外の気候に左右されることなく、整った空調の中で見る映画は最高だ。暑い時も寒い時も、快適な環境で楽しませてくれる映画館は、記者にとって憩いの場である。

つい先日も、急に気分転換をしたくなり、レイトショーに駆け込んだ。するとどうやら見たい作品の上映スクリーンだけ、空調の機能が停止している模様。

スタッフがものすごく丁寧に、公開しているけれど館内が暑すぎるのでオススメはしない旨を説明してくれた。しかしこんな機会もそうないだろう。物は試しと、見てみることにした。


・熱気に包まれ

はじめに違和感を覚えたのは、オンラインでチケットを買おうとした時だ。家を出る前に席だけ確保しておこうと、ネット予約しようとしたのだが販売不可になっていた。

その日がその館ではラスト上映の作品だったので、システム上受付を終了しているのだろうか。もしくは大人気過ぎて売り切れているのかもしれない。

状況がいまいちわからなかったので、現地に行ってみることにした。館内に設置してある券売機を確認すると、こちらも販売不可であるようだ。

どうしたことかとスタッフに尋ねたところで、空調設備が故障して停止していることが発覚。冒頭に書いたように、映画を見られるが、熱が籠った状態であることを説明してくれた。

記者がそれでもなお見たいと申し出ると、暑くなって途中退席した場合は返金してくれることなど、ていねいに伝えてくれた。そんなこんなで、ようやくチケットを手に入れることができた。


冷たいジュースをビッグサイズで購入して、いざ劇場内へ。スクリーン入口に巨大な業務用扇風機が設置してあり、上映開始まで廊下から冷気を取り込んでいるようだ。

中はほぼ満席だったからか、確かにムワッとした熱気に包まれている。しかし我慢できない程ではなく、飲み物もあるし、これくらいならば最後まで見ていられそうというレベルだ。



・唯一無二な映画館という空間

そんなこんなで始まった映画『F1®/エフワン』。記者が本作を見るのは2度目であり、展開がわかっていて力まずに見ることが出来て良い感じだ。体から発せられる熱が、抑えられているように感じる。


また見はじめてすぐに、暑さ以外にいつもと何かが違うことを感じ取った。その正体が何かまではしばらくわからなかったのだが、途中でハタと気付く。

静かなのだ。上映中の作品の音声はもちろんはっきり聞こえている。それどころか普段よりもくっきり鮮明に音がしている。F1カーの走行音の、なんと気持ちの良いことか。

正直1回目に見たIMAXデジタルシアターよりも、迫力は劣るもののクリアさでは勝っているように感じた。映画館の空調設備から発せられる音なんて、今まで気にもしたことがない。しかしながら、そこそこな音量であったことが察せられる。

加えてシンとしているからこそ、観客たちの息をのむ様子や驚き、感情の高ぶりを感じられて観客が一体となっていた。より深く映画に集中できる環境が、図らずも作られていたように思う。

あわや大惨事かと思われた空調機能停止事件により、改めて映画館の素晴らしさを思い知った。



・当たり前のことを痛感

今回はたまたま停止した空調により、館内での音の響きに気付くことが出来た。映画作品を見る環境は、音に限らず多くの人の力によって計算して作られているのだという当たり前のことを痛感した次第。

そもそも、現在は上映終了後に動画配信サービスなどで作品を視聴できることが珍しくない。また、映画鑑賞料金の高騰や客席でのさまざまなトラブルなどの事情などから、映画館から足が遠のいている人も少なくないだろう。

しかしながら、やはり映画館というものは特別な空間。そこで鑑賞する映画は唯一無二であり、自宅で見るものとは全くの別物だ。

個人的には常日頃より映画館を頻繁に利用する方ではあるが、今回の体験を通じてより一層映画 “館” に愛着が湧き、足しげく通いたくなった次第。貴重な体験にしみじみする、夏のアツい夜の出来事だった。

執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.