キャンプと並んで定番の休日レジャーとなりつつある車中泊。しかし、夏には命をおびやかす危険な遊びと化す。

太陽に照らされた車の灼熱地獄はご存じのとおり。夜になっても簡単には温度は下がらず、蒸し暑くてとても寝られたもんじゃない。

また、寝袋、サバイバルシート、電気毛布などバラエティ豊かな寒さ対策に比べ、暑さ対策は圧倒的に手段が少ない。人類は暑さの前には無力なのである。

しかし本当は、夏こそ行きたいところが山積みだ。なんとか暑さをしのぐ方法がないものか……と考えに考え、ポータブルクーラーこと冷風扇を試してみた。


・「ここひえR4」(税込8980円)

楽天市場「冷風扇ランキング週間1位」、価格.com「冷風機・冷風扇 人気売れ筋ランキング3位」(いずれも2022年6月22日時点)など人気を博しているショップジャパンの「ここひえR4」

筆者は見たことがないが、テレビショッピングでもお馴染みだとか? 年々バージョンアップを繰り返し、最新版はR4と名づけられている。

本体サイズは幅190mm×高さ201mm×奥行175mmのサイコロ型で、重さは約1.5kg。片手でラクに持てるくらい小型軽量で、狭い車内でも使えることは間違いない。

サイドに着脱可能なウォータータンクがあり


水道水を入れる。容量は600mlで、最大11時間稼働。「冷水を入れれば効率がよいのでは?」と思ったが、水の温度による冷却性能の差はないとのこと。

内部のフィルターを通って風が出てくる。液体が蒸発するときに周囲の熱を奪う、「気化熱」を利用して空気を冷やす仕組みだ。

家庭用コンセントのほか、5Vで2A以上供給できるものならモバイルバッテリーにも対応。コードの長さは約1.5mで、車内なら十分だろう。

車で使うためには、小型軽量であること、排熱や排水がないこと、騒音が少ないこと、消費電力が小さいことは必須条件だ。キャンプなどアウトドアレジャーでも同じだと思う。

風量4段階、首振り2段階、タイマー3段階と自分好みに設定できる。風量最大の場合、メーカー公称値で風速6.8m/秒だ。


・車内で実験

では実証開始。ただいまの車内の温度は44.9℃、筆者のいるシート付近で41.0℃だ。体温よりも高い。(※危険なので真似するべからず)

まだまだ「夏本番」にはほど遠いのでこの程度に留まっているが、それでも座っているだけで滝のようにポタポタと汗がこぼれ落ちる。

窓を閉めると空気が動かず息苦しい。「いますぐドアを開けてここから出たい!」という衝動にかられる。

扇風機を回しても、熱風がかき回されるだけでまったく意味がない。むしろ顔からボワッと火が出るような感覚だ。サウナでも同じことが起こるが、この現象って名前があるのかな?

そこで「ここひえ」スイッチオーン! 今回は最大パワーで実証。


「コーッ」という音とともに風が吹き出す。従来品に比べ、静音仕様になっているのがR4の特徴だそう。そもそも車中泊では、周囲が無音というシチュエーションはそうそうないので多少の送風音は気にならない。車外に聞こえるような振動音さえなければOKだ。

正面の黒い部分はルーバーで、風向きの上下を調整可能。温度計の方向に向ける。


みるみるうちに温度計の数値が1℃……2℃……と下がっていく。この間わずか数分だ。

しかし写真撮影のため距離をとっていると、涼しさはまったく感じられない。暑い……暑いよ!!

最終的にはおよそ10分後、41.0℃→38.5℃で下げ止まり。温度計の周囲が2.5℃ほど冷えたことになる。もっと気温の低い別日に試したときも、ちょうど2.5℃下がった。

メーカー公称値は室温-10℃だが、これは吹き出し口に直(じか)に触れるくらい近ければ……という感じだろう。現実的には顔や手を密着させて使うなんてことはないので、あまり参考にならない。

しかし写真撮影をやめて本体の正面に身体を置いてみると、たしかに涼しい! 顔や首筋に冷たい風が感じられる。すぅっと汗がひくような感覚だ。

不思議なことに、顔や首筋が冷えるだけで不快感がぐっと減り、先ほどまで苦痛だった車内にも留まっていられる。置き場所を工夫すれば、パソコンを操作している顔付近などにもあてることができた。

ただし車内全体が冷えているわけではない。本体から50cmも離れるとすぐに冷感はなくなり、生ぬるい風が吹いてくる状態になる。メーカーでも「ここひえはパーソナルクーラーなので、部屋全体を冷やす能力はありません」と明言している。


つまり空間は冷やせない。大事なことなので繰り返すが、空間全体は冷やせない!


あくまで「吹き出し口の至近距離にあるもの」に対して「室温よりも冷たい風を送る」製品である。複数人の使用にも向かないので、ひとり1台必要と思っておいたほうがいい。

扇風機で風量を増幅したら冷感アップでは? と思ったが、これはまったくの逆効果であった。風はあっというまにぬるくなるので、熱風が吹いてくる。

また、水分を含んだ風が出てくるという機能上、湿度が上がるという特徴がある。この日は気にならなかったが、熱帯夜には不快感があるかもしれない。

少しでも本体が傾くと水が大量にこぼれ出てくるので、その点も注意。


・あくまで夜間の使用ならあり!

何度か条件を変えて試したが、周囲の空気より2.5℃ほど低い冷風が出てくるのは確実。室温30℃以下のほどほどの暑さであったり、曇天であったりすれば昼寝もできた。

ただし気温35℃の晴天下に駐車した車は、仮に窓を開けていても室温で40℃以上、ダッシュボードで70℃以上になる(JAF調べ)。サンシェードを使っても室温は大差ない。


つまり「日中」「晴天」という条件下では、いかに冷風扇であっても太刀打ちできない。


現状では一部キャンピングカーに搭載されている家庭用エアコンや、大型ポータブルクーラーを除くと、エンジンを止めた車内を効果的に冷やす方法は存在しない。ペットや子どもの留守番はダメ、絶対だ。

一方、日が沈んだ夜間で、至近距離から自分に直接風をあてる、という使い方なら「ここひえ」にもなかなかなポテンシャルが! 天候や使い方によっては寒いくらいだ。自分の体勢に合わせてこまめに向きを調整すればなおよし。

これまで夏は「車中泊はお休み」の筆者だったが、今年は満を持して挑戦したい! なお、同じく挑戦してみたいという方はくれぐれも熱中症に気をつけて、無理せずに行って欲しい。本当に暑いときはホテルなどに避難することもぜひ視野に。


参考リンク:ショップジャパン「ここひえ」JAFユーザーテスト
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.