ヘア・サロン夢屋は入った途端に息を呑む。赤い壁紙と赤い床に囲まれた空間に、天井から吊り下げられた大きな丸い鏡と昭和レトロっぽい緑の椅子。1960〜70年代を彷彿とさせるサイケデリックな店内には、タイムスリップしたかのようなアイテムと、度肝を抜くエロポップな小物たちが並んでいる。

そこのオーナーはこれまたインパクトのある夢 夢子さん。2000年にオープンして、今年で23周年を迎えるヘア・サロン夢屋。いかにして夢子さんの唯一無二の城ができあがったのだろうか。

大阪の中心地、御堂筋線心斎橋駅から歩いて5分。心斎橋筋商店街から2本隣りの笠屋町筋にある雑居ビル。その4階にヘア・サロン夢屋はある。階段を上ると、夢屋のロゴが描かれた赤いドアからは、すでに異様な雰囲気がかもし出されている。

いざ中に入ってみると……

目がチカチカするような、赤と緑の世界!

真ん中にはレトロフューチャー感ある丸い鏡が吊り下げられている。

見渡せば昭和レトロな棚や椅子などのアイテムがびっしり! ちょっとえっちなモチーフも紛れ込んでいる。

そもそも、この壁紙は赤なのか、朱色なのか、紫か、はたまたピンクなのか?

圧倒的な世界観にしばし呆然としてしまうのだが、出迎えてくれるオーナー夢 夢子さんの存在感も半端ない。もはやいつの時代の人かわからない、とにかくタコのモチーフが好きだという夢子さん。

そもそも彼女は何者なのだろうか。気になりまくるその実態に迫ってみたい。



・雑誌『CUTiE』に載った思春期時代

大阪生まれ大阪育ち。中学生の頃から古着好きで、スタイリストを目指していた夢子さん。アメ村に通っていた当時、雑誌『CUTiE』の「アメ村で見つけた可愛い髪型コーナー」にマッシュルームカットのスナップ写真が掲載された。その中で「憧れの芸能人の髪型は、志村けんさん」と尖った答えをしているのは若気の至りだそう。

最初はスタイリストを目指していたのだが、ネットもない時代でなる方法がわからず、またオリジナリティを求められる仕事だと思い断念。美容師を目指すことに。高校を中退し美容師学校に進み、ヘアセットのみの美容室に勤める。

その後はカットありの一般的な美容室に勤めるが、拘束時間が長く大変だったため、美容業界から1度離れスーパー銭湯の番台などをして過ごす。


・大金が転がり込み、ヘア・サロン夢屋オープン

半年ほどアルバイトをしていた頃、そこそこの大金が転がりこみ、念願の自分の美容室を持つことになった。というのも、勤めていた美容室に未練もなく、働きたい美容室も別になかったので、飽きないように自分が好きにできる店を持とうと思っていたのだ。

さっそく物件を探す。内装を担当してくれたのはスナックのバイトで出会ったお客さん。内装業をしている彼は、若い人を応援したいと相談にのってくれ、夢子さんの持っていたピアスをモチーフにした鏡も作成。夢屋のシンボルとなる吊り下げ丸鏡が誕生する。

2000年にヘア・サロン夢屋をオープン。コンセプトは元々好きだった1970年代。店名の由来は悩みに悩んで、100個ほどの候補からヘア・サロン夢屋に決定。

最初の1年は本名で働いていたが、個人情報の観点から「夢 夢子」と名乗りはじめる。



・つきあった男によって変わる定休日

オープン当初は「要予約・不定休」だったが、暇な割には毎日というのがしんどく、当時つきあっていた恋人に合わせ、水曜を定休日とする。

その後、木曜休みの男とつきあったため、定休日も木曜に変更。しかしその次の恋人が日曜休みだったため、さすがに日曜を定休日にすることはできず、不定休に戻す。それ以降は恋人が変わっても不定休のまま続けている。

「もっと男によって変えときたかったですね」と漏らす夢子さん。


・来たことがない人からの紹介が多い店

オープン時は、近くの古着屋にチラシを置いてもらったりして宣伝。また、関西のファッション・カルチャー誌『カジカジ』のヘアー雑誌『カジカジH』にオープン情報を載せてもらってから、ほぼ毎回掲載されたことによりお客さんが増えていく。

ヘア・サロン夢屋の魅力のひとつであるホームページもその頃作成。今でも令和とは思えない仕上がりに、見にくくはあるがついついクセになり、時々覗きにいってしまう。

一番多いお客さんは、来たことのない人からの紹介。「あなたこんなの好きそう」とか、「ちょっと行きにくいから先に行ってみて」など、ヘア・サロン夢屋に来たことがない知人・友人にすすめられて訪れる人が圧倒的に多いという。なんともヘア・サロン夢屋さんらしい面白いエピソードである。



・新たなジャンルのお店も思案中

カットはもちろんだが、ヘアセットも得意とする夢子さん。昭和レトロなヘアスタイルに、パーティー参加者だけではなく、個性的な結婚式を演出したいという新郎新婦自身の依頼も多い。

コロナ前は「出張夢屋」として、さまざまなイベントなどで、前髪カットやプチヘアセットなどを行っていたが、今は縮小気味。再開を願ってはいるが、今は美容室じゃない新たなジャンルのお店を模索中。雑貨などを売ったりする、自由な空間を思い描いている。


・20周年記念テーマソング集

2020年には、20周年を記念したシングルカセット『ヘア・サロン夢屋創業20周年記念テーマソング集』を発売。東心斎橋を代表するミュージシャンによる豪華な楽曲で、両A面カラオケ付きのカセットというのが心くすぐる。YouTubeでも聞けるので、ヘア・サロン夢屋の世界に浸って欲しい。



・オリジナルヘアケア

2022年にはオリジナルヘアケアを発売。シャンプー、トリートメント、オイル、ヘアミルク、バームがあり、シャンプーはしっとりめのアミノ酸系ノンシリコン。ラベルはどれもヘア・サロン夢屋らしさが爆発の、昭和レトロ&サイケなデザイン。ものによっては2種類あるので好みを選べる。銭湯に持って行って、それみよがしに自慢したいラインナップ。

この他にも夢子さんが海外で仕入れてきたヘアグッズや雑貨を販売している。

パンチ力があり一度行ったら虜になるヘア・サロン夢屋。かくいう私も大阪に行く際は必ずといっていいほど通っている行きつけのお店だ。

個性的なヘアスタイルにしてくれるうえ、夢子さんのおもしろエピソードを聞くのも楽しみで、1対1というプライベートサロンで色んな話に花が咲く。恋愛相談をしにくるお客さんもいるんだとか。

昭和レトロやサイケ好きには絶対行って欲しいし、気になる人にも勇気を持って訪れてほしい。唯一無二の世界を猛進する、ヘア・サロン夢屋と夢子さんの今後も楽しみである。


・今回訪問した店舗の詳細情報

店名 ヘア・サロン夢屋
住所 大阪府大阪市中央区東心斎橋1-14-19三河ビル4階
時間 12:00~
定休日 不定休 / 要予約

執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

▼モノクロで粋なヘア・サロン夢屋のポスター。かくて私がヘア・サロン夢屋を知ったのも、大阪の古着屋にあったフライヤー。心惹かれ勇気を出して訪れたことにより、今では行きつけの美容院に

▼トイレもアヴァンギャルド! 昭和が炸裂していてついつい長居してしまう

▼20周年記念に作成したテーマソング集のポスター

▼ヘア・サロン夢屋創業20周年記念テーマソングCM「夢屋へ行こう」

▼ヘア・サロン夢屋創業20周年記念テーマソングCM「夢屋で待つわ」

▼メイクで使うふわふわブラシ。さすがヘア・サロン夢屋にあるだけあってヴィヴィットカラー

▼ヘア・サロン夢屋には、この石鹸のようなモチーフがたくさんある。私は緑色を購入したが、なかなか使えない……! ヘアクリップは毎回必ず購入し、めちゃ重宝している

▼将棋と碁のマドラー。可愛すぎる!

▼ヘア・サロン夢屋十六周年記念四十八手てぬぐい。私も大量買いして愛用中。人気により今年ふたたび販売を開始した

▼ヘア・サロン夢屋のInstagramと夢子さんのX(Twitter)も是非チェックして!

▼ヘアセットでスーパー夜会巻きにしていただいた。宇宙人のような仕上がりに大満足!