「右肘左肘交互に見る」「キリンスマッシュ」などのシュールなネタで「キングオブコント2011」で準優勝した芸人・2700。最近テレビで見ることが減ったなあ……と思ったら、八十島は4年間も芸人を休業していたらしい。

その4年間に起きたことを、千原ジュニアのYoutubeチャンネルにゲスト出演して語っていたのだが、そのエピソードがあまりにも壮絶だった。

あることがきっかけで精神的なバランスを崩し、4年間で3回も “天国” にいってしまったと表現する八十島。これは誰の身に起こってもおかしくない……。


・ “天国” へ行ったきっかけ

さかのぼること4年前──2700はコンビとして行き詰まりを感じていたという。その頃、相方のツネは不動産会社でも働いており、そちらに力を注ぐようになっていた。ともに妻子を養わなくてはいけない身。しかしツネが不動産勤務を続けていれば、2700としての仕事はできなくなってしまう。

困った八十島は当時、ジャグラーというパチスロが得意だったことから「ジャグラー芸人」を目指し、毎日開店から閉店までジャグラーを打ち、それをSNSで報告するようになっていた。(聞き手の千原ジュニアいわく「芸人の悪いところが完全に出てもうてる」状態)

パチスロの営業の仕事なども入るようになり、順調に思えた。しかし1日中パチスロを打っていたことで、見えないストレスがたまっていたのか、八十島の心身は疲弊していた。

そしてある日突然、新宿のマルハンの前で爆発音が聞こえた……。それが八十島は奇妙で壮絶な日々を送る始まりの合図だった。


・全部をドッキリだと思いこんだ結果…

大きな爆発音が聞こえたのに、周りは普通にしている……。幸か不幸か、八十島は芸人である。

聞こえる幻聴や幻覚をすべて「番組のドッキリ」だと思った八十島は、芸人魂でそれを乗り越えようとするあまり奇妙な行動を繰り返すことになる。

目に見えるすべてを「ドッキリ」のネタフリだと勘違いし、カメラが回ってると思っておおげさにボケまくり、大きな声で独り言を言う八十島。それがすべての奇妙な状況へとつながってしまう。そのエピソードのひとつひとつが強烈である。

とにかく八十島の話しぶりが面白いので、詳しくは動画をぜひ見てほしいのだが

・喫茶店で隣の客をドッキリのディレクターだと勘違い
・長男がドッキリの仕掛け人で、中に松本人志が入っていると思い込む
・病院でトイレのマークが浮世絵風だったことから歌舞伎の見得を切りながらトイレに入る
・「天国のお城」での仲間の話

などなど、枚挙にいとまがない。

そして、そういう奇妙な行動をとるとき、“天国状態” の八十島がどんな思考回路だったかを笑顔で面白おかしく話しているのだ。冷静になって振り返ってみれば突飛な思考回路なのだが、当時の八十島にとっては真剣だったようだ。

面白さの中に、切なさもあり、とくに家族が絡む「最後のジャグラー」のエピソードは笑いながらも泣きそうになってしまった。


・千原ジュニアの「聞く姿勢」の凄さ

こうした話をすること自体、八十島にとってはとても勇気が必要なことだったのではないかと思う。芸人は人を笑わせる職業だが、これは一歩間違えば「笑えない話」だからだ。

また、動画の中で印象に残るのが、八十島の話を聞く千原ジュニアの姿勢である。

笑顔で話す八十島の姿からは「笑ってほしいと」いう芸人魂を感じた。とはいえ、こうしたデリケートな話を聞くとき、どうしていいか戸惑ってしまうと思う。自分の不用意な一言で、隣で話す八十島だけでなく、画面の向こうの見えない誰かを傷つけてしまう可能性もあるからだ。

千原ジュニアは、変に茶化したり、過度に同情的になったりするでもなく、八十島が語るのを聞いて、絶妙なポイントで笑ったりツッコんだりする。これは千原ジュニア自身がかつて、バイク事故で死にかけて休業していたという経験もあるのかもしれない。

八十島にしても千原ジュニアにしても、デリケートな話題を笑いに昇華するプロの芸人としての矜持を感じる動画でもあった。


・誰でも“天国”に行ってしまう可能性はある

精神的な疾患の話は、なかなかテレビでは語られることが少ないと思う。Youtubeだからこそできる話なのかもしれない。

しかし、仕事で行き詰まって、むちゃくちゃな行動に出た結果、過度なストレスがかかって心が壊れる……だなんて、正直、誰にでも起こりえると私は思った。ぜんぜん、他人事なんかではない。

また、八十島は奇妙な行動の裏で「自分はなぜそう思って、そんな行動をしていたのか」を詳しく話している。この動画を見てからは、街なかで傍から見ると理解不能な行動をしている人も、孤独な世界を必死に生きているのかもしれない……と思うようになった。

前後編あわせて45分ほどだが、とにかくトークが面白いのであっという間である。あえて「面白い」という表現を使ったが、ただ面白いだけでは終わらない、壮絶で強烈なエピソードトーク、ぜひ多くの人に見てほしい。

参考リンク:YouTube
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.