の気配が色濃かったが「驚邏大四凶殺」のあたりから、いわゆる “格闘漫画” にシフトチェンジしているのだ。

男塾に限らず、ジャンプ黄金期の作品はジョジョにせよ聖闘士星矢にせよターちゃんにせよ、一部を除きほぼ格闘漫画であった。果たして男塾はどんな理由で路線を変更したのだろうか?


宮下先生「当初の男塾は学園モノでギャグの要素が強かった。それが変わっていったのは「北斗の拳」の影響があったね。何より格闘ものは子どもたちが喜ぶんだよ。

連載当初の読み切り型で行ってたら、おそらく長くは持たなかったんじゃないかな。それと格闘ものは引けるじゃない? 引きっていうのは続きが気になるような構成のことさ。

引きの方が話も作りやすかったし、週刊との相性も良かったんだ。あと格闘ものをやり出すと自分でも楽しくなってくるんだよ。強い男や泣かせる話ってのは魅力的だろう?」


格闘漫画に方針転換したことで、結果的に男塾も長期連載になっていく。もちろんストーリーの中心にいたのは、主人公の剣桃太郎(つるぎ ももたろう)である。


宮下先生「男塾の主人公、剣桃太郎は二の線(二枚目)だよね。剣に関してはカッコよく描こうと心がけてたから、ちょっと描きづらかったかな(笑)。ただ読者投票ではだいたい1位だったし、やっぱり人気はあったよ。

これは剣だけじゃないんだけど、バレンタインデーにはダンボール2箱分くらいのチョコレートが届いてね。俺宛じゃないよ、剣や飛燕なんかの人気キャラに女の子の読者がチョコレートを送ってくれたんだ。カッコ良く描いた甲斐があったよな(笑)。

逆に松尾や田沢みたいなギャグ要員は描きやすかった。男塾でお気に入りのキャラはたくさんいるけど、これもギャグの要素が強かった男爵ディーノだね。マジシャンって設定も良かったし、ファンも多いよ」


・生き返らせた理由

先生のお気に入りが男爵ディーノと判明! そうだったのか!! 確かに男爵ディーノは死に際がカッコ良かった! ところで先生、男塾ではほぼ全てのキャラクターが生き返ったのに、男爵ディーノは生き返りませんでしたよね……?


宮下先生「1度死んだキャラクターを生き返らせた理由は、やっぱり子どもたちが喜ぶからだよ。死んだと思ってたキャラクターを生き返らせれば子どもたちが喜んでくれるんじゃないか、って気持ちはあったね。

あと死ぬキャラクターはほとんどキャラが立ってるから、もう1度キャラを再構築していくより手間がかからないのもあった。それと心のどこかにキャラを殺す心苦しさみたいな感情があったかもしれないな……。

え、でも邪鬼は死んだって? そうだっけ?(笑) そうか、鎮守直廊の三人(独眼鉄・蝙翔鬼・男爵ディーノ)も生き返らなかったか。あの頃はキャラクターも増えてて生き返らせるのを忘れてたのかもしれないな(笑)」


なお、邪鬼も鎮守直廊の三人も続編の「曉!! 男塾」では生き返っている。またお話を伺って、キャラを殺しきれなかった根底には宮下先生の優しさもあったと確信している次第だ。

・EDAJIMA

そして今では男塾の代表キャラともなった男塾塾長「江田島平八」だが、途中まではさほど重要な役割りを与えられていなかった印象だ。江田島平八に関しては、どんな経緯があってボスキャラ化していったのだろうか?


宮下先生「当初、江田島平八はちょい役だったんだけど、どんどんキャラクターとして大きくなっていった。意図的というより江田島が勝手に大きくなっていった感覚だ。

最初の頃は戦わせるつもりは無かったんだけど、やっぱり男塾の猛者たちをまとめる塾長が弱いワケにはいかないからね。男塾をあまり知らない人にとっては「男塾 = 江田島平八」ってイメージもあるかもしれないな。

男塾の後には江田島の自叙伝的な『天下無双 江田島平八伝』もあるけど、あれも描いてて楽しかった。やっぱり自分が描いてて楽しいものは、後から読んでも面白い作品が多いよ」


ネームを描かない先生のアドリブ力なのか、それとも江田島平八の持つパワーなのか? いずれにせよ江田島平八は男塾を代表するアイコニックな存在になっている。ただ宮下先生は「天下無双 江田島平八伝」で、やや後悔もされているそうだ。


宮下先生「『天下無双 江田島平八伝』は俺の悪い癖が出ちゃって、途中で話がブレちゃったんだ。ロボットを出したり、宇宙人を出したり。あのまま地味に書いてたらNHKの連続ドラマになるくらいいい話だったんだけどな。

いきなりフザけちゃうのは本当に俺の悪い癖だよ。これは作家の資質みたいなもので、高橋よしひろ先生みたいに犬というテーマで1つのことを描き続けられるのは本当にスゴイ。俺は途中で飽きちゃうんだな。

男塾のときみたいに突飛なことがハマればいいんだけど、苦し紛れにやるのは本当に良くない。だから俺の漫画は最初は全部面白いんだよ。始めたての時は着想とかエネルギーがあるんだ」


このエピソードに限らず、インタビュー中に先生は何度も「俺が悪い」と口にされていた。事の真相まではわかりかねるが、相手ではなく自分を責める姿勢に「男塾魂」を感じずにはいられなかった。宮下先生、尊敬してます。

──というわけで、今回はここまで。次回はいよいよ最終回! 誰もが気になる「民明書房」についてお話を伺った。心して待たれい!

参考リンク:宮下あきら公式X
執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24. Ⓒ宮下あきら. Ⓒ集英社.