コンビニって便利だけど、マニアックなものを手に入れるのには向いていない。小規模な店内に、売れ筋の食料や日用品、そして弁当や飲み物、お菓子などが並んでいる店。それがコンビニだ。
──ところがそんなイメージを覆すようなコンビニがあるのを発見した。ハッキリ言って、品ぞろえが異常。完全にマニアの領域。それが横浜ハンマーヘッドの中にある某大手コンビニ。
専門分野は……クラフトビールだ!
・世界中のクラフトビールが並ぶ
横浜ハンマーヘッドは、みなとみらい駅より徒歩12分ほどの場所。オシャレなベイエリアにあり、客船ターミナル施設を中核に「食」をテーマとした商業施設だ。
筆者が訪れたのは朝7時ごろ。付近では犬の散歩やランニングをする方の姿がチラホラと見られ、人々の暮らしと観光が両立した素敵なエリアに見受けられた。
例のコンビニはそんな横浜ハンマーヘッドの1階に位置する。
名前に数字が付く某大手コンビニであるが、景観を崩すことがないようブラウンで統一された店舗のためパッと見では気が付きにくいかもしれない。よく観察すると窓の中に茶色いロゴの看板が出ているのが見えるだろう。(諸事情によりこの写真ではボカしている)
さっそく入店し、店の奥にあるお酒コーナーへ向かってみたところ、
えっ? ケースの中が妙に……
妙に、カラフルじゃない?
うわっ! よく見るとコレ、ほとんどが、
ビールだ!!!!
ざっと数えただけでも50種類以上の缶が並んでいるだろうか。日本語のものもあれば、英語表記のものもある。イラストや写真、文字などパッケージデザインも様々。(ただし海外ではビールの扱いであっても、日本では法律により発泡酒に区分されるものも多いので注意してほしい。詳細は各商品のラベルに印字してある)
そして冷蔵庫の右上にはこんな張り紙があった
「まだまだあります!! 世界のビール 日本のビール」
マップに従って店内左奥へ向かってみたところ、
これは普通のコンビニの品揃えじゃないぞ!
常温の棚にも大量のビール。こちらはドライビールのコーナーだ。
写真の場所以外にも店内あらゆる場所にみっちりと瓶や缶が置いてある。そこら辺の酒屋さんでは絶対に敵わない、ハッキリ言って怖いぐらい店中にビールが詰まっているのだ。
ここまでおびただしい量のビールを集めているのだから、オーナーはかなりの酒豪に違いない。お話は聞いてみたいが常時酔っぱらっている人だったらどうしよう……?
・もともとは苦肉の策のビールだった!?
ということで、おそるおそるではあるがオーナーの中山さんにお話をうかがってみた。
筆者「ここはいわゆる普通のコンビニですよね? 一体どうしてこんなにたくさんのビールがあるんですか?」
中山さん「当店は2019年10月、横浜ハンマーヘッドのオープンと同時に営業を開始したのですが、元々は横浜のお土産が置いてある程度の至って普通のコンビニでした。しかしあまり売り上げが好調とは言えず、おまけにオープンから数か月で新型コロナの影響を受けることになってしまったんです」
筆者「横浜と言えば……ダイヤモンドプリンセス号!!」
中山さん「そうなんです。観光地にある当店はモロにその打撃を受けまして、休業を余儀なくされました。休業中になんとか生き残る策を考えた結果、思いついたのがビールでした」
筆者「あれっ? ということは、中山さんが特別ビール好きだったというわけではない……?」
中山さん「そうですね、元々はほとんど晩酌もしないほど。ビールに思い至ったのも、アルコール飲料の売り上げが比較的多かったことと、日本産ビール発祥の地と言われる横浜から連想したものでした」
筆者「まさか元々お酒を飲んでいなかった方が経営されているとは、意外過ぎました」
中山さん「今はもうすっかりクラフトビールが好きになり、沼にハマり込んでしまいましたけどね。笑」
筆者「それにしても、ここまでの品揃えにしたのは何故なのでしょう?」
中山さん「横浜には『横浜ビール』という地ビールの会社がありまして、はじめはそこから地ビール、クラフトビールなどを仕入れて売り始めました。その延長でビールを輸入されている代理店さんとの付き合いも始まって徐々に品揃えが増え、自分の中でも「日本一ビールがそろったコンビニを作ろう」という目標ができました」
筆者「おそらく現在、ここまでビールがそろったコンビニは他にはないと思います。ビール好きにとっては楽園みたいな場所ですね」
中山さん「ビール好きな方はもちろん、初心者の方も歓迎です。クラフトビールの専門店って言うと、ちょっと敷居が高くて入店しづらい雰囲気があると思うんです。でもうちはコンビニなので、気軽に入ってゆっくり商品を眺められる。クラフトビールにハマる入り口として利用していただけたらと思います」
筆者「ちなみに、商品はどれぐらいの頻度で入れ替わるのですか?」
中山さん「仕入れ自体は週に3、4回はあります。入れ替わりが結構激しいので1、2か月ぐらいたったらラインアップが一新されているんじゃないでしょうか」
筆者「そうするとお気に入りのビールを見つけるのはちょっと難しいかな、なんて思ってしまうのですが……」
中山さん「そうですね。難しいかもしれませんが、1種類だけを追うっていうのは逆にもったいないかもしれません。クラフトビールって想像できないぐらいにいろんな味があるので、味や産地だけじゃなく、なんならジャケ買いでもいいのでいろんなビールにトライしてみると面白いですよ」
時期にもよるが、店内には常に300~500種類ものビールが並んでいるという。中には生産国でも手に入りにくいというレア商品もあるそうなので、店内をじっくり回り、宝探しのような感覚でお気に入りを探してみてほしいということだった。
・一番高いビールを買ってみた
ここまでたくさんビールがそろっていると、気になるのが「一番高いビールはどれだ?」ということ。
筆者が訪れたこの日に一番高額であったビールがこちら。
スムージー マンゴー オレンジ パイナップル パフシックル(税込2376円)
原産国はアメリカで、日本の法律上は発泡酒に区分される。原材料は麦類に加えてマンゴー、オレンジ、パイナップル、そしてマシュマロが使われているという。聞く限りでは甘くて美味しそうだが、そのお味は一体?
……ということでさっそく購入して持ち帰り、開封してみたところ、
ジュースっぽい見た目である。
トロミが強く、開封した直後からトロピカルフルーツジュースのようなポップで甘酸っぱい香りが弾けている。そして炭酸はあまり弱く、泡立ちもあまりない。筆者が知っている一般的なビールのイメージからはかけ離れていた。
匂いだけでも明らかに美味しそうだが、お味の方は……
うめぇ~~~っ!
爽やかなオレンジとマンゴーの甘み、あとからやってくるパイナップルのさっぱりジューシーなパンチ。海外のフルーツジュースのようにトロトロで味が濃く、トロピカルなテイストが効いていた。
ベースにはマシュマロの甘さが口いっぱいに広がったかと思えば、後味に麦の香ばしさが余韻として残り、これがビールであることを思い出させてくれる。
購入する時は「ちょっと高いかな……」と思ったが、これだけのクオリティのお酒を473ml、しかもはるばるアメリカから手に入れているのだ。そりゃするよな、2000円。
・日本では有り得ない変わり種
店内を見て回った中で、筆者が変わっていると感じたビールも3種購入してみたのでご紹介しよう。
・ダブルチェリー コーヒーブレイク カップケーキサワー(税込990円)
日本での区分は発泡酒で、スウェーデン産。チェリー、コーヒー豆、バニラといったまるでお菓子のような材料が使われており、カップケーキサワーという初めて聞くジャンルに惹かれて購入してみた。
ビールとスイーツとコーヒー、1つにまとめてしまったらどんな味になるのだろうか。
・フォーフト キューカンバー(税込1052円)
日本での区分は発泡酒で、なんとキューカンバー、つまりキュウリ味。原材料を見てみれば麦芽、キュウリ、小麦、ホップのみというシンプルでチャレンジングな一品。
昔ペプシでもキュウリ味飲料を出していが、アメリカではキュウリは果物として扱われていたりするのだろうか? 正直あまり気は進まないが、異文化コミュニケーションということで購入してみた。
・シメイ ゴールド(税込565円)
一見普通のビールなのだが、かつてはベルギーの修道院で生活する修道士と、修道院を訪れたゲストだけが飲むことができた門外不出のビールだったのだという。
実はヨーロッパ諸国において、修道院はビールの発展に大いに貢献しているのだという。日本で考えると「住職のみが飲むことができる寺限定ビール」は絶対にあり得ない。あまりにも文化の違いが大きく面白かったため購入してみた。
・ダブルチェリー コーヒーブレイク カップケーキサワー
アメリカンチェリーのような濃いダークレッドの液体。チョコレートにも近いが、コーヒーの香りを強くベースに感じる。
色も変わっているが、炭酸も弱い。言われなければビールだとは思わないだろう。
お味の方は、第一印象ではウッと驚くほどのワインっぽさ。しかし渋みがまったくなく、慣れてくるとチェリーボンボンのような味を感じ取ることができた。
パッケージのイメージから受ける「お菓子っぽさ」は一切感じない、かなり大人の味。牛肉料理とよく合うのではないだろうか。
・フォーフト キューカンバー
続いてはキュウリのビールだ。黄金色の液体からただよう香りが浅漬けに近い。まさかコレって……
ウハァっ! 酸っぺぇ~~~~~!!
スッパマンみたいに口がシワシワになるほどの強烈な酸味の奥に、ほのかにキュウリの香りが感じられる。美味しいか美味しくないかで言ったら、残念ながら余裕で美味しくない! アメリカとの食文化の差を体にダイレクトで叩き込まれた。
液体の中はほんの僅かに濁っている。キュウリの果肉なのだろうか……。
・シメイ ゴールド
最後は修道院のビール。レッドブルのような薄い琥珀色の液体で、今回購入した中では一番炭酸が強い。(それでも日本のビールと比較するとかなり弱いが)
一見普通のビールなのだが、原材料にはオレンジピールとコリアンダーが入っている。嗅ぐ限りでは麦の香りしかないが……。
あっ、これ!
美味しいですね!! 今回飲んだ中では一番ビールのイメージに近いかも!
キリッと爽やかな苦みと、柑橘やハーブのような透明感のある味わいだ。変な癖や臭さはなく、高級感のあるスッキリとしたビールであった。ウインナーや豚肉と一緒にいただきたい味だな。
今回は4種類を飲んでみたが、すべてが完全に異文化コミュニケーション。これまで筆者が持っていたビールのイメージはあくまで「国内大手ビール会社の一商品」であることを感じさせられることとなった。
中山さんによれば、筆者が選んだビールは「尖っている」ということで極端な例だそうだが、店内にはひとつとして同じ味のビールはないということ。
ビールが好きな方もそうでない方も、これまでの常識は捨てて 横浜ハンマーヘッドに広がるビールの楽園を訪れてみて欲しい。新しい味との出会いを約束するぞ!
参考リンク:横浜ハンマーヘッド ショップ&レストラン
執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
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▼ショーケースだけでは足りず、追加の冷蔵庫も並んでいる。
▼エキゾチックで美しいハチミツ入りビールがあったかと思えば、
▼作り手と思われるおじさんたちの写真入りパッケージもある。
▼グラスと中心としたビール用ギアも充実。
▼もちろんオシャレなおつまみもあるぞ。
▼ビール以外のアルコールの品ぞろえもちょっと変わっているな。
▼アルコールが苦手な方にはクラフトコーラもあるので要チェックだ。
▼「ヒュミドール」という湿度管理ができる専用ケースの中に葉巻まで並んでいる。中山さん曰く「大人が楽しいと思えるコンビニ」を目指して仕入れをしているのだそう。
▼しかしあくまでコンビニなので、自社製品が入ったアイスのショーケースも置いてあるのだ。