印刷物の歴史って長い。今でこそデジタルデータとプリンターがあれば、カラフルな印刷物をスピーディーに作れる。

だが昔の印刷は、まるでハンコのようなシステム。「版」にインクを塗り、それを紙に押し付けるという原始的な手順だったらしい。

──そんなかつての印刷技術「活版印刷」を体験できるキットが、学研の『大人の科学』から登場。実際に使ってみたら奥が深く、時間を忘れて夢中になっちゃうような魅力があったぞ!

・文具のような活版印刷機

「活版印刷」を知らない方のために、まずは簡単にご説明しよう。

活版印刷を一言で言うと、金属製の文字のハンコ「活字」を組み合わせて印刷する昔ながらの技術。

現代では、印刷物はデジタルデータで制作するのが一般的。

だが、当時の作業はすべてアナログ。「活字」を1文字ずつ手作業で組み合わせた「活字組版」(現在で言う、入稿用データのようなもの)を作っていたのだ。


当然、活字を組むにも印刷をするにも技術が必要だし、使える文字の数やデザインの幅にも制限がある。色だって、今のようにカラフルにはできない。

時間がかかって不便だからこそ、新しい印刷技術に置き換わったのだが……活字印刷には、それでしか出せない味があるのだ。

具体的にどんな「味」があるのかって? それは、見てもらうのが早いだろう。


・大人の科学『小さな活版印刷機』

今回購入したのは、大人の科学マガジンから発売された『小さな活版印刷機』

実際の活版印刷と同じ作業が体験できるというアイテムで、価格は税込5280円。



さっそくだが、実際に筆者が印刷したメッセージカードをお見せしよう。


ジャジャン!

諸事情によりカタカナしか使えなかったため怪文書の気があるが、それを加味してもイイ感じじゃないか?


インクのムラやかすれに味があってかなりエモいし、フォントや装飾もレトロチックで雰囲気がある。

さらに、写真には写らないが 触ると微妙な凹凸が感じられる点も現代の印刷とは違う。

友達からのプレゼントにコレが付いていたら「おっ!」と目を惹かれるだろうし、オシャレな喫茶店のショップカードにもピッタリ。


一体どうやってこのカードを印刷したのか……その手順をご説明しよう!


・活字印刷の手順

買ってすぐに印刷とはいかないところが、大人の科学の手間であり面白いところ。まずは活版印刷機を組み立てるところからスタートする。


キットを開封すると、バラバラのパーツが入っていた。

説明書はわかりやすいし、必要な道具はハサミだけなのでDIY初心者でも安心だ。


全部を説明しちゃうと長くなるため割愛するが、バラバラだったパーツを差し込み、組み合わせ、固定することで、

小さな活字印刷機の完成!


組み立てにかかった時間は20~30分。簡単じゃん、と思ったのも束の間(つかのま)。本当に大変なのはここからだった。


待ち受けていたのは、樹脂製の活字たち


なにがツラいかって、切り取るだけじゃなくバリ(不要な樹脂部分)までキレイに処理する必要があるのだ。カタカナ・ひらがな・英数字・記号の全306点を、全部整えるのだからえげつない。


活字を切り離しては、


キレイに整える。

この作業を何度も何度も何度も、繰り返し行うのだが……


細かな作業に手と目が痛くなり、この日はカタカナと記号だけで断念してしまった。

その結果が、先ほどお見せした怪文書のようなメッセージカードってワケだ。続きはまた後日がんばるよ。


活字まで完成したらいよいよ印刷へと向かおう。


活字印刷の手順はちょっと変わっているので、不思議に見えるかもしれないけどついて来てね!


まずは活字組版を作る。


パズルのような要領で、専用の活字台へ文字や記号を並べていく。説明書によると文字同士の間隔を適度に空け、しっかり差し込んで高さをそろえるのがポイントだそう。


続いてはインキ(インク)を練る。練るってなんだよ? って感じだと思うが、まぁ見てほしい。


水を垂らした吸水紙の上にインクを載せたら……


インキローラーをコロコロコロコロっ。



インキが均一で滑らかになるまでこの作業を続ける必要がある。筆者の場合は水とインクをちょっとずつ足して10分ぐらいかかったかな。慣れている人ならきっともっとスムーズだろう。


そしたら いよいよ活字台をセットして、


活字にインクを載せたら……


用紙をセットして、ギュッと押し付ける!



すると、出来上がったカードがコチラ!



全然うまく印刷できてねぇぇぇ~~~~っ!


・活字印刷は奥深い

どうやら活字台のセット位置とインキの練り具合が悪かったらしく、最初の1枚目はまったくと言ってよいほど上手く刷り上がらなかった。

現代のプリンターとはまったく違う。活字印刷って思っていた以上に奥深いものらしい。


その後何度かインキを調節した結果、完成品と呼べそうな状態までなんとか持って行くことができた。

学研によると、よりキレイに仕上げるためにはワクと文字を別刷りしたり、印刷用紙に高さ出しをしたりといった工夫が必要なのだそう。


「昔の印刷会社には職人が必須だった」と聞いたことがあるけど、まさにその通りなんだろう。

たった1色、1度刷るだけでも文字組み・インキの調整・印刷本番とテクニックの連続。これがもっと大きい紙や 2色以上の印刷だと考えると……気が遠くなっちゃいそうだ。


──だが、コレを機に活版印刷に興味が湧いてきたのも事実。


ちょっとしたメッセージカードやポップを作ったり、ワクだけ印刷して文字は手で書くのだってアリだろう。有限だからこそセンスを問われる世界観に、ときめいてしまった次第だ。


なお、今回使用した大人の科学マガジン『小さな活版印刷機』は2025年8月現在もAmazon 学研公式ショップにて購入可能

文具好きのコレクションとしてはもちろん、ショップカードや名刺作りといった実用にもオススメ。味のある印刷技術を、是非皆さんも体験してみてほしいな!


参考リンク:Amazon 学研公式ショップ
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.

▼活字や活字台、インキローラーなどは追加で購入することも可能。活字増刷版でお得に購入もできるぞ!

▼付属している冊子の読み物も興味深い。美しい活字の世界を垣間見られる

▼組み立てに必要なドライバーも付属している親切な設計

▼手順を誤り、本体にインクが付着してしまった。うぅぅぅ~ん、難しい!