千葉県に本社を置く回転寿司チェーンの「銚子丸」(株式会社銚子丸)は、2024年6月、千葉・妙典に完全予約制で、しかもコースのみの本格江戸前寿司業態のお店「鮨元」をオープンした。
銚子丸なのに、完全予約制? しかもコースのみ? いわゆる高級ブランド路線なわけだけど、そんなに強気に出て大丈夫?
興味本意で期待せずにお店に行ったら……。スゴすぎた! スゴすぎて、申し訳ない気持ちになってしまったんだよ。決意と覚悟を感じる名店でした!!
・入口がややわかりにくい
このお店は完全予約制なので、利用するにはあらかじめ予約する必要がある。
水・日定休で、昼は12時から、夜は18時から。カウンター6席、個室1卓(4席)の小さな店なので、ふらりと入れるタイプのお店ではないので、その点、注意して頂きたい。
さて、お店は東京メトロ東西線の妙典駅から徒歩1分。駅の北側の建物の2階である。
ここの2階のはずなんだが……。看板を見ると、文字の大きさは控え目。もっと大きく書いても良さそうなのにな。
入口がわかりにくくて、私(佐藤)は建物をぐるりと回って探してしまったんだけど、先ほどの看板のところが入口だった。一瞬お店かな? と思った場所から入ることができる。
手前にエレベーター、奥に階段があるので、どちらかで2階へ。
ここがお店の入り口。うわ~……、銀座の高級すし店みたい。急に緊張してきた。
入ると、店の真ん中にヒノキの立派なカウンターがあり、厨房には板さんが待ち構えていた。私の知る銚子丸の雰囲気は1ミリも感じない。本気だ、全力で良いものを出そうという気構えがヒシヒシと伝わってくる。
メニューはコースのみ。料金については最後にお伝えさせて頂きたい。料理を紹介していくので、この内容でいくらか予想しながら読んで頂きたい。
・珠玉のコース内容
この日のランチは私を含めて4名。全員揃い、飲み物が出たところでコースが始まった。最初は「野菜」、この手のお店では先付けやお通しが出てくることが多いが、ここではそれらの代わりに旬の野菜を提供しているとのこと。
今日は水茄子。切り立ての水茄子に削り立てのかつお節を散らし、軽く醤油をかけただけのシンプルなものだ。それだけなのに美味い。「水」茄子と言われるがごとく、果汁をたっぷりと含んでおり、噛むごとに甘さを感じる。素材の持ち味がわかるからこそ、これだけシンプルな味付けで出せるのだろう。
この板さん、スゴイのでは?
続いては「刺身」。オーストラリア産のインドマグロの中トロに、地元銚子産の金目鯛。それから白いのは、刺身かまぼこだ。
「(豊洲)市場で刺身かまぼこがあった、珍しいと思ったんでお出ししました。ワサビをつけてどうぞ」。そんな感じで、日によって提供している品が変わるらしい。
ちなみにこのおろし立てワサビのキレがすごくて、ガツンとした辛味のあとにほんのり甘さがある。辛味が後をひかないのは良いワサビの証だ。
お次は兵庫県産の「鱧(はも)のだし風味」。これがスゴかった!
肉質フワフワで、鰹出汁の旨味をしっかり含んでいる。調理に手間のかかる鱧を、まるでスポンジケーキのようにフンワリ仕上げることができる板さんは、絶対タダモノではないはず!?
1品1品出てくるごとに、板さんが何者なのかが気になって仕方がなかった。
ここはガリも自家製でした。辛味の強いショウガを甘酢に漬け込んでいるのだとか。辛さと甘さのバランスがとてもいい。酒のツマミにもなる美味しさ。
ここでようやく最初の握り。長崎県産の「伊佐木(イサキ)の昆布〆」と……。
「白鱚(しろきす)の昆布〆」。
いまだかつて、キスの寿司を食べたことがあっただろうか? キスといえば身が少ないので、焼いて食うのが一般的だと思っていた。でも、このキスは違う。肉厚で食いごたえがあるので寿司にしても十分にイケる。キスがこれほど美味しい魚とは知らなかった。
次は焼き物、岐阜県産の「鮎の一夜干し」。
仕入れた鮎をお店で漬けて干したのだとか。臭みもなく上品で、酒が欲しくなってしまう。
再び握り、今度は神奈川県産の「あおり烏賊(イカ)」だ。
色が白いのでわかりにくいと思うが、とても緻密な飾り切りが施されている。
あまりにも細やかな切り込みのため、口に入れるイカとシャリの食感の境目がわからない。2つの味が一体になって、口の中に広がっていく。
私は少々混乱していた。この歳までいろいろ食べてきたつもりだけど、ここに来て初めて出会う味、初めて出会う食感が多すぎる。これが本格江戸前寿司というヤツなのか!?
それから江戸前の「小肌」は柚子の香りをまとっていて、味だけでなく香りも華やかだ。
蒸し物には「茶碗蒸し」。季節柄、銀杏はないかな? と思ったら、ちゃんとひすい銀杏が入っててちょっとうれしかった。
ここから握りは怒涛の後半戦に突入。まずは刺身と同じ豪産インドマグロの「赤身漬け」。
そして、「中トロ」も握りでも頂く。
シャリは基本的に小さ目なので、ネタの美味しさをしっかり味わうことができる。中トロもまた言うまでもなく、この1貫で私を悦(えつ)に浸らせてくれるのである。
ここで小休止、「香の物」(赤カブ・長いもしそ漬け)を挟む。
もうイチイチ言いたくないのだが、これも美味いんじゃ~。隙がねえ、コース内容に一切の隙がねえ!
さらに追い打ちをかけるように北海道産の「雲丹(ウニ)」。
長崎県産の「穴子」と続いた。
あえて、板さん VS 私のボクシングマッチに例えるとしたら、序盤ですでにフラフラになった私に、猛ラッシュをかけるがごとく、これでもか! これでもか! と美味しい仕打ちを畳みかけてくる。でも、まだ終わらない……。
鮪のつみれの入った「赤出汁味噌汁」で、私をリングコーナーに追い詰めたあとで……。
左ストレートのような「干瓢(かんぴょう)巻き」がきたー!
これもまた至極。甘く味つけた江戸前仕立てのかんぴょうに、ややキツめにワサビをきかせている。本当に美味しいかんぴょう巻きは、中トロやウニにも匹敵すると私は個人的に考えている。このかんぴょう巻きはまさしく理想的な美味しさである。毎日食える味、いや毎日食べたい味だ。
さらなら猛追! 必殺技のアッパーカットともいえる「デザート風玉子焼き」!!
これもまたスゴかった! すでに私は「美味い」と「スゴい」しか言えないくらい語彙力を失っているのだが、本当にスゴかったんだ。聞いてくれ!
玉子焼きなのに、デザートのような柔らかさと甘さ。カステラのようでもありフレンチトーストのようでもある。時間が経つと甘さと食感が変わってしまうため、焼き立てしか提供できないそうだ。しかもゆっくりと火入れをしないといけないため、提供よりもはるかに前の段階、他の料理を提供している間に奥の厨房で調理しているという。
驚くほど手間と時間がかかっている。
まだ最後の最後まで気が抜けない。本当のデザートにも驚きが隠されていた。一見杏仁豆腐のように見えるコレ、コーヒー味なんですよ
あの手この手で美味しさと驚きを畳みかけてくる昼のコース。その最後に見た目を裏切るサプライズを用意しているとは、実に心憎い!
もうホントにまったく期待せずにお店に行って、不意打ちを食らったみたいに、味でボコボコにされてしまった。
昼のコースはこの内容で税別9000円です!
お店の利益があるのか心配になるレベルだよ。1万円でお釣りが来てしまうことに、申し訳ない気持ちになってしまった。
・覚悟を感じる
食後に板さんにお話を聞くと、板さんは銚子丸の商品開発部のエライ人なのだとか。今回このお店を出店するに当たって、誰がお店を担当するかという段階で、しっかりした修行経験をお持ちの板さんに白羽の矢が立ったそうだ。
10数年ぶりに板場に立ち、今こうしてお店を営業していらっしゃる。
良いものを提供したいという思い、それからグループの中でも本格的なお店を持ちたいと考える従業員のために、実践の場としてこのお店を作ったのだとか。
良いものを提供するとはいえ、会社にとって抱えるリスクは軽くなかったはず。というのは、単価が高いとはいっても、回転寿司業態に比べて回転率は高くない。原価の割りに売上はそこまで高くないので、どう考えても負担の方が大きいはず。それを押してまで出店したことに、会社の決意・覚悟を感じる。
とにかく9000円で食べられるレベルの味ではないので、ここは高コスパの名店といって良いだろう。なお、夜は税別1万5000円である。いずれにしても、予約はマストなので行きたい人は必ず予約をするように!
・今回訪問した店舗の情報
店名 鮨元
住所 千葉県市川市富浜 1-2-17 TO-MANA ビル2階
時間 12:00~15:00、18:00~21:00
定休日 水・日曜
※ 完全予約制、予約は専用サイトから