先日 X(旧Twitter)上で話題になった出来事を超要約すると、まず名古屋の道端にチェキが落ちており、たまたま通りかかった男性が拾った。男性が「誰のですか?」と画像をポストしたところ、拡散され “チェキに写っていた人のファン” の目に留まった。
そのファン女性が現場へ急行しチェキを保護した……というのが、コトあらすじである。1億総推し活時代とも呼ばれる昨今において、ここまではまぁ、たまに聞く話。
本件がちょっと普通じゃないのは、登場人物が揃って「とんでもねぇオタク」であったということ。これは本来交わらないはずのドルオタとバンギャが手を取り合った、なんか最終的に全オタクが咽び泣く系のお話である。
・石月努チェキ事件(2024)
こちらが発端となったツイート。情報過多なので早足で。
すいません
名古屋駅前でチェキ落ちてたんすけど
誰のっすか?????
男性…?????
バンドのランチェキかなぁ?????
地面は流石に可哀想なんで
東京IT会計専門学校の向かいの
コカコーラさんの
自販機の上置いときました落とした方お早めに
…
誰かマジわからんけど pic.twitter.com/hMxwKbDvpC
— ぷっちょ【オタク】 (@kirshekirshe) November 25, 2024
このポストをしたのは名古屋市在住の男性。チェキに写っているのはFANTASTIC♢CIRCUS(ファンタスティック サーカス)のボーカル・石月 努(いしづき つとむ)さん。
FANTASTIC♢CIRCUSは90年代後半に一世を風靡したバンドFANATIC◇CRISIS(ファナティック クライシス)が令和に転生したもの。詳細は私が偶然にも以前書いた記事にあるのでご覧ください。
なお本記事でいうチェキとは「金で買ったアーティストのチェキ」を指す。私は普段バンギャ(ヴィジュアル系バンドのオタク)をさせていただいている者だが、チェキに使う金額は年間20万円ほど。
で、問題のポストを見て「これ石月努じゃね?」と気づく人が出現したことにより、石月努チェキ事件は石月さんご本人の知るところとなる。そんなこんなでポストは一気に拡散された。
ところで、私が気になったのは “チェキ拾得後の男性の行動” だ。男性は「近くの自販機の上にチェキを避難させ、その場を立ち去る」という行動に出た。拾って拡散させてくれる優しさがあるのなら、ついでに保管しといてくれてもよくないか? それか交番に届けるとか?
気になるので、ご本人を直撃してみた。
・ドルオタとバンギャ
誰かマジわからん人(=石月努)のチェキを拾った人こと「ぷっちょ」さんは名古屋市在住の30代男性。ただし出身は関東で、転勤で約10年前に名古屋へ来たらしい。そっか。それなら愛知の星こと石月努を知らなくても無理はないよね。(※ 石月さんは愛知県のご出身です)
──このたびはヴィジュアル系のチェキをお助けいただき、界隈を代表して厚く御礼申し上げます
ぷっちょ「いえいえ。僕みたいな影響力のない一般人のポストがあれだけ拡散されるって、なかなか無いことです。綺麗なメイクをされていたので、ヴィジュアル系の人かな? とは思ったんですけど。有名な方と分かってビックリしました」
──チェキを拾われたのは初めて?
ぷっちょ「初めてです(笑)。道を歩いてたら『なんか見覚えのあるモノが落ちてるな?』と」
──チェキを買われたこと、あるんですか?
ぷっちょ「僕は地下アイドルのオタクをやっているので、まぁ平均して月2万円くらいはチェキを買っていますね」
──え、そうなんですか!? 地下アイドルとヴィジュアル系って対極くらい遠い界隈な気もしますけど、よくぞ拡散してくださいましたね?
ぷっちょ「バンギャさんに対しては好印象を持っていましたし、どの界隈のチェキであっても同じことをしたと思います。『自分の推しが売れてほしい』という想いは、お互い一緒じゃないですか? オタクにとってチェキがどれほど大切かは、よく分かるので(澄んだ目)」
・いい人すぎやろ
うわぁ……マジか。ポストがバズった人を直撃しただけのつもりが “オタクの中のオタク” みたいなオタクを引いてしまったっぽい。このような強火のオタクと対等に渡り合える清い心は所持していないので、さっさと本題を切り出してしまおう。
──ええと。拾ったチェキを自販機の上に放置して帰られたようですが、なぜその行動に?
ぷっちょ「はい。まず考えたのは『交番に届けても、たぶん落とし主は現れないだろう』ということでした。それよりSNSで拡散させて、一旦ファンの方に回収されるほうが、落とし主に届く確率は上がると思ったんです」
──ご自身が保管されるという選択肢はなかったんですか?
ぷっちょ「チェキに写っているのが男性だったので、おそらく落とし主は女性だろうと考えました。で、僕はイケメンでもない、太ったおっさんなので。そんなおっさんの家に1回持ち帰られたチェキなんて、落とし主の方も嫌でしょ?」
え………………?
・おっさんという世界線
あまりに自虐的なことを言い出すぷっちょさんに返す言葉を失ったものの、すぐに私は「そんなワケはない」ことを伝えた。しかし……
ぷっちょ「いいんです。以前SNS上でチケットの取引きをしたとき、現場で待ち合わせた女性は、僕がおっさんだと分かるや口もきいてくれませんでした。僕は変な下心とかは無かったんですが、やはり女性にとっては不安というか、嫌な気持ちになる人もいるんだな〜って、その時に分かったので」
──なんなんですか、その女は。気にすることないですよ
ぷっちょ「それから、地下アイドルの子が僕の悪口を他のオタクに言いふらしていたこともありました。なので『目の前の女性が自分のことを気持ち悪がっているんじゃないか?』っていう思いは、常にあります」
──そんな経験をされたら、もう女性そのものが嫌になりませんか?
ぷっちょ「う〜ん。おっさんなのは事実ですから。仕方ないって割り切っている部分もあります。なので、自発的に女性に話しかけたりはしないですけど、中には仲良くしてくださる方もいて、ありがたいと思いますよ。バンギャさんは、おっさんにも比較的優しい印象ですね」
チェキの話から思いもかけず “おっさんの心” を垣間見る流れになり、切なさに押しつぶされそうになりつつも、なんか同じオタクとして心から「人生色々あるけど、推しの存在に救われてるよね」って気持ちになった。何か恩返しがしてぇ……!
──今回はありがとうございました。お礼にぷっちょさんの推しのこと、宣伝しますよ!
ぷっちょ「本当ですか、ありがとうございます! 僕がメインに推しているのは『にっぽんワチャチャ』という地下アイドルグループです。3月に日本武道館でライブをやるので、ぜひよろしくお願いします!」
──武道館!? それは、もはや地下アイドルなのですか?
ぷっちょ「武道館が余裕で埋まるのであれば『地上アイドル』でしょうけど……今はまだ難しいところですねぇ。YouTubeとかも頑張っている子達ですので、ぜひ見てみてください!」
──承知しました!!!
他界隈のチェキを助けたことにより、結果的に推しの宣伝に一役買ったぷっちょさん。因果応報って、つまりこういうこと。徳は積んでおくに限る。
そんなワケなので、これを読んだバンギャの皆さんは『にっぽんワチャチャ』を1曲聴いてみるように。そして道端でチェキを拾ったら、他界隈であっても救助しよう! それが巡り巡って推しの利益になるかもしれないのだから……。
・物語は終わらない
……はい! ここで記事が終わると思った読者も多いだろうが、なんとまだ折り返し地点なので注意されたし。「ここまできたら問題のチェキを見てみたい」そう考えた私は……
名古屋に来た。
なぜここまでしているのか、自分でもよく分からないけど何かに呼ばれた気がしたのである。
新幹線を降りたら銀時計の出口を出て左へ。
駅を背にし、すぐの角を左折すると……ジャン!
名古屋の新名所 “石月努のチェキ自販機” だッ!!
ぷっちょさんの証言によれば、チェキは自販機近くの路上に裏向きで落ちていたらしい。踏まれたとみられる傷が無数あったとのこと。再現VTRでご紹介しております。
「チェキを踏むなんて……」と思っていたけど、たしかに、これは気づかないかもしれない。逆にこれほど人通りが多い道で “ちょっと傷がついてた” 程度で済んだことが奇跡に思えてきた。
何はともあれ、いわくつきの場所である。バンギャの皆さん、遠征の際は巡礼してみてね!
・もう1人のオタク
さてさて。今回の石月努チェキ事件には、もう1人の登場人物がいる。先出のぷっちょさんが自販機に置いたチェキを回収&保護した人「りょーこ」さんだ。
りょーこさんは現場近くに住んでいた石月さんのファン。事件当日、石月さんの「誰か拾いにいってあげて」とのポストを目にし、慌てて短パン姿で深夜の名古屋駅前を疾走したらしい。「たまたま近くにファンが住んでたってスゲエ」そう最初は思っていたのだが……
結論からお伝えすると、この人 “日本で1位か2位の石月努ファン” だった。
石月努ファン選手権の詳細は不明だが、「使った額」「かけた時間」「想い」などの審査項目から私が独自に算出した結果、たぶん1位か2位だろうと判定するに至った次第だ。最低でもトップ5は確実。
“日本1位か2位のファンの家の近所にチェキ落ちてた” という衝撃の裏事情に一瞬ヤラセを疑うも、りょーこさんいわく、この事件には他にも様々な奇跡が重なっているのだそう。とりあえず問題のチェキ、見せてもらっていいですか?
うおぉぉぉぉ!!!!! 本物ォーーーーー!!!!!!!
りょーこ「これは11月10日(大阪)もしくは16日(名古屋)のライブで販売されたチェキです。で、私が保護したのが25日。どちらにせよ、どういう経緯であそこに落ちていたか、謎が多いんですよね」
──落とし主の方、まだ見つかっていないんですよね
りょーこ「はい。チェキって複数枚買う方が多いので、ライブ帰りに1枚落としても気づかないこと、割とありえると思うんです。でも、だとすると少なくとも10日間近く野外にあったことになりますよね。それにしては状態が良い気がします」
──ですね。あの道に10日間落ちっぱなしだったら、この程度の傷じゃ済まないですよね
りょーこ「ただ奇跡的にも名古屋ではあの10日間、大きな雨が降らなかったんです。そして翌26日、メチャメチャに降ったんですよ! 1日遅れていたら厳しかったと思うので、拾い主の方には本当に感謝しています」
──なんなんですか、その奇跡は?
・名古屋のオタク、ピュアすぎ問題
X上の一連の流れを見て、すぐさま「自分が行かなきゃいけない」と悟ったりょーこさん。彼女は私と同年代で、俗にいう “90年代V系ブーム直撃世代” である。
──石月努さん以外で、好きなアーティストっています?
りょーこ「人生で推しと呼べる人は努さんだけです。中学生のときにMステで初めて努さんを見て、一目惚れしてからずっと努さん一筋です」
──素敵! 具体的に、どのへんに一目惚れしたんですか?
りょーこ「そうですね…… “白目と黒目のバランス” ですかね」
白目と黒目のバランスだと……?
──ちょ、すみません。そんなにレアなバランスでしたっけ?
りょーこ「ごめんなさい、ちょっとマニアックですよね(笑)。爪とか歯も好きですよ。あとは……言葉に表せません」
──チェキって年間いくらくらい購入されてます?
りょーこ「購入制限があるので。買えるだけ全部買います」
──りょーこさんにとって、チェキとは?
りょーこ「 “自分だけへの贈り物” だと思ってます。なので、今回チェキを落とされた方が悲しんでおられるのだとすれば、どうにか返して差し上げたいです」
──もし落とし主が現れなかったら、どうしますか?
りょーこ「その場合は、私が永遠に一時保管させていただきます。仲間はずれにならないように、ファイルに入れて」
──心、綺麗ですね。石月さんに伝えたいことはありますか?
りょーこ「ずっと神だと思っています。私が今すごく楽しく生きられているのは、努さんとFANTASTIC♢CIRCUSがあるおかげです。1日でも長く活動していただいて、楽曲やアートを見せていただければと願っています」
──心、マジ綺麗ですね!!! 約25年に渡ってりょーこさんに愛され続ける石月さんって、よっぽど魅力的なんだなぁって伝わりました
りょーこ「ありがとうございます。でも、主人は全然違うタイプの人なんですけどね(笑)」
・第3のオタク、少し病む
あっ、へぇ〜……。りょーこさん、結婚してたんだァ……。やっぱ、こんなに一途に1人を推し続ける清い心を持った人って、必然的に結婚もできるのかな? 聞くところ、りょーこさんのご主人は「妻の機嫌が良いので助かる」とばかりに推し活を全面的に応援してくれているのだそう。そんないい旦那、どこで見つけたの……?
でもさぁ……そこまで一途に1人を推して、もし急に引退しちゃったりしたら、誰が私の心を支えてくれるの? ……とか言ってる時点で私の心って汚れてるのかな? だから結果的に結婚もできないと、そういうことなんですかね……?
ぷっちょさんとりょーこさんのピュアすぎる心に触れ、うっかり己の人生を見つめ直した私だったが、これも石月努チェキ事件の一連の流れといえなくない。複数人の手を渡り歩いたチェキには特別な力が宿るのだろうか。
……さて! そんな石月努さんが率いるFANTASTIC♢CIRCUS、実は明日(12月14日)のライブをもって活動休止である。
情報過多すぎて事態が飲み込めない読者もいると思うが、りょーこさんの様子からもお分かりのとおり、これは前向きなパターンの活休だ。そのうち戻ってきてくださるハズなので、本記事を読んで興味を持たれた読者は心穏やかに待たれよ。
なお本事件の顛末を石月さんご本人にお伝えしたところ、とても喜んでおられたことはぷっちょさんとりょーこさんにご連絡しておきます。お2人とも今回の一件で大きな徳を積まれたので、たぶん来世は人間で確定。
バンドは活休だが、石月さんは12日に新曲『奇跡の住人-ReALIVE-』を発表されるなど、今後はソロ活動を精力的に行われる空気感である(と、りょーこさんが言ってました)。私が約25年前に石月さんを初めて見たとき、誇張ぬきで「身長2メートルありそう」と感じたものだが、その圧倒的存在感は今も健在。白目と黒目のバランスは各自でご確認ください。
それからFANTASTIC♢CIRCUSのメンバーであるにも関わらず、今回全く出番がなかったギターのkazuyaさんは明後日15日がお誕生日(おめでとうございます!)。普段は同じくメンバーのSHUN.さんと共にTHE MICRO HEAD 4N’Sというバンドで活動中。15日は渋谷のSpotify O-WESTでバースデーライブが開催される。
新曲『星屑のアルペジオ』は近年稀にみる名曲なので、一生のお願いだから聴いてみてね。
……ってな感じで、1枚のチェキから巻き起こった小さな奇跡の物語は一旦完結。これで落とし主が現れたら第2章の幕開けだけど、果たして……? もし読者の中にチェキの落とし主がおられたら、りょーこさんか当編集部へご一報くださいませ。
参考リンク:FANTASTIC♢CIRCUS / にっぽんワチャチャ / TSUTOMU ISHIZUKI OFFICIAL SITE / THE MICRO HEAD 4N’S
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.
▼りょーこさんのお部屋だそうです。これは1位か2位だろ