あなたの心です。本日11月20日の金曜ロードショーは『ルパン三世カリオストロの城』である。いっけねェ! とっつぁんだ!! もうセリフ全部覚えるくらい見てるけどやっぱり名作。なんと気持ちのいい連中だろう。園丁のじいちゃんの世界名作劇場感が異常

そんな本作の絵コンテ『スタジオジブリ絵コンテ全集第Ⅱ期ルパン三世カリオストロの城』には、作中で語られていない内容が書かれていることをご存知だろうか? 宮崎駿監督が内容の項目に注釈的なコメントを書き込んでいるのだ

言わば、監督の裏設定とも言えるそれらのコメント。知るだけで『カリオストロの城』の見方が変わるものもあるため、11個厳選してご紹介しよう!

・冒頭に隠れ五ェ門

冒頭、カジノを襲うシーンには五ェ門もいる。フィアットの後部座席に斬鉄剣と五ェ門の後頭部が見えているが、絵コンテにも、札に隠れ気味の後頭部を指して五ェ門としっかり書かれている。

・酒場に日本人アニメーター

酒場で次元と指輪について話すシーン。カリオストロの手の者が立ち去る時、一番手前にいる3人組は日本から来た外国修行中のアニメーター

・肖像画の人物の正体

ジョドーがルパンに撃退されて伯爵に報告するシーン。不二子がのぞき見に利用する壁の人物画(写真?)は、初代カリオストロ伯爵のもの。ちなみに、ゴート札の創始者は初代カリオストロ伯爵。

・五ェ門の可愛さ

カリオストロ城を見張るルパン&次元に五ェ門が合流するシーン。3人のやり取りで、五ェ門の「それで銭形を呼んだな?」に対し「あたりー! 良いカンしてるぜ」と答えるルパン。五ェ門は「毒をもって毒を制すか」と締める。この時、五ェ門はいつも通りの難しい表情なのだが……

絵コンテには「本当は自分のサエにうれしいのに、がまんして一言居士をつらぬく」と書かれている。まさか、うれしいのを我慢している表情だったとは。言われてみれば、ルパンのセリフの後の五ェ門アップは口角が気持ち上がっている。ちなみに、一言居士とは、何かひとこと言わなければ気のすまない人のこと。

・宮崎駿監督のバランス感覚

カリオストロ城侵入のため水路に入った直後、ルパンが滝に落とされるシーン。超人的な平泳ぎで戻って来るが、あとちょっとのところで次元の手に届かない。この場面の絵コンテには次のような言葉が書かれている。「いくらなんでもこれでたすかってはウソのつきすぎ」と。宮崎駿監督のリアルとフィクションのバランスが垣間見えるひと言だ。

・カゲの正体

伯爵の裏の実動部隊となっているカゲ。作中でハッキリ語られることはない存在だが、絵コンテにはその正体が書かれている。それはジョドーとグスタフが入り口の落とし穴に落ちた後、伯爵に報告するシーン。伯爵の後ろに召使いが壁みたいになっているが、そのシーンには「これこそ「カゲ」の正体!」という宮崎駿監督の言葉が。道理で全員やたらガッシリしているわけだ。

・不二子の嫉妬?

『カリオストロの城』の不二子は、セクシーというよりもチャーミング。で、個人的には、調べものをしている時に、ルパンに背後から声をかけられるシーンが好きなのだが、そこでの不二子がなんであんなにチャーミングに見えるのかと思っていたら、絵コンテを読んで納得した。このシーンでは以下のような会話が交わされる。

ルパン「ずい分さがしたんだから…」
不二子「探しているのは花嫁さんの居所でしょ?」
ルパン「アラッ知ってたの!?」
不二子「教えてあげてもいいけど私の仕事のじゃましない?」
ルパン「しないしないした事もない」
不二子「どうだか……」

この後不二子はツンツンしながらクラリスの場所を教えるわけだが、「どうだが……」のコマの横にはこう書かれている。「ルパンの態度で、不二子、ルパンがクラリスにうちこんでいるのが判って内心おもしろくないのでブスッとなりつつ」と。つまり、不二子はここでちょっとヤキモチを焼いているのだ

そう考えると、「探しているのは花嫁さんの居所でしょ?」は鎌をかけていることが分かる。短いシーンにも男女のやり取りが含まれているのだ。そのため、本作の不二子には、セクシーさよりも内面的な大人の女性のチャーミングさを感じるのかもしれない。

・地下の遺体

地下に落とされたルパンは、遺体の脇の壁に遺書を見つける。そこには日本語で「1904.3.14 日本國軍偵 河上源之助 ここに果つ 仇(以下判別不明)」と書かれていた。その時のルパンのリアクションと後の銭形のリアクションから、私(中澤)はこの遺体が歴史上のマニアックな有名人か何かなのかと思っていた。

しかし、絵コンテによるとこれは「日本人だ」という驚きっぽい。ルパンの驚きのコマのところに「ルパン目パチ(日本人だぜ)」と書かれている。

・カリオストロ城は意外とホワイト

偽札工房を発見するルパンと銭形。ところどころ明かりがついているが、無人のおかげで偽札の証拠を入手したり、火をつけて逆襲の糸口にすることができる。無人で良かったなと思っていたら、絵コンテにはこう書かれていた。「カリオストロ公国では徹夜はやらない」と。意外とホワイトである

・不二子とクラリス

『カリオストロの城』は上映時、興行収入はそこまでではなかったが、クラリスのヒロイン力(りょく)は話題になっていたという。だが、前述の通り、本作は不二子もかなり良い。そのコントラストが非常に出ているのが、クラリスと不二子がルパンの話をするシーン。

不二子「時には味方、時には敵。恋人だったこともあったかな」
クラリス「まあ」
不二子「彼生まれつきの女たらしよ 気をつけてね」
クラリス「すてられたの…!?」
不二子「まさか…すてたの」

女性同士で、クラリスも男に見せない側面を見せているこの会話。しかし、それは不二子も同じ。「まさか…すてたの」の不二子のコマの横には「すてたのは女の誇示ですので、一寸のり出しつける」と書かれている。

また、「彼生まれつきの女たらしよ 気をつけてね」のコマの横には「あっさり云ってのけるが、内心はどうなのか…誰もしらない」という言葉も。

それを踏まえて見ると、ルパンの話をしている時、真っすぐ向かってくるクラリスに不二子が押され気味なようにも見える。ひょっとしたら不二子はクラリスに自分が失ってしまったものを見ているかもしれない……というのは私の個人的見方すぎるにしても、クラリスの子供っぽさと対照的な不二子の “あえて冷めた” 口調には人間臭さを感じずにはいられない

・没オープニング

絵コンテの最後には、没になったオープニングの絵コンテが掲載されているが、それを見るとカリオストロ公国に着くまで結構苦労していることが分かる。草原で穴にハマる車を押す次元や、ガソリンが切れて馬に引いてもらう様子が描かれているのだ。泥棒は一日にして成らずということか。


──以上、『ルパン三世カリオストロの城』について作中では語られていない裏設定をお贈りした。カメラワークや絵の動きだけでなく、各キャラの人間的側面が掘り下げられている宮崎駿監督の絵コンテは、見るとより深く作品の世界観に浸ることができる。絵コンテを見て改めて思った。「まさしく名作だ」と。

なお、絵コンテに付属している冊子『ルパン三世カリオストロの城月報2003年4月』によると、本作はスケジュールの関係から本来描く予定だったラストDパートを諦めたものなのだとか。本来のものについて、宮崎駿監督は作業中から自己評価で90点を超えるほど期待していたが、この戦術的撤退により大きな敗北感を味わったという。

もし、監督の頭の中にあったものが全て描かれていたらどんな作品になったのか? ファンとしては気にならざるを得ないところだが、それはミロのヴィーナスの腕のようなものなのかもしれない。そして、それでも本作が映画史に残る名作であることは紛れもない事実。今夜もロマンチストの怪盗があなたの心を盗むに違いない。

参照元:Amazon
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.