2022年8月に勃発した大家(管理会社)VS 私の立ち退きバトル。立ち退き料を支払わずに部屋から出て行ってもらいたい大家(管理会社)と、相場に見合った立ち退き料を受け取りたい私との争いについて、これまで何回かに分けてご紹介してきた。
今回はいよいよ完結編……と言うと、前回の記事を読んでくれた人は不思議に思うかもしれない。「大家との直接交渉が始まったばかりじゃない?」と。そう、たしかにラスボスである大家とのバトルが始まったばかりなのだが、今回で決着がつくのだ。なぜなら──
管理会社ナシで交渉したら話が早かったから
裏を返せば、私にとって管理会社は “話をややこしくするだけの存在” でしかなかった。また、大家側の立場に立っても管理会社が役立ったかどうかは微妙だ。管理会社が最初から丁寧に対応してくれていたら、私が弁護士のFさんに相談することは無かったのだから。
そんな管理会社を無力化できた(詳しくは第5話)ことで勝負は決まった。と思ったら、最後の最後で管理会社がまた毒ガス攻撃を仕掛けてきたのだが……それは追ってお伝えしよう。
・条件が一瞬で変わった
いよいよ始まった大家との交渉は、もちろん楽ではなかった。大家がなるべく立ち退き料を低く抑えたいと思うのは当たり前のこと。
今回のケースで言えば、大家は当初「立ち退き料は家賃3カ月分の範囲内から出す」と言っていた。これは私が考える最低ラインの半分なので、合意ポイントにたどり着くのは大変そうだったが……
ちょっと強めに「考え直してくれ」と言ったところ、立ち退き料が一気に家賃5ヶ月分まで増えたのだ。まさかのメール1ターンでほぼ倍増。言ってみるものである。
ただ、そこからは話が進まない。私が「立ち退き料は最低でも家賃6カ月分」と伝えても、大家側は「これ以上は公の判断を仰ぎたい」と、裁判を匂わせてくる。そこから何度かやり取りをして……
・決着
着地点を最初にお伝えすると、家賃5カ月分の立ち退き料に加えて敷金を無条件で全額返還してもらう条件で手を打った。敷金は家賃1カ月分なので、立ち退き料は実質家賃6カ月分って感じ。
おそらく、弁護士に交渉を一任するなどすればさらに有利な条件を引き出せたように思う。あるいは交渉が長期化してもいい状況だったら、もっと粘るという選択肢もあった。
しかしながら、私はなるべく早く決着させる必要があった。なぜなら、住所が決まらないと娘(当時8カ月)の保育園入園申請が出来ないから。もし申請の手続きが出来ない事態になったら……想像しただけで恐ろしい。今後のプランが狂いまくるだろう。
まぁ、そのあたりの損害も含めて大家に請求するという手もあったものの、となると裁判になる可能性が高かったように思う。
裁判になったらなったで費用はかかるし時間は取られるし何より面倒くさい。今はさっさと交渉を終わらせて引っ越したいという気持ちになっていた私は、上の条件で合意書にサインをするのが現状ベストだと判断した。
が、その前にひと悶着が。原因はまたしても管理会社である。
大家と私の直接バトルでは蚊帳の外にいた管理会社だが、妥協点が見つかった雰囲気になると再び登場。「じゃあその条件でまとめましょう」ということで、合意書が作られたのだが……。
サインする前に弁護士のFさんに内容を見てもらったところ、こう言われたのである。
Fさん「合意書案では『通常消耗および経年を除く汚損について当方の負担』となっておりますが、これでは和才さんの故意・過失に基づくものか不明な場合でも負担の対象となりますので、故意・過失の汚損に限定した場合よりも負担の範囲は広がります」
──え!?
Fさん「原状回復義務を完全に免責する場合でない限り、どのような条項であってもふっかけられる可能性は残ります。費用に納得いかなければ、改めて裁判等で争うほかありません」
──おのれ、管理会社め。メールの話し合いでは「原則的に敷金は全額返金」と言っていたのに、合意書ではなぜか私が不利な条件になっているではないか。
ブチギレた私は管理会社に「話が違うだろ!」と抗議したところ、「部屋の原状回復義務を完全に放棄する」という条項が合意書に加えられた。こうして、立ち退き料は実質家賃6カ月に落ち着いたのだった。
・もう1つの目的
立ち退き料の金額を見ると、最低ラインだけは何とか死守した形。だが、思い出して欲しい。第2話などでお伝えしたように、管理会社は「立ち退き料は家賃の2〜4カ月+αで大家に打診したい」と言って譲らなかったのだ。
それが実質家賃6カ月分で落ち着いたことを考えれば、交渉して本当に良かったと思う。まぁ終わってみれば「もっと上手いやり方があったよな」と思うが、それを言い出したらキリがない。
法律の素人である私が、裁判をすることなく「損はしない」というラインだけはギリ守れたのである程度満足はしている。それだけではない。実は、立ち退き料以上に私が満足しているポイントがある。何かというと……
合意書に口外禁止条項が無いこと
──正確に言うと、「人に言ったらダメ」となる前にサインしたという方が正しい。これがもし裁判になったらほぼ試合終了である。また、話し合いがややこしくなると口外禁止の条項が合意書に加えられる恐れがある。
しかし私がサインした合意書には……ない! よって、記事に出来る! 記事に出来るということは、今回の私の経験が誰かの役に立つかもしれないということ。そうなったら、ライターとしての私は大勝利なのだ。
というわけで、私の立ち退きバトルの記録をあますことなく執筆してみた。「今まさに戦っている人にとっては詳しく書いた方がいいかな?」と思っているうちに記事7本分にもなったことは自分でもビックリだが、ようやく終わりが見えてきた。
これまでお付き合いいただきありがとうございました。本記事もまた、締めのフレーズはいつものアレでいきたいと思います。このクソ長いシリーズを読んでくれた方はご存知……ですね? いきますよ〜
それでは皆さん、良い週末を〜!
執筆:和才雄一郎
Photo:RocketNews24.
▼メールのやり取りはこんな感じ。第6話の流れで、私が管理会社に送ったもの。すると……
▼管理会社からのメール。立ち退き料は一瞬で家賃5カ月分に。なお、なぜか大家側は「退去したら部屋の使い道について文句を言うなよ」的な条件を付けてきた。それくらい全然構わんが……なぜ? 資金云々が本当なのかは謎
▼私から管理会社へのメール。なんとか6カ月分にならないか粘ってみたが……
▼管理会社からのメールを読むと、これ以上プッシュしたら時間がかかりそうな空気。なので家賃5カ月+敷金の全額返金で手を打つことに
▼管理会社からのメール。「原則的に敷金は全額返金」と言っているのに、いざ合意書を見たら……
▼なんでやねん。抗議したら「部屋の原状回復義務なし」となったが、管理会社は最後まで油断ならなかった。
※以下に「これまでの大まかな流れ」を記載している。気になる人はどうぞ!
【これまでの大まかな流れ】
・2022年8月、マンションの管理会社から私のもとに退去依頼のメールが来る。
↓
・私が弁護士のFさんに相談したら「納得できる金額の提示がなければ退去要請に応じる必要はありません」との助言(詳しくは第1話)
↓
・立ち退き料の交渉をすべく管理会社に連絡してみると、担当者からは「私が話をまとめましょう」との心強い返事。しかしメールの下の方に「立ち退き料は家賃の2〜4カ月分プラスαで打診する」との記載が。
↓
・立ち退き料の提示額を管理会社に勝手に決められて焦った私は、返事を保留。同時に弁護士のFさんに相談すると「今回のケースの場合、感覚的には家賃の6カ月分から交渉スタートで、そもそも大家さんが自分で部屋を使用する必要性が認められない可能性を踏まえると、さらなる上乗せが必要という感覚」とのお返事(詳しくは第2話)
↓
・管理会社と弁護士で意見が合致しないため、私が管理会社に「『立ち退き料は家賃の2〜4カ月分プラスαで打診』と記載されてましたが、2〜4カ月+αが適切だとする根拠は何ですか?」とメールで質問。
↓
・相手の返事は「根拠はない」。その返信メールでは今までと雰囲気が一変し、「立ち退き料が0円になるかも」「住みにくくなるかも」などの文言があってビビる。
↓
・不安になった私は、弁護士のFさんに「このケースで立ち退き料が0円とかあるんですか?」と質問。すると、「今回のケースで0円というのはほぼあり得ないと思います」との回答(詳しくは第3話)
↓
・弁護士のFさんの返事に安心した私は、管理会社に対して「立ち退き料は家賃2〜4カ月分プラスα」だと主張する根拠を再び聞く
↓
・管理会社の回答を見て私ブチギレ。担当者を代わってもらうよう要請する(詳しくは第4話)
↓
・管理会社からの「社員1人の会社なんで」という回答に「マジかよ」となる(詳しくは第5話)
↓
・ようやく大家と直接やりとり出来るようになったが、入居時にサインした契約書に「立退料は一切を請求しない」的な条項があることを大家に突っ込まれて大混乱。なお、大家が提示した立ち退き料は家賃の3カ月分で、こちらが交渉開始ラインと考える金額の半分以下。
↓
・弁護士のFさんに相談したことで、「立退料は一切を請求しない」という条項が無効だと知る。管理会社のやり方にまたしても私ブチギレ。先方の要求をつっぱねる(詳しくは第6話)
↓
・最悪な雰囲気のまま大家と立ち退き料をめぐる交渉がスタートするが、要求をつっぱねたら「立ち退き料は家賃の5カ月分」
↓
・軽く粘ってみたが、それ以上の立ち退き料を求めようと思ったら裁判になる可能性があったので、立ち退き料は家賃の5カ月分+敷金の全額返金で手を打つことに
↓
・契約書を見たら敷金の条項が聞いてたものと違ったので猛抗議
↓
・管理会社が「部屋の原状回復義務を放棄する」という項目を加えたので、合意書にサイン。後日、立ち退き料と敷金全額が振り込まれたことで立ち退きバトル終了