人口の10人に1人といわれる左利き。少し前までは「子どものうちに右利きに直す」という考えが一般的だったように思うが、最近では無理に矯正することのデメリットもあるということで、学校でも家庭でも個性の1つとして捉えることが主流のようだ。
ただし、すべてが右利き用に設計されている世の中では、不便も少なくないという。とりわけ文字を書くのが苦手な人が多いのだとか。そんな悩みを解決すべく『左利き用 誰でも一瞬で字がうまくなる大人のペン字練習帳』(株式会社アスコム)が出版された。
これを右利きの筆者が使ってみたら、左利きの苦労がわかるのではないか? 結論からいうと、めちゃくちゃ大変だった。たとえばどんなことかというと……
・その1. 手本が見えない
これはよく聞く話で、タテ書きのペン字練習帳のようなものは手本が利き手に隠れてしまう。手本の意味なし!!
市販のペン字練習帳はほとんど用をなさないことになる。習字のお稽古でも手本を置くのは左だし、問題文が左にきている答案用紙も多い。大人だからこそパソコンやスマホが使えるけれど、小学生の漢字ドリルなんてとても大変だったんじゃないだろうか?
上からのぞき込むようにすると見えるけれど、その分、前のめりの姿勢になってしまう。短時間ならともかく、習慣化すると姿勢が悪くなるような気がする。
・その2. 紙や手が汚くなる
左利きの人がヨコ書きをすると、自分の手で書いた文字をどんどん隠していくことになる。右利きが「右ヨコ書き」で書いているようなものだ。インクがこすれて汚くなること必至。
ゲルインクのペンだと悲惨だ。
当然のごとく手も汚くなる。
右利きの人もタテ書きのときは似たことが起こる。ただし、次の行に移るのは最下段まで書き切ってからだから、インクが乾く時間的猶予は少しある。
・その3. カーブが書きにくい
ひらがな・カタカナには「の」のような右回りのカーブが多い。これは右利きの人には書きやすい形だ。けれど左利きの人にとっては、手の可動域が大きくなり、右下がりの字になりやすいんだとか。さらに「はね」や「はらい」の動作が難しいのだという。
左利きを体感してみるために「鏡文字」にして書いてみる。すべて普段とあべこべ、左方向へのカーブになっている。ここでは書き順は気にせず、形だけ意識してみる。
か、書きにくい!!
線がフラフラと頼りなく揺れ、カーブもぎこちない。
特に「つ」の難しさときたら……! 誰だこんな難しい字を作ったのは……!!
ただし、これは「慣れ」の問題のような気もする。たとえば右利きの人だって「し」と「J」のように、左右それぞれのカーブを書くし。
・その4. 横線が書きにくい
日本語の書き順は、すべて「左から右」へ。右利きの人は、この「引く」動作をなんの意識もせずやっている。
けれど左利きの人にとっては、過去記事にもあるとおり「押す」動作になり、きれいに書くのが難しいのだそうだ。
各自が書きやすい方向で書けばいいと思うけれども、日本語には「書き順」というものがある。学校でも正しい書き順を覚えさせられ、テストもあるから、左利きの人も書き順に合わせていると思う。
今度は書き順も意識してトライしてみよう。先ほどと同様「鏡文字」で書いてみる。
ぐぬぬぬ……線が震える。右から左って書きにくい!
特に「ス」や「ヌ」のような、1度ぐっと横線を引いて(この場合は押して)から、はらうような動作が難しい。相当ぎこちなくなってしまう。
繰り返すがこれは無理して左手で書いているのではなく、何十年も慣れ親しんだ利き手だ。しかもお手本をよく見ながら書いている。
にもかかわらず、線はプルプルと震え、変に反ってしまったり、力が入りすぎたりする。思うように指先が動かない。動きにくい方向に、あえて動かさないといけないというか……自分の関節に油をさしたくなる。
慣れればもう少しスムーズになるとは思うが、左利きの人すごすぎる! 右利き用の書き順だと、人体のつくりと逆の動きを常に強いられている状態だ。せめて書き順が自由になれば、かなり書きやすいんじゃないだろうか。
・左利きの不便
ほかにもカレーやスープをすくう逆しずく型のレードルや、急須も使いにくいんだそう。右手で持って、手前に傾けるようになってるもんね。なるほどなぁ。
立場が変わると世界の見え方が違う。同じ左利きでも「まだまだそんなもんじゃないよ」という人もいれば「慣れれば気にならない」という人もいるだろうが、勉強になった。
なお『左利き用 誰でも一瞬で字がうまくなる大人のペン字練習帳』では、ペン字講師の萩原季実子氏が「なぜ書きにくいのか」「どういう練習をすればいいのか」を解説。字でお悩みの左利きさんはぜひどうぞ!