今、ステーキチェーンとして絶対的な知名度を誇るのは「いきなり!ステーキ」であろう。オープン時から現在にいたるまで、何かと話題に事欠かないその姿は “ステーキ界の沢尻エリカ” と言っても過言ではない。

だけど、私は長年気になり続けている店があった。その名は「ビリー・ザ・キッド」。首都圏を中心に展開している老舗のステーキチェーンである。下町のあたりを散歩していると出くわすことが多い。

「いきなり!ステーキ」もいいけど「ビリー・ザ・キッド」も実はすごいんじゃないか? ビリーのことを何も知らないが、実際に行ってみることにしたら……衝撃の連続であった。

・昭和を感じさせる店構え


ビリー・ザ・キッド。物好きな人ならこの名前にピンと来るだろう。アメリカの西部時代に21歳で射殺されて生涯を終えるまでに、8人を殺した伝説のガンマンであり、盗賊の名前である。

西部劇で人気のキャラクターの名前をわざわざつけるくらいなので、店構えは実に男臭い。赤地に白で「ビリーザキッド」と書かれた看板の書体もどことなく懐かしさを感じさせる。創業1977年らしいので、「いきなり!ステーキ」よりもずっと歴史があるのだ。

驚いたことに、東京・千葉・埼玉・神奈川に22店舗もあるらしい。私が訪れたのはJR駒込駅から徒歩5分ほどの場所にある駒込店。西部劇に出てきそうな扉を抜けて、階段をのぼろうとすると……

めちゃくちゃプロレス興行のポスターが貼ってある。硬派!

店内もまさに西部劇に出てくるバーを思わせるような内装。……というか、懐かしい。昭和のレストランの香りが残っているのだ。


・メニューが硬派すぎる


さてはて気になるメニューであるが……めちゃめちゃ厳選されている! 基本はステーキかハンバーグ。サイドメニューやドリンクもあるけれど、デザート系はなし。ファミレス的な「あれこれ色々選べまっせ」感はなく、完全に肉で勝負してきている。

名物は450gの「テキサス・ステーキセット」(4200円)らしいのだが、450gもお肉を食べられないので、半分の225gの「キッド・ステーキセット」(2300円)と激辛らしい「メキスープ」(700円)を注文。ライス、サラダ、コーヒーもついてきてこの値段はかなり良心的なのではないだろうか。


ドドーン!

ワイルドだろ〜!? と思わず言いたくなるワイルドさ。肉の部位がたくさんの中から選べたり、グラムが細かく選べたりってことはないけど、ステーキって、こんな感じだよね。

ステーキについてるのは下味だけで、卓上の調味料を使って自分で好みの味付けをする感じ。塩、醤油、ニンニク、マスタード、ウスターソース、唐辛子はあるけど、ステーキソースはなかった。意外。硬派!

焼き加減はミディアムレアで注文。赤身が好みで脂っこいのが苦手な私は好きな感じ。お肉はまあまあ柔らかいし、この値段にしてはじゅうぶん美味しいのではなかろうか。ワイルドに肉をがっつける喜びにあふれている。

以前「いきなりステーキ」でヒレカットステーキを食べたときに「こんな硬いヒレあんのかよ……」と心の中でキレたことがあるけど、個人的には同じくらいの値段出すならビリーのステーキのほうが好きだなと思った。


・ひたすらにメキシカンで西部風


そして、セットでついてくる「メキサラダ」はその名の通りメキシカンな風味で美味しい……。トマトやサルサソースみたいな甘い味がするのだ。

一緒に注文した激辛の「メキスープ」はマジで地獄みたいな赤黒い色をしている……! トマトスープベースのような甘さがあるけど、かなり刺激的な辛さ。

美味しいけど、飲んでるうちに胃が燃えるようになってくる。激辛スープにでっかワイルドなステーキ。ああ、硬派。こっちに容赦なく、ハードボイルドな世界観でガンガンくる感じ。今では珍しいのではないだろうか。駒込にいるにも関わらず、まさに荒野のガンマンみたいな気分になってくるぜ……。


・営業時間がすごい


さらに、店内の掲示物を目にして驚いたのが……営業時間である! なんと、夜6時から深夜3時まで

調べたところ、店によって多少前後するものの「ビリーザキッド」全店、このような夜〜深夜にかけての営業時間になっているようだ。コロナ禍で風前の灯となった深夜営業が生きているのだ。

私が入店したのは夜9時ごろだったのだが、時間が遅くなるにつれて人がどんどん入ってきたのには驚いた。どの店もそこまで駅チカではなく、繁華街から少し離れた場所にあることが多いにも関わらず、この振り切った営業時間である。


思えば東京という場所は荒野に似ている。疲れた夜、終電も過ぎたころ人気もまばらな道で店の看板が灯り、ステーキを焼く香りが漂ってきたら……。きっと抗えない。

深夜に薄暗い店内にふらりと店に入って巨大なステーキにかぶりつき、グイッと酒を飲む。大人だけに許された夜の慰めだ。本当に西部劇さながらの世界である。なんてドラマティックなんだ。

「いきなり!ステーキ」の騒動もどこ吹く風で、こうした硬派な世界観とメニューを40年以上に渡って守り抜き、首都圏に22店舗もあるというのはなかなかすごいことのような気がする。私は「ビリー・ザ・キッド」に失われしダンディズムを見た。

疲れた夜は、男も女も黙って「ビリー・ザ・キッド」……ふとそんな言葉を思った。カランコローン(店を出る音)。


参考リンク:ビリー・ザ・キッド
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.

▼華やかな街よりちょっと下町に近いエリアに多い。渋い。