植物を育てるのが壊滅的に苦手である。鉢植えや栽培キットを何度も試したが、発芽しなかったり、ヒョロヒョロと弱々しく伸びた末に枯れてしまうことを繰り返してきた。

ホラー映画によくある「花が枯れる家」じゃ……と家のせいにしたくなるが、筆者の力不足に他ならない。

これがたとえば長年飼っている猫なら、顔をみるだけで「吐きたそう」「これからウンチか」「食事にご不満?」などとわかるものである。その勘が植物に対しては完全に沈黙。生育が悪くても、水が多いのか少ないのか、栄養不足なのか過多なのか、さっぱりわからないのだ。

そんな筆者が、生まれて初めて植物の生命力に感動した「苔」についてお話ししたい。


・苔盆(税込2750円)

今回たまたま見つけたのは、ハーブや盆栽などの室内栽培セットを多数展開している聖新陶芸株式会社の「苔盆」。

苔や流木を配置してナウシカの腐海のようなミニチュア世界を作る「苔テラリウム」にずっと興味があったのだが、ほとんどのキットは結構な高額である。しかも無事に育てられるかわからない。

今回の商品はお手軽価格で、かつ情緒ある日本庭園だ。練習としてやってみたいと思ったのだ。

開封すると、桐箱を模したような木箱に材料が入っていて、これがそのまま容器になる。用意するものは水だけ。あとはスプーンやピンセットがあれば便利だが、基本的にはキットのみで完結する親切ぶり。水やりのためのスプレーボトルまで同梱されている。

底にはスポンジが敷いてあるので、その上に軽石を一面に敷き詰める。造園みたいでちょっと楽しい。

さらにスナゴケをセッティングするのだが……この商品、おそらく何カ月も売り場に並んでいたし、もちろん温度管理なんてされていない。日も当たらず、輸送中には天地や左右がめちゃくちゃになったこともあるだろう。しかし、この状態で生きているというのだ!

なんと-20℃から70℃まで耐えるのだという。植物界のクマムシか!

※地球最強生物クマムシは、乾眠(かんみん)状態になることにより、-270℃から100℃まで生存可能。

しかもハサミで好きな形にカットしていいというのだ。ホントに大丈夫か? 生きものを切り刻んでいるようで、なんだか、ものすごい罪悪感だ……。

スナゴケをセットしたら、上から化粧砂をかぶせる。軽石だけでも風情があったけれど、白砂で寺院の枯山水のように上品になった。砂紋を描いてもいいかもしれない。

ここで化粧砂を固めるためにスプレーで水をかけるのだが……思いもよらないことが起きた。


この段階ではスナゴケの水やりが目的ではないので、化粧砂だけに水をかけるよう指示がある。しかしスプレーなので、完全遮断とはいかず、周囲にも多少の水が飛散した。すると……


みるみるうちにスナゴケの葉が開いた!!


おわかりいただけるだろうか。さっきまで松の葉のようにトゲトゲした状態で固まっていたものが、花が咲くようにパアッと開いている! この間、5分も経っていない! 別生物のごとき変わりよう!! ギズモなの!?

あふれる命の息吹! 明日にでもまた写真を撮ろうとのんびりした気持ちで作業していた筆者は、あやうく生命再生の瞬間を見逃すところだった。

褐色に近いモスグリーンから、新芽のような明るいグリーンへ。一瞬にして四季をみるようである。

このスナゴケ、「普段は葉を閉じて眠っているような苔」で乾燥状態が長期間続いても大丈夫だが、「霧吹きでお水をかけると、一斉に葉を開きます!」という品種なのだ。すごっっっ!

しかもお手入れは簡単、1日に2~3時間ほど日光に当てるだけで、水やりは1週間に1度程度でよし。肥料もいらず、水だけで生きるのだという。暑さにも寒さにも強く、普段は窓辺に置いておくだけでいいのだ。奇跡の植物である! これなら筆者にもできる!!


・植物の生命力

キットには装飾用の黒石やミニ灯籠も含まれているので、自由に配置して完成だ。表面の白砂は固まってしまうので、大規模な配置換えはできない。

植物を育てている人には常識かもしれないが、こんな小さなものでも植物の放つ生命力はものすごく、空気を浄化するような気がする。ずっと眺めてしまう。感動した!

筆者のように経験値が低い方、あるいは、すぐ植物が死んでしまう不吉な家に住んでいる方も、ぜひ試してみて欲しい。苔ならば希望がある。繰り返すが、苔ならば、青々と茂る希望がある!

公式オンラインストアでは欠品中(2021年4月20日現在)だが、Amazon等のECモールでも取り扱いあり。筆者も全力でこの小さな命を守る所存である。


参考リンク:SEISHIN PLUS+(商品ページ
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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