いつも妄想している。
ありとあらゆるものがミニチュア化されているカプセルトイの世界。実在のチェーンやブランドとコラボしたアイテムも無数にある。
ガチャで出た家具・家電だけで家が1軒再現できるんじゃないか……あるいはミニチュアフードだけで朝昼晩の食事メニューが組めるんじゃないか……想像し始めると止まらない。いつか試してみようと思っていたのだが、ついにその機会がやってきた。
・ガチャで出た食べ物だけで過ごす
地方在住ライターの筆者は所用で首都・東京に来ていた。カプセルトイの専門店も多いし、地方に進出していない飲食チェーンもたくさんある。このゲームには、おあつらえ向きの舞台だろう。
ただいまから東京離脱まで、ガチャマシンを回して出たメニューのみを食べて生きる! ただし脱水などに備え、水や無料サービス品は口にしてOKとする。そのほか自らに課したルールは3つ。
●ひとつのガチャマシンにつき、カプセル入手はひとつだけ
●カプセル開封は当該の飲食店の前で行う
●それを食べない限り、次のガチャを引けない(複数カプセルを予備でキープするのは不可)
もし無限に引けたらゲーム性がなくなってしまうし、我ながら、なかなかいい “縛り” なんじゃないかな?
・有明で開幕した第1戦
この日の訪問地は有明。当サイトの記事を読んで以来、興味津々だった「SMALL WORLDS TOKYO」へ遊びに行くためだ。
朝食まではホテルで食べてしまったので、昼食からチャレンジスタート。時間的にはまだランチには早いのだが、朝食後のコーヒーとちょっとしたデザートが欲しい。
たしかサンマルクカフェやコメダ珈琲店、ドトールなどのカプセルトイが存在するはずなので、それを期待してカプセルトイ専門店「ガシャココ 有明ガーデン」にやってきた。
あるぞ、あるぞ! ずらりと並んだガチャマシン!!
おや???
これだけたくさんのマシンがあるのに、フード系はあまりない?
おっ、これはフードだ、と思ったがマンガメシだった! コラボカフェにでも行かなければ、この世に実在しない食べ物だ。
ミスド! これはいいかも! コーヒーは見当たらないけど、この際ドーナツだけでも食べるか。
と思ったら、有明エリア、ミスドない────!? そうなの!?
盲点だった。あまりにバラエティ豊かになっているカプセルトイ界隈。たとえば「キャラクターものだけ」「生き物だけ」「ネタ系だけ」などと相当ジャンルを絞っても、専門店が成立してしまうほど多種多様なのだ。
「ガシャココ 有明ガーデン」はキャラクター系が中心で、リアル系の設置は少なかった。こういうこともあるのかぁ……。やむなく “10時のおやつ” はお預けのまま「SMALL WORLDS TOKYO」を見物した。
・新橋でリベンジ、第2戦
エヴァンゲリオンやセーラームーンなどマニア垂涎のミニチュア世界を堪能した後、ゆりかもめで新橋まで戻ってきた。
さすがに空腹になってきたので昼食にしたい。ここJR新橋駅には「ケンエレスタンド」があるのをチェック済み!
「ケンエレスタンド」とは、超絶リアルなカプセルトイを生み出す株式会社ケンエレファントの専門店だ。価格帯もちょっとだけ高めで大人向けなので、キャラクターグッズしかないという事態には陥らないはず。
お、これはどうだろう? KUA`AINA(クア・アイナ)とは、ハワイアングルメバーガーのお店だという。大都市圏にしか店舗がないようなので、筆者は知らなかった。食べてみよう!
500円を投入して、1カプセルをゲット。最寄りの店舗は……丸の内だ!
東京駅にはなんの用事もないが、クア・アイナに行くためだけに電車で移動だ。なんだかRPGのクエストをこなしているようで楽しくなってきた。
地方民にはダンジョンのように感じられる東京駅を通り抜け、「丸ビル」こと丸の内ビルディング5Fを目指す。
あった! 南国らしくカラフルで、めちゃくちゃ存在感がある店舗だ。間違いない。
なるほど、いかにもアメリカンでボリューミーなグルメバーガーだな。シューストリングのフレンチフライも美味しそう!
では、カプセルを開けるぞ。ここはやっぱり看板メニューのバーガーが出て欲しい!
100歩ゆずってポテトでもいいけど、「ビックウェーブ ゴールデンエール」とセットでデザインされているので、ビール苦手な筆者はちょっとキツいかな。
そうれっ!
出てきたのは……「パンケーキブリュレ」!
あああぁぁぁぁ! 悪くはない、悪くはないけれど、パンケーキも大好きだけれど、いまは昼メシが食べたいんだぁぁぁ!
しかしルールはルールなので、パンケーキブリュレ・ドリンクセット(税込980円)をオーダーした。
運ばれてきたのは、パンケーキ&山盛りのホイップクリーム&アイスクリーム。メープルとココナッツシロップは別添え。見比べるとカプセルトイそのまんま! 今さらだけれど、再現度がものすごい!
コーヒーはマグカップじゃなかったけれど、雰囲気はばっちり。ケンエレファントすげー!!
さらにパンケーキはふわっふわ! ブリュレの名のとおり、パリパリのカラメルが食感にアクセントを加える。
生地もシロップもクリームも、すべてが甘いんだけれど重くない。なにこれ旨すぎる!
ボリューム感のある外見に反してペロリといけた。もんのすごく美味しかった。来てよかったぁ!
ただし夕飯はしょっぱいものが食べたいな。
な~んて贅沢なことを思っていたが、後から恐怖の事実に気づいた。カプセルトイ全5種のうち、なんと食べ物じゃないアイテムがひとつあった。「クア・アイナ看板マグネット」である。
こ、こ、これが出なくてよかった……! 今さらだけど震える! 神様ありがとう!! 丸ビルまで行って、なにも食べずに引き返すところだった。
・東京駅で先取り第3戦
ところで、ケンエレスタンドは東京駅にも存在する。これから向かうのは千葉方面なのだけれど、ちょうどよくカプセルトイ専門店があるとは限らないので、夕飯分をここで回してしまおう。
ずらりと並んだガチャマシン。選択肢はいろいろある……が、とにかくしょっぱいものを所望。
かつ、滞在地の近くに店舗を見つけやすいブランドでなければ。もし「日本全国フードチェーン」でJefの「ぬーやるバーガーセット」なんて出してしまったら……沖縄に着く前に空腹で死んでしまう。
これはどうかな? 行ったことはないけれど、ティーヌン? 美味しそう。
しかし夕飯の時点でどこにいるかはっきりしないから、ここは無難に「吉野家」にしよう! 吉野家がない繁華街は考えにくいからな。
500円を用意した筆者だったが、ふと手が止まった。過去にも回したことがあるのだが、吉野家のカプセルトイには第1弾と第2弾がある。
第2弾は全5種のすべてがフードメニュー。運がよければ「牛すき鍋」が出るし、ひとつだけテイクアウトセットだが、食事であることに変わりはない。
対して第1弾は、全5種のうち「冷酒/生姜」「おうち吉野家(冷凍食品)」があるので、食事は実質3種なのだ。5つのうち、当たりは3つ……
ここは、確実に夕食にありつける第2弾にするのが賢い選択であろう。しかし筆者の中のギャンブラーの血が「第1弾に賭けて当たりを引いたほうが気持ちよく食べられるんじゃないのぉ?」とささやく。
敬愛するゲームクリエイター桜井政博氏も、ゲームのおもしろさとは “リスクとリターン” だといつも述べている。
試してみたい……自分の幸運を。感じてみたい……“もってる” 人生を。マシンの前で逡巡する筆者。ざわ…ざわ…
ここは勝負だ! 5つのうち3つが当たりである第1弾のカプセルを手にし、筆者は東京駅を離れた。
・いざ、決戦のとき
日も暮れた船橋。腹もちのするパンケーキであったが、さすがに空腹になってきた。行こうじゃないか、吉野家へ。
ちなみに時刻を考えると、どこかへ移動してカプセルを引き直すのは事実上不可能だ。勝負はこの1回。緊張感が高まる。
幸いにも宿泊地のすぐそばに店舗が存在した。いざまいる……
どうだ、どうなんだ。普通に考えれば勝率は60%。当たりのほうが多いのだから、難関というほどでもない。とくに戦略を練らずに引いても、多くの人が食事にありつける計算だ。
ちらりと見えるのは、商品の成分表示らしき極小の文字列。まさか、これは、見覚えがある。
ウソだろ……
ウソだと言って……!
これは「おうち吉野家(冷凍食品)」……!!!!!!
旅行中なので冷凍食品を保管&調理できないことに加え、吉野家の店舗では販売していないのでこれは無効ぉぉぉ! 捨て札である。
近くにカプセルトイ販売店があれば再戦もできるが、すでに時刻は21時。ホビー系のショップは軒並み閉店している。つ、詰んだ……!
・翌日に起きた奇跡
翌朝、どん底テンションのまま幕張で取材をこなす筆者。今日も活動するので、手持ちの菓子はセーフにしていただきたい。ここ数日「大雪で列車が立ち往生」などのニュースが多いので常備していたものだ。
さらに別記事でレポートする予定だが、宿泊したホテルに無料ドリンクバーがあったので命拾いしている。
普段から食事が不規則なので空腹感はそれほどでもないが、気分の落ち込みは相当なものである。2月の東京、意外に寒い。心も寒い。なにか温かいものが食べたい。
取材を終えた昼前、東京滞在のリミットが近づいてきた。筆者は最後の賭けでイオンモール幕張新都心「ガチャガチャの森」にいた。
幕張は東京じゃないだろ、という声もあろうが、ディズニーランドだって千葉なのに東京と名乗っているのだから許されるだろう。
店内には無数のガチャマシンが並ぶ。経験的にイオンのカプセルトイ専門店は幅広い客層に向けて多ジャンルを取りそろえる。その読みは的中!
「Denny’s」「松屋」「サイゼリヤ」「ガスト」もう、よりどりみどりである!
そして見つけた「吉野家」の第2弾────! 全5種すべてが「当たり」のやつだ。筆者はカプセルひとつを握りしめ、幕張を出た。
ところ変わって羽田空港。ターミナルに吉野家が出店していることはチェック済みである。ひもじさで気持ちは急くが、すべてが食事だとわかっているので開封時の安心感は段違い。
出たのは、もっともゴージャスなメニューと言える「牛すき鍋」!
これだけでも十分満足だが、ここでもうひとつの奇跡が筆者を待っていた────
料理とは別に同梱されていた見慣れないパーツ。
これはもしや……ラッキーアイテム「四十七の瞳 おたま」!? 牛丼を盛りつけるのに最適な、47の穴があいた秘密道具だそう。
ランダム封入で、すべてのカプセルに入っているわけではないシークレットアイテムのような存在だ。確率はわからないが「出会えたらラッキー!」とある。それなりにレアなものだろう。
これこそが真の当選。まさかカプセルトイの神は、最後にこんなプレゼントを用意してくれていたとは……勝利、勝利である!
およそ1日ぶりの温かいメシ!!!!
実はオーダーをちょっと間違えて「牛すき鍋膳」になってしまった(ミニチュアと同じにするには “単品” でないといけなかったが、空港店特有のスピード感に圧倒されてオーダーをミスった)のだが、ここで白米とお新香を食べたとて、誰が筆者を責められようか。
こんなっ、こんな美味しい牛すき鍋は生まれて初めてだっ! これまで当たり前のように食べてきた牛すき鍋が、こんなに尊いものだったとは……! いつのまにか大事なことを忘れて生きてきたんだな。涙が出るほどうまいっ!!
筆者の大冒険はこうして幕を閉じた。この世の真理にまで気づかせてくれる、奥深きカプセルトイの世界。さよなら東京、また来るよ。次はガチャなんて引かず、好きなときに好きなものを食べるけどな。
── 完 ──
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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