
幼少の頃より、わかめが苦手である。わかめを愛する方々には申し訳ないが、あの独特の匂いと食感がどうも受け付けない。「口に入れたら吐く」とかそこまでのレベルではないが、食卓にわかめの姿を認めると苦りきった顔になること請け合いである。
ただ、筆者はわかめ愛好者とのあいだに火種をばらまきたいわけではない。むしろその逆である。というのも、去る2021年3月8日に日清食品より「チキンラーメン」のわかめ味が新発売されたのだが、その情報を聞いて筆者はこう思ったのだ。
大好きな「チキンラーメン」の助力があれば、わかめを克服できるのではないかと。
改めて説明すると、このたび発売された「チキンラーメンどんぶり わかめ」は、公式HPで「ありそうでなかった」と謳われているように、おなじみのブランドに満を持して登場した新顔である。具材にわかめが多く入っているとのこと。
そして筆者は大の「チキンラーメン」好き。わかめが苦手でも、「チキンラーメン」に混じっていれば食べられるどころか、わかめ自体を克服さえできてしまうのではないかと思い至った。ある意味、これは日清食品から筆者へピンポイントに処方された特効薬にも等しい。
というわけで、さっそく実物を入手した。ちなみに希望小売価格は税別193円だ。
パッケージには「たっぷりわかめがうれしい」との記載があるものの、個人的にはあまり気分が優れない。が、日清食品もこの商品を「わかめ嫌いにとっての特効薬」と思い込んでいる消費者は想定していないはずなので、そこを責めるつもりなどさらさらない。
ともあれフタを開けてみると、中から出てきたのはわかめや玉子や胡麻の入った「かやく」と「あとがけスパイス」の2種類。かやくと熱湯を入れて3分待ち、最後にスパイスを振りかける。
そうして出来上がった「チキンラーメン」には、緑色の海藻が大胆に浮いていた。覚悟していたとはいえ身体が強張る。好感と恐怖がないまぜになっている。好きな異性がめちゃくちゃ怖いドクロの首飾りをしているのを見た時のようだ。好きなのに近寄りがたい。
だがここまで来たのだから、もはやグダグダ言うまい。勇気を持って顔を近づけてみたところ、わかめの独特の匂いがあまりしないことに気付いた。というより、スパイスの香ばしさが圧倒的に勝っている。これはいけるのではないかという気がしてきた。
固く勇気を保持したまま、まずはスープを一口。すると、穏やかで優しい塩気が口の中に広がったのち、スパイスの辛味がピリリと響いた。例えるなら、中華料理店で出るわかめスープの味わいに似ている。いや、それよりもさらに優しく、香ばしいかもしれない。
「わかめスープは飲んだことあるんだな」と言われそうだが、人間生きていればどうしたってわかめスープを飲まなくてはならない瞬間の1度や2度くらいある。加えて言うなら「わかめさえ入っていなければ」と身も蓋もないことを考えたこともある。
さておき、スープを飲んだことで希望を膨らませた筆者は、続いて麺とわかめを一緒にいただいた結果、その希望を確信に変えることができた。「香り豊かでスパイシーなあっさりチキンラーメン」といった風情で、つまりこのラーメンは……実に美味しい。
美味しさの要となっているのは、やはり何と言ってもスパイスだろう。適度に刺激のある風味で、こちらをやみつきにさせるその存在感は非常に大きい。それでいてスープの柔らかな塩味(えんみ)の邪魔はせず、互いに寄り添い合っている。
あれだけグダグダ言っていた筆者にも、塩味の奥にあるわかめの旨味が感じられるほどだ。このラーメンを食べて「わかめさえ入っていなければ」などとは思わない。わかめあればこその美味しさなのだろう。その完成度のおかげで嫌悪感も芽生えない。むしろ引き込まれている。
苦手な食べ物と相対している時特有の「早く食べてしまおう」という感情は一切湧かず、気付けばじっくり味わいながら完食していた。最後まで「満を持して登場した新顔」の妙趣に感じ入ることができた。さすがチキンラーメン、さすが日清といったところか。
わかめを愛する方にはもちろん、筆者と同じようにわかめが苦手な方にも、ぜひとも手に取って食べてもらいたい。自信を持ってお勧めできる新商品だ。
では筆者はわかめを克服できたのかというと……答えは否である。確かにこのラーメンは美味しかったが、それだけで他のわかめ料理も進んで食べられるという気はしない。そう簡単に苦手意識を過去のものにはできない。
「最初からその結論を用意していたのでは」と言われそうだが、その通りである。こうなる予感は大いにしていた。しかしながら、苦手な食べ物に挑んだうえで幸福を感じ取れたことは確かだし、実に貴重な経験をさせてもらえた。
このラーメンに出会えて良かった。今まで勇気を出せば踏み出せていたはずなのに踏み出せていなかった、「ありそうでなかった」一歩を今後は大事にしていこうと、そう思わされたのであった。
参考リンク:日清食品「チキンラーメンどんぶり わかめ」
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
西本大紀











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