産直市場で、見慣れないキノコに出会った。表示を見ると『たもぎ茸』と書いてある。何処かで目にしたことがあるような気がしないではないが、近所のスーパーに置いてあるようなものではない。

見た目はさて置き、味は「よくあるキノコと同じような感じだろう」と持ち帰り、食べてみることにした。いつものようにほかのキノコと同じようにして調理したのだが、のちに激しく後悔することになる。


・見たことがあるような、ないような

シイタケやブナシメジに混じり、タモギタケも並べられていた。色が黄色いため、その中にあっても特に目立つ。

以前キノコのフルコースを出してくれるお店に行ったことがあるが、その際に姿があったような気がしないではない。

しかし遥か前のことで、記憶はあやふやだ。改めて味わってみようと、購入し持ち帰ることにした。ひと袋税込350円と、取り立てて高くもなければ安くもない。

封を開ければ、キノコらしい匂いが漂ってくる。その色が目を引くものであるだけで、味は案外よく知るものなのかもしれない、という印象を受けた。


・びっくり仰天

ほかのキノコと同じように、石づきを取って手でほぐして使う。しっかりしたキノコではないようで、持つとポロっと取れる部分もあった。


もさっと入っていたので、半分はほかの具材が入ったスープに入れ、もう半分はエノキを混ぜてバターと醤油とで炒めてみた。

なんてことはない、シンプルな調理法である。いかに普段のキノコと同じような気持ちで、使っているかがわかるだろう。


炒めている際にクセのある不思議な匂いがしたが、出来上がりの香りと見た目は馴染みあるキノコたちに近い。そのため、やはり「知っているキノコに近い味わいだろうか」とさほど期待せずに口に入れた。

するとまあ、びっくり仰天。柔らかい食感で、なによりクリーミーでとにかく味が濃い。キノコのまろやかな部分を、これでもかと凝縮させたような味わいだ。


スープに入れているものは特に、スープ全体にその味を染み渡らせているようで、全体の旨味をアップさせているように感じる。炒めたものは香ばしさと濃厚さが、より際立っている。


これは、クリームパスタや炊き込みご飯に入れると最高なのでは。そう思い、次の日すぐに産直市場へ走ったが、その姿はなかった。

その後何度か日を変え、また場所を変えて探し回ったが結局のところ、一度も出会わず仕舞いである。もしかして、とてもレアなキノコだったのだろうか。

検索してみると収穫量が少ないこと、かつては人工栽培が難しかったという意見も見られた。現在は生産量が上がっているようだが、メジャーなキノコとは言い難い模様。

こんなことならば、もう少し凝った調理を試してみたかったし、あの時あと何袋か買っておくのだったと悔やまれる。もう一度会いたくてたまらない。

しかし旬は春から夏にかけてであるようなので、今シーズン中に出会える可能性は低そうだ。残念な気持ちでいっぱいであるが、ないものは仕方がない。

来年の夏の楽しみとして、今から調理のイメトレをし、ウォーミングアップしておくことにしたい。

執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.