
北海道と言えば、まずは海の幸。で、海の幸と言えば小樽! 札幌にも近くて便利だ。道央の日本海側にあるこの2つの町は北海道の名刺的な存在となっている。行ったことがある人も多いだろう。しかし、逆に道央の太平洋側には何があるか、あなたはご存知だろうか。
こちらはハッキリ言うと結構な勢いで寂れている。電車はほぼ有料特急の「北斗」のみ。それも1時間に1本くらいの頻度だ。そんな北斗に乗って室蘭本線の景色を眺めていたところ、一瞬、違和感のある駅が目の前を通りすぎていった。え、なんだ今の?
・幻?
私が違和感を感じた理由は駅の立地にある。それは山岳地帯で長いトンネルが続く場所なのだが、その駅はトンネルを抜けた場所と言うよりもトンネルとトンネルの間にハマるようにあったのだ。景色を見ていたら「トンネル→駅→トンネル」と一瞬で通り過ぎた。ボロボロの看板だけが目に焼き付いている。なんだ今の……幻?
・幻の駅に降りる方法
そこで長万部に着いてから調べてみたところ、どうやら、有名な秘境駅であるようだ。その名も「小幌駅」。
しかし、前述の通り、駅の周りは山であり、唯一開けた駅のバックは崖でその向こうは海なので、車や徒歩でのアクセスは不可能。というわけで、この駅に行く方法は……
1日2本の鈍行のみ。厳密には長万部から小幌駅方面に行く鈍行は1日4本出ているが、5時44分苫小牧行と6時38分東室蘭行には「小幌通過」と書いてある。つまりは、小幌駅に降りられるのは15時34分と19時28分の東室蘭行のみだ。
さらに言うと、19時28分は完全に夜なので取材するなら15時34分一択である。アクセス難易度、鬼畜すぎるだろ。まさに秘境。というわけで、15時34分の鈍行で行ってみた。価格は片道880円だった。
・駅で降りてみた
到着したのは15時50分。長万部駅から3駅と近いのがせめてもの救いである。とは言え、山間も山間なのですでに陽が傾き始めていた。
意外だったのは私が乗ってきた電車に小幌駅から乗り込む人が5人くらいいたこと。雰囲気的に観光勢と思われるのだが、室蘭方面からの電車を駆使すればもうちょっと早く来られるのかもしれない。行ってみようという人は調べてみてくれ。
・ハマってる
さて置き、本当にトンネルとトンネルの間にパズルのピースをハメたみたいに駅がある。ホームも狭く、どちらかと言うと通路みたいだ。
そんな簡素すぎる造りな上、前後はトンネルだし、室蘭方面側はホームの背中がすぐ山の斜面なので閉塞感が凄い。その3方が箱の壁みたいにすら感じられる。
唯一、箱のフタが開いているかのようにスペースがあるのが長万部方面のホーム側。だが、こちらも景色が開けているわけではなく林だ。そんなちょっとしたスペースにトイレと……あれは駅舎なのだろうか? プレハブ小屋が建っている。
・鉄道愛
と、駅はそんな感じで特に景色が綺麗なわけでもないのだが、室蘭方面の看板の下のプラケースに入っていた駅ノートは12冊目。同人誌とかも入っていて、実際に来て大変さを味わったからこそ鉄道ファンの愛の強さを実感した。愛って凄いなあ。
さて、次の長万部行きの電車は17時34分。1時間半くらい時間があるので、周囲を散策してみると……
・観光スポット?
林の中に「岩屋観音」と「文太郎浜」という看板を発見。景色の良い場所でもあるのだろうか? 時間帯的にどちらか1つ行くのが限界かと思われるので岩屋観音を目指してみたところ……
ガチの山登りだった。1人分の道幅ですぐ隣が崖。たまに見える景色でははるか下に海があって足が震える。こっっっっわ! 気を抜いたら簡単に死ねる怖さがある。
・円空スゲエ
そんな秘境の観光スポットの洗礼を味わいつつも、なんとか岩屋観音に到着。山肌と岸壁に囲まれた入江が砂浜になっており、その岩肌に空いた洞窟の中にあるのが岩屋観音らしい。1666年に僧・円空が掘った仏像なのだとか。
1666年と言えば、江戸時代の寛文6年。四代将軍家綱(いえつな)の時代である。言うまでもなく北海道は開拓前だ。そんな北海道の中でも、この僻地中の僻地を見つけ、あまつさえ、洞窟の中で観音像を掘るなんて、江戸の坊主はMすぎる。
・なぜこんなところに駅があるのか
そもそも江戸時代にここまで来られただけで凄い。なんなら、鉄道が通った現代においても結構凄いんだから。っていうか、むしろ、なんでこんなところに駅を造ったのか? 謎すぎたので、小幌駅を管理している豊浦町役場に聞いてみたところ……
豊浦町役場「小幌駅はもともと信号所だったようですね」
──信号所って何ですか?
豊浦町役場「電車のすれ違いなどのために作られた場所です。当時は汽車で煙を吐くためトンネルの中で停止することができなかったので、逃げ場のような感じですね。補修作業員とかも使ったりする場所で。手元の資料によると、1943年にできたようです。その信号所が、漁師さんなどが住んでいたため駅に格上げされた形ですね」
──とのこと。なるほど、駅になった当時は漁師さんが住んでいたのか。確かに、岩屋観音の浜辺に桟橋の残骸のようなものがあったが、あれはその当時使われていたものなのかもしれない。
・夜の味
それにしても、今となってはまさしく陸の孤島。岩屋観音から駅に戻ると日はとっぷり暮れていたのだが、闇夜にぼんやり浮かび上がる「こぼろ」の看板は幻みが増しているように感じられた。
ちなみに、当たり前だが電波もほぼない。ソフトバンクでは4Gのアンテナが1つ立ったり消えたりしているだけだった。Twitterどころか、阿部寛のホームページでさえ苦戦するレベル。電車はなかなか来ない。
気付けばシトシトと降りだす雨。ん? 遠くから祭囃子みたいな太鼓や鈴の音が聞こえる気がするな……。ちょっと行ってみるか。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]
▼目が覚めて小幌駅にいたら泣く
夜の小幌駅のブレアウィッチ感 pic.twitter.com/j1TRroXjvV
— 中澤星児(ロケットニュース24) (@sorekara_jona) November 19, 2022
中澤星児
























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