2023年8月11日から公開される映画『バービー』。8月6日の時点ではワーナー・ブラザーズ史上最速の売り上げペースだったそうで、欧米での人気は間違いないのだろう。

対して日本では、公開よりも前に大炎上。バービーと映画『オッペンハイマー』をかけ合わせ、原爆をミーム化した “Barbenheimer” ムーヴに対し、米映画公式アカウントが好意的に反応したのが原因だ。

良くも悪くも話題であることには違いない。そこで気になるのが、映画としてはどうなのかという点。一足先に試写会に参加させて頂いた結果……お、俺は今何を見たんだ? いったい何を見せられたんだ?

・日本は土台が弱そう

ぶっちゃけ言うと、私は “Barbenheimer” で炎上しなければ、本作を見ようとは思わなかっただろう。海外……特にアメリカではバービーこそが多くの女児にとっての定番のお人形だろうし、注目されるのは当然。

しかし日本で長らくその地位にいるのは、恐らくリカちゃん人形の香山リカ氏。次いでジェニー氏や、若い世代だとプリキュアの人形なんじゃなかろうか。


バービーが注目されるための土台が貧弱なので、順当に行けば今月はステイサムのサメ映画『MEG ザ・モンスターズ2』が全てを持っていくと思っていた。

それが大炎上して、今や国内のあらゆるメディアでバービーが登場。内容はほぼ “Barbenheimer” 事件についてなので公式的には全く嬉しくないだろうが、しかし注目度が高いという点に間違いはない。映画の内容が気になってきちゃったんだよなぁ。



・バービーランド

映画の舞台はバービーランドなる、これまでに販売された全てのバービーたちが暮らすシュールな世界。

現行のバービーもいれば、廃盤になったバービーも住んでいるもよう。あと、ミッジという妊娠したバービー人形のキャラがいる。

つまりバービーランドにいる女性は、99%がバービーで、あとは1人のミッジ。バービーがバービーに “Hi, Barbie” と挨拶し合うのだ。ちなみに主人公のバービーは、特に役職や技能を持たない金髪のバービー。

また、全てのケンたちと、アランという1種類しかいないらしいヤツも住んでいるので、バービーランドの男性は99%がケンで、1人だけアランがいるという感じ。狂気しかない人口構成だ。

基本的にバービーとケンはみんなパリピ気味。全てがピンク色なバービーランドで、毎日が日曜日みたいな生活を送っている。

そんなある日、主人公のバービーの足がハイヒールに適さないフラットな形状になり、完璧なはずの脚にセルライトができるという重大な事件が発生。


原因は、現実世界にいるかつてのバービーの持ち主に何かが起きているかららしい。そこで、バービーは問題を解決し、再びセルライトの無い脚でハイヒールを履けるようになるために現実世界に向かう……というのが導入だ。



・混沌

いわゆる頭がバービーなドタバタコメディなのかと思いきや、それとなく男女の格差問題とかも扱われる。

バービーランドはバービー(つまり99%の女性)が全権を握り、全てのケン(つまり99%の男性)はバービーの添え物的な世界。アランに至ってはケンの添え物で、ケンより立場が低い。

しかし現実世界では男性も普通に主役を張りがち。それをバービーについてきたケンが知り、バービーランドでケン達に啓蒙活動を行って、バービーたちに対しクーデターを画策するのだ。

しかしケンが現実世界から持ち帰ったイケてる男のイメージはかなり偏ったもので、シリアス感は皆無。最後はなんやかんやで上手いこと収まる。

流れだけ見ると上手いことまとまっている感があるのだが、そこまでのビジュアル的表現が、だいたい混沌に満ちている

特にケン達の言動が無邪気に狂っていてヤバい。急に全てのケンたちによる武富士のCM(知らない人はググってね)みたいなセンスの古いダンスが、びっくりするくらい唐突に始まるなどする演出によって、混沌は加速する。



そしてラストに主人公のバービーがする、ある決断と、最後の1コマ。完全に下ネタで締めた……ともとれるし、バービーが得た究極的で重要な変化を示すともとれる感じで、非常に技術が高い狂い方をしている。

この2時間弱を、どう受け止めたらいいのかわからない。まるで猛暑の夜に混沌が極まる悪夢にうなされるも、目覚めてみたらまあまあ楽しい夢だった気がする時みたいな体験だった。

これは評価が星5と星1に分かれて、平均で星3になるタイプの映画だろう。

1つ間違いなく言えるとすれば、それは主人公のバービーのファッションが、ダサすぎる80年代風レオタードとインラインスケートを除いては、だいたい可愛いこと。

主演のマーゴット・ロビーだから全部着こなせていると言えばそれまでだが、バービー人形のファッション性とはこういうものなんだろうなというのはよくわかった。

そうそう、今Googleでバービーと検索すると、画面がピンクになってピンクの星がバチバチするの知ってた? ダークモードでやると冴えないあずき色になる点に注意。


参考リンク:Instagram @barbiemovie_jp@bonjour_licca
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.