吾輩は佐藤である。先日、東京・大久保の駅周辺を徘徊(はいかい)していた折、ふと見た新聞屋の店先に一風変わった自動販売機が置かれていることに気が付いた。はて? このようなところに唐辛子の自販機を置いているとは。なんとも変わった新聞屋であるなあ。
よし、ここは1つ買ってみてやろう。そう思い、近づいてみると品揃えがますます変わっている。なにゆえにこのような品揃えにしたのであろうか?
なかでも吾輩の目をひいたのが「文豪七味」とやらである。吾輩も物書きの端くれ、これを買わずに素通りなどできようものか? ひとつ買って帰るとしようぞ。
・床屋のオヤジ
この日、吾輩が大久保に訪ねたのは髪を切りたかったからである。先般、中華系の美容室を利用して以来、すっかり気に入ってしまい、月に1度は訪ねる習慣がついてしまったのだ。
この日もちょっとした空き時間ができたので、側頭部の刈り上げを頼みに訪ねてみたのだが、あいにく休業だった。ひとたび髪を切りたいと思ったら、その日に切らないと気が済まない性質。これは弱ったな……。
仕方なくその近くの床屋に入って、オヤジに「横だけ刈り上げてほしい」と頼んだところ、オヤジは快く引き受けてくれた。
オヤジ「お客さん、変わった髪型してるね。特別な仕事をしてるんですか?」
と尋ねてくるので、吾輩はかぶりを振って(頭を振って)
吾輩「特別なんてトンデモない。普通のサラリーマンですよ」
と軽く交わす。正直なところ、この手の会話が苦手である。中華系美容室に行けば、はなから言葉が通じないので、余計なことを言わずに済む。それで気に入って通っていたんだが、休みだから仕方ない。
刈り上げはものの5分で済んだ。するとオヤジは再び口を開いた。
オヤジ「お客さん、本当にこれでいいんですか? シャンプーもナシ?」
吾輩「これで十分、シャンプーもナシで」
オヤジ「勝手がわかんないから、言ってくださいよ」
吾輩「何も問題ないけれど」
オヤジ「いやね、私、今日がこの店、2日目なんですよ。だから不慣れなもんで」
てっきり店のオヤジ(主人)だと思ったら、2日目のバイトで大いに面食らった次第でござる……。
・内藤とうがらしの自販機
さて! 前置きはこれくらいにしておいて本題に入るとしよう。その床屋の帰り道、新聞屋の店先で唐辛子の自販機に遭遇したのだ。
「内藤とうがらし」……。名前は聞いたことがあるなあ。後に公式ページを調べてみると、こう記されていた。
「内藤とうがらしは、江戸時代の宿場町、内藤新宿で育てられた野菜のひとつ」
内藤とうがらしは江戸時代に一大ブームが巻き起こったそうだが、「鷹の爪」の登場などにより衰退し、2010年に復活のためのプロジェクトが発足。2013年には「江戸東京野菜」に認定されるまでに至っている。由緒あるブランド野菜なのだとか。
自販機には、その内藤とうがらしを使った七味のほかに、新宿の新名物として変わった七味が用意されていた。
レインボー七味・アトム七味・ゴジラ七味・てっぽう七味・文豪七味の5種類である。もう少し、伝統を重んじるような名前にならなかったものか……。歌舞伎町が近いから「歌舞伎七味」とか思いつきそうなものだが……。
やはり買うなら文豪七味ではなかろうか? 物を書くことを生業(なりわい)にしている身だ。文豪への憧れは多少なりとも持ち合わせているつもり。歴史に名を遺すことはなくとも、せめて人々の心を癒す文章を書きたいと、日ごろからひそかに望んでいる。
この七味を味わえば、その願いの一部でも叶いはしないだろうか?
したたかに100円玉を投入口に6枚入れ込んでハンドルを回す。
ガチャリとドアが開いて、無事に商品を手に取ることができた。
ちなみにこの商品の販売価格は税込560円。お釣りは商品にくっついている。釣銭の排出口のない自販機の常套手段だな。
・文豪七味の味
七味と名がついているが、これはココアドリンクである。商品名称「ココアシュガー」、持ち帰ってさっそく飲んでみるとしよう。カップにまるまる1袋を投入する。
芳しいココアの香り……と言いたいところだが、匂いは完全に唐辛子。生来、甘党の吾輩からすれば、この匂いだけでも十分に辛い。
やにわに沸騰した湯を注ぎ入れると、ますます辛味を伴う香りが立ち上る。く~! 目にしみるようだ。おそらく辛いモノ好きな人からしてみれば、気になるほどの匂いではないだろう。
はたして、その味やいかに!?
名だたる文豪たちの姿を思い描きながら、ひと口すすってみると……。
う~ん、辛い……
そこで吾輩は悟った
文豪の道のりは甘くないんだと
お後がよろしいようで! 内藤とうがらしの自販機を見かけたら、1つ買ってみてくれよな!! オンラインストアで通販もやってるよ~ん!