まるで映画の中に出てくる「ハッカー」のような男がいた。自らを「神」と称するその男は、日本に住む私に迷惑メールを送ってきた。それは明らかなるフィッシング詐欺だったが、私は気にせず先に進んだ。すると、なんとも切ないメッセージが表示されたのである。
「愛なんてない。哀れみもない。友達もいない……」
きっかけは、VISAカードからのメール(迷惑メール)だった。思わず「うそやん!」と言いたくなるような内容のメールが届いていた。
差出人は、VISAカード。メールアドレスに特に怪しいところはない。
ということで、メールにあった「確認」のリンクを押して進んでみると、
まいどおなじみ、カード情報を入れよ的な画面になった。注目すべきは、
フェミニン……!
「男」まで書けているのに「フェミニン」とは……。けっこう完璧なメール、ならびにwebサイトなのに、非常に珍しい間違いをしている。なぜ「女」と書けなかったのか。どうしたんだ。私は少し心配になった。
とりあえず、すべての欄に数字なりを入力したらどうなるのかを試してみた。私の戦友であり盟友、フィッシング詐欺に造詣が深い「耕平」氏が得意とする「1111111」等を入れる作戦での突破を試みたところ……
特に何の変化もなく、入力欄が空になるだけ。おそらくは この時点でクレカ情報は抜き取られたと見られるが、その後の画面等は用意されておらず、実にそっけないフィッシング。どうした。またも私は心配になった。
しかしこのページ、ひとつだけリンクが隠されていた。それこそが「プライバシーポリシー」のところ。普段なら絶対に押さないリンクであるが、このページに関しては、この文言だけが怪しく光り輝いていた。
誘われるように、それを押した。
すると、なんと……
\ デデーン!! /
いかにもハッカー的なページに飛んだのである。ダブル中指写真の下には、「Hacked By DeusBey」。ちなみにデウス(Deus)はラテン語で「神」。ベイ(Bey)はトルコやエジプトにおける男性への敬称。英語で言うならMr.Godか。
そしてその下には、冒頭でも説明した悲しきポエム。「No love, no pity, no friends in these cold streets.(愛なんてない。哀れみもない。友達もいない。この寒い道すがら)」。
見方によっては日本初のラッパーこと吉幾三の代表曲『俺ら東京さ行くだ』の歌詞のようにも見えてしまうが、とにかく彼は、愛もねえ、哀れみもねえ、友達もいねえ、この凍える散歩道……と、両手で中指を立てながらそう訴えていた。
それはさておき、このページで注目すべきは、彼のインスタのIDが赤文字で書かれている点。ハッカーもインスタをやる時代なのか……と感慨深い気持ちになりつつ、IDを検索してみると……
出てきた。しかし、鍵がかかっている。さすがはハッカー、用心深い。でもって、気になるのは説明文だ。何語なのだかわからないのでGoogle翻訳にぶち込んでみるとトルコ語であることが判明。そして、翻訳内容を見てみると……
「正義も平和もない」とか、またしても『俺ら東京さ行くだ』の歌詞のようなことを言っている。もしくはシブがき隊の『NAI-NAI 16(ナイナイシックスティーン)』か……。
──と、古すぎる例えしかできない昭和な自分を哀れみつつ、とりあえずフォローして友達申請してみると……
わりとすぐに受け入れてくれた。そもそも彼は私のクレカ情報を盗もうとした悪いやつなのだが、私も侍(サムライ)、鍵付きなこともあり礼儀を重んじモザイク処理して紹介させてもらうことにするが、投稿画像は1枚のみ。
そこには、「銃」と「蛇」と「メリケンサック」と「ナイフ」と「ラッパー」と「バイクに乗ってる怖い男」からなる、すさまじく中二病、いや、高2病くらいのイキり倒した9秒の動画が投稿されていた。
そして その動画には、私のようなルートで同インスタにたどり着いた者たちから33件のコメントが付いていた。顔文字だとか、絵文字で「拍手」だとか、そんなようなコメントだが、それらほぼすべてに「いいね」が押されていた。
誰が「いいね」を押したのか調べてみると、ほかでもないハッカーの彼だった。あんなにそっけないフィッシング詐欺のページを作っていたのに、わざわざほぼ全てのコメントに「いいね」を押していたのである。
私も彼にコメントを残した。もちろんまだ「いいね」は押されていないが、反応してくれたら非常に嬉しい。
自らを神の男と名乗るトルコのハッカーの彼がハッキング行為を通して欲しているのは、クレジットカード情報でもなく、金でもなく、もしかしたら「友達」なのかもしれない。友達になろうよ、私で良ければ。日本より愛を込めて。
執筆:迷惑メール評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24.
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