たとえば月曜日の通勤時に「このまま会社に行かずこの電車に乗り続けたらどうなるのか……」と思ったことはないだろうか。終点には言い知れぬロマンがある。
少し前に、通勤に使っている都営新宿線(京王線)の終点「橋本駅」まで行ってみた記事を公開したところ、読者の方からこんなメールが届いた。
「橋本へ行かれた記事、楽しく拝見しました。よかったら都営三田線の西高島平にも行ってみていただきたいです。成増への延伸が叶わず突然途切れた線路。不遇の都営三田線のどん詰まりを見ていただけたら嬉しいです」
実は3月に引っ越す前まで約20年間巣鴨に住んでいた私。都営三田線、バリバリ乗っていましたとも! でも、西高島平行ったことないな……。
なんとなく会社に行く気がしない金曜日、私は仕事をサボりに西高島平駅まで行ってみることにしたのだが……そこはまさに最果ての地であった。
・不遇の三田線、消えた埼玉延伸
読者の方からのメールにもあったように、もともと都営三田線(6号線)は1960年代の計画では、東武線で埼玉県方面へ相互乗り入れする予定だったらしい。
ところが、1968年に東武は「池袋を通らないルートであること」、「都心に向けて大きく迂回するルートであること」などを理由に三田線への乗り入れ計画を中止し、有楽町線を乗り入れのパートナーに選んでしまったという。
その後1972年にも埼玉方面への延伸計画が持ち上がったものの再び頓挫。三田線は西高島平駅から北は延伸されないまま……ということになってしまったらしい。
私自身も三田線ユーザーだったが、大きな繁華街やターミナル駅を通らないのでぶっちゃけ「地味な路線だな……」と思いながら乗っていた。まさか、そんな過去があったとは。都営三田線、なんて切ない路線なのだ。
・東京の地下鉄でもっとも北にある西高島平駅
というわけで久しぶりに三田線へ乗車。北は「志村坂上」までしか行ったことがないが、ひたすら住宅地が続く……というイメージである。電車は新板橋を過ぎたあたりからどんどん人が少なくなっていく。
高島平といえば、有名な高島平団地。高島平駅も新高島平駅も西高島平駅も、団地がある場所として想像している。ネーミングが似すぎていて、それ以外は何も想像できないのだ。
電車は志村坂上を出ると地上に出て……住宅地が広がる。高度経済成長期からバブルにかけて住宅が作られたんだろうな……と、日本の発展を思わせる景色である。
高島平駅からは、団地群が見える!! これが有名な高島平団地か〜!
車窓にはひたすら並木道と住宅街が続き……
車内にはほとんど人がいなくなった。
そしてついに、終点・西高島平駅に到着である……!
・最果ての線路を見に行く
平日の昼間、西高島平駅で降りる人はわずか。
電車はそのまま車庫に入る……ということで、ホームにはほとんど人もおらず、写真を撮ってるうちに私だけになってしまった。
読者の方が言っていた、突然途切れた線路を見に行く。たしかにこのままどこかに続きそうに見えるが、すぐ目の前を首都高が突っ切っている。
周辺地図を見るが……近くに観光名所的なところはあまり無いようだ。
改札は一か所だけ。実は西高島平駅は、1976年に都営地下鉄初めてとなる自動改札機が試験設置された場所らしい。
・駅の外へ
駅を出ると、まず見えるのが首都高と高架。
反対側には大きな物流センターがあり、トラックがたくさん停まっている。
そして駅を出てすぐの歩道橋にのぼるとすぐ目の前に三田線のホームが見えて……。
さらに、突然途切れた線路が目の前に見えるのだ!
下から見るとこんな感じ。
見よ、これが三田線のどん詰まりだ!
・限りなく埼玉に近い東京
西高島平駅は東京の地下鉄でもっとも北に位置しており、実は埼玉県戸田市とほど近い。
つまり、三田線の果てでもあり、東京の果てでもあるのだ。
西高島平駅のすぐ近くにある笹目橋という大きな橋を渡り、荒川を越えるとそこは埼玉県・戸田市だという。
橋を渡り、実際に埼玉県との県境まで歩いて行ってみることにしたのだが……
そこに広がる荒川の河川敷の景色は、私がまさに憧れた「会社をサボって眺めたいのどかな終点の景色」であった。
荒川の向こうに、東京都心のビル群が見える。
空は青く、川には午後の光が反射し、緑が眩しい……。
すぐそばには、草野球ができそうなフィールドがある。仕事をサボって見るには最高の景色である。
ああ、ここで缶コーヒー片手にサンドイッチでも食べて、のんびりしたい……。
だがしかし……この日はとんでもない強風。とてもじゃないけど河川敷でのんびりなどできない。
理想的な景色に心躍ったが、すごすごと東京へと戻ったのだった。
・トラックと自転車が多い
ちなみに、西高島平駅周辺で商店街や飲食店を探したのだが、どうにもこうにも見つからない。広がるのは住宅街と倉庫街ばかりである。
どうも駅前のセブンイレブンが生命線らしく、お客さんがひっきりなしにやってきて列をなしていた。
このあたりは物流の要地らしく、道路はとにかくトラックがブンブン走っており、人よりトラックのほうが多いようにすら感じた。
道行く人の多くが自転車に乗っていた。ネットで調べたところ、スーパーが近くにないらしい。買い物は一つ前の新高島平方面に行くのだろうか。
そんな中、住宅街の中で平日にも関わらず大行列の店が。「ブラウンオニオンカレーファクトリー」というカレーの名店らしい。
カレー好きとしてはめちゃくちゃ気になったのだが、この日は時間がなかったため断念。またリベンジする日は来るだろうか。
初めて降り立った西高島平駅は、のどかな東京の最果ての駅だった。荒川の河川敷の景色はのどかでとても美しく、しばし都会の喧騒を忘れさせてくれる。(ちなみに、荒川を渡った向こうにはボートレース戸田もあるぞよ)
2023年、三田線の南側は東急線を経由して相鉄線との乗り入れが実現した。果たして、都営三田線がいつか埼玉方面へとつながる日はくるのだろうか……。そして、埼玉へとつながったらこの景色もまた変わるのだろうか。
参考リンク:都営交通
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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