やっと長すぎた夏が終わりそうなここ数日。今年の都内は5月半ばあたりから30度近い気温に至っており、その時点から完全に「夏」だった気がする

昭和と平成の夏は終わると物悲しかったが、令和に入ってからは長く過酷すぎてそうでもなくなった。皆さんも、ここ数年は夏の思い出的なものを多めに作れているのではなかろうか。

私も今年の夏は、京都に関して印象的な気付きを得た。6月に行った時のことだ。これこそは、都市として最も貴重な側面の1つではないだろうか……?

・京都

私は都内で仕事をしているが、京都中心部の交易や消費の面での都市機能は、東京の都心部と同等であると思っている。御所もあるしな。

同じくらい栄えていて、同じくらいどこも混んでいる。住宅街まで白金のようなエリアから町田のようなエリアまで揃っているではないか。

ゆえに驚愕したのだ。四条大橋周辺でメシを食っていた時に、ちょっと行ったところで野生のホタルを見られると聞いた時には

車で10分かそこら行ったところに、ゲンジボタルがいるらしい。噂には聞いたことがあるが、野生ってマジ? 自治体とか商業施設が放流してる人工ホタルじゃなく?

京都府のHPを見ると、”市の天然記念物に登録されているゲンジボタルの生息地でもあり” と書かれている。これは人工ではなくワイルドなホタルだろう。

私は昭和生まれの山育ちゆえ、今さらホタルそのものに驚いたりはしない。子供のころに、それはもう昨今では中々見ないような規模のホタルの乱舞も見たことがある。

そうではない。まず、四条大橋周辺は立派な繁華街なのだ。ちょっと西に行けば、デカい大丸や高島屋がある。


ちょっと東に行けばライカやヴァレクストラが店舗を構え、庶民には縁遠い高級料亭がある。東京で言えば、狭いエリアに日本橋や原宿、銀座、赤坂と近しい要素が凝縮されているのだ

そして人の多さはインバウンド客の影響もあり、全域で新宿駅並み。私は、そんな繁華街から自然にホタルが棲息するような環境までの近さに驚愕したのだ。



・ホタル

ホタルは、人と暮らすには難しい生き物だと思う。まず、ほど良く汚い川が必要だ。よく綺麗な川にしか住めないなどと言われているが、そこはちょっと違うと私は考えている。

綺麗な川にいるのはカワゲラやサワガニだ。ホタル(ゲンジボタル)が住むには餌になるカワニナのような貝が必要だが、それらはもう少し汚い川に多い。かと言って、汚すぎてヘドロにまみれた川では生きられない。綺麗すぎても汚すぎても駄目なのだ。

人の影響があると、水質というのは科学の力でやたらと綺麗になりすぎたり、放置されてどうしようもなく汚染されたりする。ホタルが好むちょうど良い汚れ具合というのは、意図して作ろうとするととても困難なものだ。

私の家の近所にも、かつてホタルが居たが、大戦時の軍需工場や高度経済成長期の開発で汚染されて全てが滅びたドブ川がある。20年くらい前からホタルを復活させようと放流など試みているが、相変わらず1代限りで滅びている。

なによりホタルは光を嫌う。闇の中、自分らで光ってコミュニケーションを図り、繁殖する生き物だ。街灯や車のヘッドライトがバチバチな場所からは離れていく。

逆に人は闇を嫌う。繁殖行為は闇の中でもするかもしれないが、その他のコミュニケーションはほぼ100%光の下で行う生き物だ。人の住む場所というのは、人口に応じて物理的な暗闇が希少になっていく。人とホタルは相性が悪い。

そんなホタルが、このバチバチな祇園四条からすぐの場所に!? しかも自然に繁殖している……!? これはマジで東京ではありえないことだ。

都内にもホタルスポットはあるが、都心部で見られるものは全て飼育なり放流したものだと思われる。自然に代替わりしている個体群があるという話は聞かない。天然ものは都心から50~60㎞ほど離れた八王子や あきる野辺りでの話だ

さらに言えば、ホタルが住むようなほど良い汚れ具合の川があるということは、上流は綺麗な水質なのだろうし、それを支える森を持つ山があるということになる。私は踏み入ったことが無いが、京都を囲んでいる山がそうなのだろう。



・哲学の道

これは見に行かねばなるまい。ということで、四条大橋周辺でタクシーをキャッチ。


ゲーミングな京セラ美術館を通り過ぎて


到着。4キロちょっとで1700円。10分程度だった。ぶっちゃけその辺でチャリをレンタルして来ればいい距離だ。



カメラの力で明るく写っているが、ここはだいぶ暗い。いかにもホタルが居そう。具体的なスポットは歩いて探すことに。


街灯もあるが、1つ1つの間隔がけっこう広い。これほどの暗さは深夜の河口湖以来だ


こうして見ると凄まじい山の中のようだが、実は両サイドの闇は普通に民家や洒落たカフェだったりする。時刻は20時半ごろで、そんなに深夜でもない。

この闇の中、まあまあ犬の散歩やジョギングをしている地元民などもいて、閑散という感じがしないのも独特だ。このまま道なりに進んでいくと……


あっ


ホタルゥゥウウウウウウウウ!!!!


この時は三脚の使用が禁止な案件で来ていたのが悔やまれる。渾身の手持ち長秒露光はやはりブレてしまった。

周囲にはそれなりに地元民と思しき蛍狩り京都民も何名か。ここが今年のホタルスポットなのだろう。

ヤングなカップルがやってきて、ホタルに興奮した彼女がスマホで照らそうとしたのだが、それは駄目だと彼氏が即座に止めたり、ホタルを捕まえようとするキッズを制止して駄目だと教える子連れパパなど、ホタルファーストな体制が自然と敷かれていた点も好印象だった

ここが祇園四条から10分ではなく歌舞伎町から10分だったら、ホタルなどたちまち狩りつくされ路上販売されていた可能性を否定できない。こういうものを大切にする姿勢は、京都民の方が根付いている気がする。

帰りはタクシーを呼ばず蹴上駅まで歩いて電車でホテルのある烏丸まで戻ったのだが、駅までの道すがら気付いたことがある。別にホタルは哲学の道だけにいるわけではないようなのだ

隣接する南禅寺などの敷地一帯にそれなりに飛んでおり、その辺の植物が茂った水辺で、多かれ少なかれ光っている。狭いエリアで大乱舞というものではないが、それなりに広いエリアに普通に定着しているとみられる。

さっきのゲーミング京セラ美術館からだと徒歩10分だ。この、繁華街エリアから繊細な自然までの距離の近さ。行政だけが何かして実現できるものではない。

地域性や、住民の理解と協力がないと難しい。官民の垣根を超えて、深い所での自然へのリスペクトと理解が必要に思うのだ

もしかしたら市民が幼少期から鴨川と共に暮らしていることなどが影響するのかもしれない。京都の魅力は多いが、個人的に最大の魅力を感じたのは、このような都市の在り方だ。そう感じた2024年の夏。

参考リンク:京都府
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.