
個性あふれる男たちの冒険活劇として。アイヌのサバイバル術を学べるハウツー漫画として。北海道各地を巡るロードムービーとして。いくつもの顔をもち、噛めば噛むほど重層的に味が出てくる『ゴールデンカムイ』。
実在の地名がたびたび登場することから、私たちも杉元一行の足取りそのままに、旅をしながら物語を追うことが可能。
舞台は札幌や函館などの定番観光地もあれば、車で何時間も走らなければ到達できない難所もある。今回は、過去にご紹介した大都市「以外の」地方を巡ってみた!
・道外からも行きやすい札幌&函館&小樽
最初に、これまでの訪問スポットをおさらいしたい。物語ゆかりの地として第一に挙げたいのが、アシㇼパのコタンからも近い小樽。第七師団本部を離れた鶴見中尉の本拠地であり、主要人物たちの出会いの場所だ。
小樽周辺には実際にアイヌコタンがあったことがわかっているものの、史料がほとんどなく、漫画として自由に描写できることにつながったとか。
逆にクライマックスとなるのが函館。激戦地「五稜郭」のほか、現在工事中の「旧ロシア領事館」は必見。本州からの海の玄関口で、観光客が訪問しやすいのは大きなアドバンテージ。
数々の変態エピソードがある札幌も見逃せない。猟奇ホラー「殺人ホテルだよ全員集合!!」や、口に出すのもはばかられる下ネタ探偵、札幌麦酒工場の激闘など、大都市らしい戦いが繰り広げられる。
また、札幌郊外の「北海道開拓の村」には、物語全体を通して「作画モデルになったのでは」とささやかれる建物が多数存在。もっとも作品の雰囲気を感じられる場所と言っても過言ではない。
このほか軍都と呼ばれた第七師団の本拠地・旭川や、「博物館 網走監獄」のある網走もぜひ訪れたいスポット。
・魔神のすみか「神居古潭(かむいこたん)」
(※写真は運転に支障がなく、また野生動物に危険のない距離・位置・方法で撮影しています)
ここからは都市部を離れ、郊外や山間部を訪問。「北海道デカいよ寒いよ町まで100kmなんて嘘だと言って! おまけに夜になるとエゾシカが道路脇にうじゃうじゃいて運転怖すぎる! でも頑張って行ってきた」ポイントをご紹介。
旭川の第七師団まであと少し、という場所にある「神居古潭」は白石奪還大作戦で土方歳三が待ち伏せをした場所。
現在の橋は日本刀では切断できそうにないが、「神の領域」と呼ばれた威容は健在だ。息をのむような景勝地であると同時に、冷静さと大胆さが同居する英雄・土方歳三の智略を感じられるスポット。
曲がりくねった川にごつごつした岩が迫り、アイヌの木舟で水難事故がたくさん起こったというのも納得できる。魔神のいる場所として畏怖されていたという。
白石を取り戻すことはできなかったものの、激流を木舟で突破するキロランケの操船技術はやはりすごい。
・ヒグマが遊ぶ「大雪山 層雲峡(そううんきょう)」
白石を奪還後、第七師団から飛行船を奪って逃走する杉元たち。空から奇岩が見えてきて、アシㇼパは「パウチチャシ」と呼んでいた。パウチカムイは淫魔なのだというが、低体温症で逆に服を脱いでしまう「矛盾脱衣」は、実際にある現象だそう。
アシㇼパが「カムイミンタㇻ(ヒグマがたくさんいるところ)」と呼んだ大雪山は、現代では登山者でにぎわう人気の山々。
「よし、杉元たちの気持ちになって登山だ!」と言いたいところだが、気づけば何日も日光を浴びていない都丹庵士のような暮らしをしている筆者にはたぶん危険だ。「山をなめるなぁ!」と制裁棒で張り倒されるだろう。
ここは横着してロープウェイにする。「黒岳ロープウェイ&リフト」は特別な装備がなくても山の雰囲気を楽しめる手軽な方法だ。
毎秒5m、約7分間という短時間であっという間に5合目・黒岳駅まで着く。往復がすでに絶景! 眼下には深い森がどこまでも広がる。
アイヌの人々は、どんなに人里から離れていても「水さえ見つかれば、あとは現地のものを利用して生きていけた」という。東北のマタギも同じかもしれない。究極の自給自足生活。
黒岳駅からは見渡す限り、山、山、山! 未踏の道を歩く「ヤブこぎ」という技術があるというが、こんなところを歩くなんて想像もできない。
本州ではクマの目撃情報がすごいので、入山者も少ないのかと思いきや、実際はハイキングらしき人がたくさんいた。筆者は幸運にもというか残念ながらというか、野生動物には会えなかった。
エゾシカの毛皮のなかで、杉元が日露戦争について語った「日本に戻ってきても元の自分に戻れない奴は 心がずっと戦場にいる」のセリフが心に残る。みんな少しずつどこかが壊れている、それが『ゴールデンカムイ』のキャラクターたちの深みだ。
・裸祭りの「屈斜路湖(くっしゃろこ)」
網走の南に位置する屈斜路湖。ここは杉元たちが盲目の囚人・都丹庵士に出会う場所。失明の原因になった「硫黄山」も実際に近いという。
温泉入浴中に襲撃されたため、まっぱで全編が進むという異色の(?)エピソード。実写ドラマでどのように描かれるのか興味津々だ。
湖が印象的なのは、キロランケ&谷垣源次郎&インカㇻマッのグループ。水の透明度が非常に高い。昼でさえとても静かで、心が癒やされるような風景が広がる。夜はさらに静寂に包まれるのだろう。都丹庵士の一味は、木舟に小石を投げて正確に距離を測る。
この辺は釧路川の源流にあたるエリアで、いずれ川は姉畑支遁がいた釧路湿原につながる。下流にいくほど水は栄養素を含み、色が濁ってくるのだそう。おかげで湿原は姉畑が愛する動植物の宝庫に……
・おまけの白老町(しらおいちょう)
作品との直接のつながりはないが、民族共生象徴空間「ウポポイ」がオープンした白老町もホットなスポット。
アイヌ文様のカプセルトイを見つけ、運試しに回してみた。『ゴールデンカムイ』でお馴染みのカムイから、昆虫や爬虫類や鳥類まで全40種類! これだけ種類があると特定の動物を狙って出すのは難しい。
1個300円で、手持ちの小銭の都合からチャンスは2回。「知っている動物が出るといいなぁ」というくらいの無欲な気持ちで回してみると……
コタンコㇿカムイィィィィ!
シマフクロウのことで、道東のアイヌがヒグマよりも上位において大切にするカムイだという。言い伝えに反してシマフクロウの目を撃ち抜いてしまったことで、杉元たちは暗闇での戦いを強いられ……という屈斜路湖の話につながる。なんとタイムリー!
なんだか今日はツイている。残りの小銭でもう一勝負。
…………
…………
…………
まさか……嘘だろ……手が震える
ホㇿケウカムイが……エゾオオカミのカムイが……出た……
アシㇼパの父に深く関わるカムイであり、暗号解読の鍵であり、北海道開拓の犠牲者であり、「消えたカムイ」としてアイヌの精神性を象徴する動物……
ヒグマのキムンカムイと双璧をなす、作品のシンボルと言えるだろう。これ以上の “当たり” があるだろうか。神が降りてきた。もう悔いはない。筆者の北海道の旅は終わった────
・北海道周遊キャンペーン開催中
放心したように本州へ戻った数日後。あるニュースが筆者の目に飛び込んできた。
「ゴールデンカムイと北海道を楽しもう!supported by ウポポイ」開催決定!
小樽、札幌、旭川、網走など北海道各地に掲示された全10種のポスターを探して周遊。参加者にはオリジナル壁紙や缶バッジをプレゼント……だと?
ちょ、ちょ、ちょっと待て……遅いよ! 今からか! 帰ってきちまったじゃないか……!!
まだまだ旅を終えることはできないようだ。開催期間は10月8日(火)から来年3月30日(日)まで。「移動距離がえげつない」と早くも話題のポスターラリー、挑戦してみてはいかがだろうか。
参考リンク:「ゴールデンカムイと北海道を楽しもう!」キャンペーンサイト
執筆:冨樫さや
Photo:PR TIMES、RocketNews24.
©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会
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冨樫さや






















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