当編集部の佐藤記者は過去に約3000本のグルメ記事を執筆してきた凄腕グルメライター。にも関わらず、舌の確かさを競う『グルメライター格付けチェック』では正解率50%という微妙すぎる成績を叩き出した。アテになるのかならないのか、イマイチ分からない男なのだ。

そんな佐藤記者が「日本一うまい」と断言する蕎麦屋が島根県にある。大先輩たる佐藤記者を疑う気持ちは微塵もない、が……いかんせん信用ならない彼のこと。「誰も島根までは確かめに行かないだろう」と大ボラをフカしている可能性も、ゼロとは言い切れない。

・いざ、島根へ!

佐藤記者が「日本一うまい」と断言するのは、島根県・松江市にある『八雲庵(やくもあん)』の『鴨南蛮そば』。島根出身の彼はかねてより八雲庵の鴨南蛮そばを愛し、八雲庵の鴨南蛮そばを絶賛する記事も執筆している。

佐藤記者いわく八雲庵の鴨南蛮そばのダシ汁は「永遠に飲み続けられるもの」であり、「水道の蛇口から出てきてほしい」と願ってやまないほどウマいらしい。鴨南蛮そばって、そんなにゴクゴクいけるものだっけ……? 現時点で大ボラとは言わないまでも、多少の誇張が含まれている可能性は高い。

そのあたりを調査するべく、私は島根県松江市へやってきた。松江城のお堀端周辺には美しい城下町と武家屋敷が現存しており、中でも有名なのは明治の文豪・小泉八雲の旧居。

その八雲旧居の数軒隣にあるのが、今回の目的地『八雲庵』である。「そば処」と書かれていなければ蕎麦屋だとは気づかぬ荘厳な佇まい。なお島根のお隣・鳥取県出身の私も『八雲庵』という名前だけは聞いたことがある。つまり地元の有名店なんだな。

よく見ると看板に「鴨なん蕎麦」の文字が。島根といえば『割子そば』が有名だが、八雲庵のイチオシは鴨南蛮らしい。佐藤記者の証言に少し信憑性が出てきたと言える。

屋敷内に入ると、これまた蕎麦屋とは思えぬ見事な庭園が! 聞くところによると、かの小泉八雲は自宅の日本庭園を愛し、著書にも多く登場させたのだとか。

その八雲邸はここから数軒先……つまり八雲庵の庭は “ほぼ八雲が愛した庭” と言っても過言じゃないのであるッ! そんな庭を眺めながら蕎麦が食べられるなんてスゲェや! 入店前ではあるが、すでに「来てよかった」と感じている自分がいる!


・いざ入店!

広い店内はテーブル席のほか、離れの座敷、個室、錦鯉の池が見える席などを完備。しかし私が訪れた時点(平日の午前中)ですでに行列ができあがっていた。

特に土日はあらかじめ予約を入れておくのが賢明だろう。

さすがは名店だけあって有名人のサインがいっぱい! 歴史を感じる〜っ!

看板メニューは『鴨なんばんそば』と『割子そば』。うどんやラーメンもあるぞ。

私はもちろん『鴨なんばんそば』(1300円)一択。なるほど、東京で食べる鴨南蛮と違ってダシ汁が透き通っているワケか。

ところで今気づいたけど、私、西日本で鴨南蛮そばを食べるのはこれが初めてかもしれない。なぜなら私の生まれた鳥取県では蕎麦よりうどんをよく食べる傾向があり、食べたとしても『ざるそば』程度だったからだ。これは鳥取に限らず、西日本全体に当てはまる話だろう。

そもそも私が『鴨南蛮』の存在を知ったのは上京してからのことで……おっと! そんなことを考えてたら蕎麦がのびてしまうな。それじゃあ佐藤先輩、いただきま〜す!


うん! 普通にメッチャうまい!


…………


…………


……これほど繁盛している店の看板メニューがマズいわけはないのだが、それにしても普通の感想すぎて我ながら不安になってきた。もう少し詳しく言うと「あっさりダシに鴨のうまみが溶け込み、染み出た油とたっぷりネギが絶妙に中和している」といった感じだろうか。

「ビックリするほど個性的な味か」と聞かれると、決してそんなことはない。しかし、まるで灼熱の砂漠で飲む水のように、いつまでもいつまでも飲み続けていたい……まさに「普通にメッチャうまい」と表現するほかない味わいが、そこにあった。

島根は確かに “蕎麦どころ” だが、佐藤記者に確認したところ『鴨南蛮そば』自体は別に島根名物じゃないらしい。だって鴨南蛮は東京発祥のグルメ。そして島根名物の『出雲そば』は、濃い浸けダシにひたして食べるスタイルが基本なのだから。

つまり何が言いたいのかというと……要するに「西日本風のウマい鴨南蛮そば」って、けっこうレアなんじゃないか? ってこと。普通なんだけど、初めて食べるウマさ。こうなると佐藤記者の「日本一うまい」発言も、俄然信憑性が出てきた気がする。

島根県民が熱愛して止まないダシ汁……蕎麦好きなら一度は味わってみていただきたい。


・ちなみに……

東京へ戻り「普通にメッチャうまかったッス!」と告げると、仏のような表情で「そうだろう」と佐藤記者。冒頭では「信用ならない」などと書いたが、少なくとも蕎麦に関しては信頼できる男だったようだ。先輩、なんかスイマセンでした!

最後に「島根まで行けねぇよ」という蕎麦好きに朗報である。八雲庵ではWEB通販を受け付けており、佐藤記者オススメの『鴨なんセット』は5人前9800円で購入できるぞ。ふるさと納税の返礼品として選ぶことも可能なので、詳しくは八雲庵の公式サイトをチェックしてくれ。

とはいえ島根って本当に素晴らしいところなので、個人的にはできれば現地を訪れてほしいと切に願う。ちょっと行きづらいけど……それもまた味わいなのだ。ついでに鳥取にも寄ってみてよね〜!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

▼こちらが『割子そば』(三色 / 980円)