私は子供の頃から片付けが死ぬほど苦手で、上京してから20年近く散らかった部屋に住んでいた。だいたい5年ぐらいかけて、部屋を片付けてちょっとずつ人生がマシになっていった。その経験を語るこの連載。第2回は部屋が汚いことによって起こった負のスパイラルを紹介した。
今回は、27歳で恋人ができたことにより一念発起して部屋を片付けたときの話をしたい。
困ったことに、その人の家に遊びに行ったらオシャレで片付いた家であったのである。その人が家に遊びにくることになって、私は1ヶ月かけて部屋を掃除することにしたのだが……。
・毎日コツコツ片付け
30代を前にして手に入れた恋である。今となっては「まだ全然若いじゃん」と思うのだが、これがダメなら婚期を逃すのではないか……という不安もあった。
当時はまだ30過ぎたら結婚相手探しが難航するという風潮が強かったのだ。
私は人生で初めて片付けというものをした。恋愛初期のハイな気分も相まって、仕事から帰ったあと、毎日30分から1時間かけてコツコツと部屋を片付けた。片付けたつもりだった。
まず、明らかなゴミを捨てる。廊下に出しっぱなしになっているダンボールの中身を出して、ダンボールを捨てる。そして床に落ちている服などを畳む。出しっぱなしになっている物をテトリスの要領で棚に押し込む。
玄関からベッドまで障害物がなく、まっすぐ歩けたときは感動すらおぼえた。
ここまで書いて分かると思うが、私は物をしまいこんだだけで、明らかなゴミ以外は捨てていない。それでも私は部屋を片付けられたと思ったのだ。
以前の、何をすればいいのか分からず、物を右から左にただ動かすだけのムーディ勝山時代に比べれば確実に進化はしているのだが……。
・家に来た相手は…
さて、まだ粗はあるものの、一応部屋を片付けて、恋人を家に招いた。ただ出してあったものを片付けただけの、インテリアもへったくれもない部屋である。当時はインテリアとかほとんど興味なかったし、そんな余裕もなかったんだけど。
相手は私の家を隅々までチェックするようにキョロキョロと見渡した。……表情から察するに、私が想像していたようないい反応ではなかった。
「なんか……物が多いね」と言われたような気がする。そして、相手にとって私の家が相当お気に召さなかったのか「頭が痛い」といってベッドで目をつぶったまま、ほとんど出かけることもなかったのである……。
さらに、エアコンの上にホコリが溜まっているのを発見し「ドラッグストアにブシューっとやるだけでエアコンがきれいになるスプレーあるよ」と、実にありがたいアドバイスをくださった。
今にして思えば、恋人とはいえ他人の家に来て「エアコンのホコリを指摘する」とか「物が多い」と言ってくるだなんて、めちゃめちゃ失礼だと思うのだが、私は「幻滅された……」とひどくショックをうけた。
よっぽど私の家がお気に召さなかったのか、その男性からは連絡も途絶え、別れ話の電話するのすら一苦労だった。部屋の片付けはできても、そっちの片付けはちゃんとできねえのかよ!
・深く残った傷
重い腰をあげてせっかく部屋を片付けたにも関わらず、部屋を見られて幻滅され、恋を失った。
この経験は私にとって深いトラウマとなり、片付けられないコンプレックスがさらに加速した。せめて片付けた状態を保てればよかったのだが、片付け方法も間違っていたのであっさりリバウンドした。
この片付けの何がダメだったのかは明確で、物を捨てるでも整理整頓するでもなく「物をただ奥にしまい込んだから」……これに尽きる。
テトリスのように棚の中に物を突っ込んでも、取り出しづらければ意味がないし、しっかり物の置き場所を決めなければまた散らかる。そんなことすら私は知らなかったのだ。
その後10年ほど、私はこの物をしまい込むだけの中途半端な片付けをしては、また部屋が散らかるという悪循環を繰り返すことになる。そして、それから7年間恋人もできず、趣味に邁進し、太り続ける日々が始まるのだった……。
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.