老若男女が楽しめる日本伝統のゲームと言えば将棋。一方で、馴染みがなくて意外にルールを知らない人が多いのも将棋である。私(中澤)も子供の頃、駒の動きを一生懸命覚えたものだ。今となっては壁というほどではないように感じるが、勘で打てるものではないことは確か。
そんな将棋について「ルールを知らない5才の子でも遊べた」という声があふれているのが、Amazon将棋部門1位の『NEWスタディ将棋(参考価格4180円)』である。これ、本当にルールを知らなくても遊べるのか? ガチでルールを知らない44才のオッサンがやってみたらヤバイことになった。
・画期的
まず、この将棋が他の将棋と違うのは駒自体に進み方が書かれている点。これなら確かに、ルールブックを開かなくとも、感覚的に動かし方が理解できる。むしろ、なぜ今までなかったのか。この解決法は発明と言っても過言ではないだろう。考えた人頭良いな。
・将棋知識ゼロの男
しかしながら、それは将棋のルールが分かる私の意見。将棋を知らない者の意見は将棋を知らない者にしか分からない。そこで今回この将棋をP.K.サンジュンに指してもらうことにした。
ルールを一切知らないがゆえに、これまで数々の外道を繰り返してきたP.K.サンジュン。見たことのない盤面の攻防は想像を絶していた。彼が将棋を指す度に我々はしみじみ思ったものである。「こんなに将棋を知らない人いるんだなあ」と──。
・ファイッ
細かい変化も見極められるように、相手は過去2度の対戦歴があるYoshioにお願いした。
先手はYoshio。▲2六歩と飛車の前の歩を一歩前進。闘いの口火が切られた。さて、どうするサンジュン? 見学者も含め息をのむ一同。
はたして、『NEWスタディ将棋』は、サンジュンに正しい将棋を指させることができるのか。そう、これはYoshioとサンジュンの闘いであると同時に、『NEWスタディ将棋』とサンジュンの闘いでもあるのだ。張り詰める緊張感……と、その時、サンジュンの右手が動いた!
△5…四…歩?
サ、サンジュンが……
あのP.K.サンジュンが……
普通に歩を進めたぞー!
色めき立つ一同。クララが立った時のような異様な熱気が我々を包む。町中に触れ回りたい気分だ。「サンジュンが歩を普通に進めた」と。
・マジで凄い
『NEWスタディ将棋』はマジで一切ルールを知らない者でも正しく将棋が指せるものだったのだ。対象年齢5さい以上は伊達じゃねェェェエエエ!
だがしかし……
事件は、Yoshioの歩がサンジュンの前線に迫った時に起きた。▲2四歩と指したYoshioに対し、なぜかその隣の歩を△3四歩と進めるサンジュン。2四歩取れるのに!? と思った瞬間……
\クリン!/
な、なんやて!?
Yoshioの駒を囲むように3四歩を真横に向けただと!? 将棋にあるまじき向きである。だが、確かに駒が進んでいるマスの数自体は間違っていない。
普通に歩を取るYoshio。
あ、そこはええんや。
と、我々が安心したのも束の間、角を手に取るサンジュン。確かに、角の道が開いている。しかし、このままでは歩を取った後に、Yoshioの角や桂馬で撃退されるのは目に見えている。万事休すか? と思いきや……
え?
歩の壁を突きぬけただとォォォオオオ!?
P.K.サンジュン「角の駒をよく見てください。矢印がマスを突き抜けて伸びてますよね? これはコイツの貫通力を表しています。俺の角が歩兵ごときで止められるわけないでしょ。馬鹿にしてます?」
・ルールを知らない恐ろしさ
将棋の知識がゼロのサンジュンの考える「強さ」は、単に動ける範囲が広いというだけじゃないのだ。そこにはパワーやスピードなどのパラメータも関係してくる。ゆえに、将軍級の角を歩兵ごときが止められるわけがないという。確かに、『キングダム』とかだと強キャラが一振りで雑兵10人くらい倒すけど……!
主張は将棋連盟がブチキレるレベルなのだが、とりあえず「角はナナメに何マスでも動ける」という動き方だけは間違っていない。逆説的に『NEWスタディ将棋』の分かりやすさが証明されていることはさて置き、そこからはもうめちゃくちゃだった。
Yoshioの持ち駒(サンジュンいわく捕虜)を解放して背中から刺してきたり……
Yoshio陣深くに攻め込んだ香車が横を向いたかと思うと……
Yoshioの最終ラインを貫いて金を封じたり……
Yoshioの歩が劣勢と見て寝返ったり……
これを機と見てサンジュン軍が総攻撃してきたり……
最終的には兵が見守る中、王同士の一騎打ちが始まったり……
シンプルに言うと地獄だった。もはや、YoshioのMPがゼロになったところで、王が王の頭を踏みつけてサンジュンが宣言した。「エンド・オブ・ゲーム」と。
そして始まる勝利の宴(うたげ)。
王を胴上げする歩。
酔っぱらったお調子者。
豪胆な角は部下たちと肩を組んで歌う。
宴を遠巻きに眺めながらいちゃつく金と銀のカップル。
・勝利のその後
我々は何を見せられているのか? 将棋に勝った後があることなど考えもしなかった。だが、これが本当に合戦ならば、その後も勝敗と同じくらい重要である。
──力で国を平定した王は暴君に変わるかもしれない。
──部下想いで慕われている角は反旗を翻すかもしれない。
──金と銀には子供ができるかもしれない。
──お調子者だった歩の中からやがて新しい革命家が生まれるかもしれない。
・将棋は人生
一同に笑い合っている彼らが明日どうなっているかは分からない。なぜなら、それぞれの人生を背負ってここにいるのだから。確かなのは今この一瞬。共に過ごした時間があったということだけである。
歴史を作るのはそんな1人1人の生きざまだ。P.K.サンジュンは我々にそう伝えたかったのかもしれない。ありがとう、将棋の素人。さようなら、また会う日まで。
参考リンク:Amazon
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.