2019年12月27日、映画『男はつらいよ お帰り寅さん』が公開された。記念すべき50周年にして50作品目、実に22年ぶりの最新作となる本作品の公開を心待ちにしていた方も多いことだろう。

「男はつらいよ」を愛し、寅さんを尊敬してやまない私、P.K.サンジュンもその1人。映画公開初日、ウキウキしながら劇場に足を運んだ……のだが、今この瞬間、記事を執筆するにあたり大変な葛藤と戦っている

・人生の目標は寅さん

まずは私がどれほど「男はつらいよ」を愛し、そして寅さんを尊敬しているのかを説明させていただきたい。私が「男はつらいよ」に興味を持ったのは今からおよそ10年前、当時30歳であった。テレビの「寅さん特集」をきっかけに、私は「男はつらいよ」に興味を持ったのだ。


それまでも当然「男はつらいよ」の存在自体は知っていたものの、同作を観る機会が1度もなく、そもそもどんなジャンルの映画なのかさえ知らなかった。ところがDVDで鑑賞した「男はつらいよ」の劇場版第1作のおもしろいこと、おもしろいこと! 大げさではなく「衝撃を受けた」と言っていいだろう。

それからというもの「男はつらいよ」を全作観たし、柴又にも幾度となく足を運んだ。周囲の人には隙あらば「男はつらいよ」の布教活動をしており、24時間くらいなら寅さんの口調で生活できる。真面目な話、中学生の頃に寅さんと出会っていたら、おそらく私は的屋の道を志していたハズだ。それくらい寅さんに憧れている。

・心を鬼にして

そんな私だからこそ最新作『男はつらいよ お帰り寅さん』について、正直に語らねばなるまい。劇場に行こうとしている人を止める気はサラサラないし、寅さんをこよなく愛する人たちならば、それなりに本作を楽しめることだろう。だがしかし、この作品で初めて「男はつらいよデビュー」することには断固反対する

物語の内容については一切触れないが、本作は「男はつらいよ」であって「男はつらいよ」ではない。どういうことかというと、これまでの「男はつらいよ」の主役は渥美清さん演じる車寅次郎であるのに対し、本作の主人公はその甥っ子「満男(吉岡秀隆さん)」だからだ。

もちろん、お亡くなりになった渥美清さんが寅さんを演じられるハズもなく、満男を中心に物語が展開されるのはむしろ自然な流れである。……とはいえ、それは「男はつらいよ」でない。「男はつらいよ外伝」であり「スピンオフ版 男はつらいよ」なのである。

何より避けたいのは、本作で初めて「男はつらいよ」に触れた人に「ふーん、男はつらいよってこんな感じなんだ」と思われること。違う違うんだ。「男はつらいよ」は寅さんが恋に落ち、フラれ、旅に出る──。その過程で義理や人情を始めとした “人として大切なこと” に気付かされる作品なのだ。

・正統な「男はつらいよ」ではない

本作で寅さんは回想シーンで多く登場する。その1シーン1シーンは名場面ばかりで文句のつけようがない。私も時に笑い、そして時には涙が頬を伝った。だがそれは「1度は観たことがある思い入れのあるシーン」だからで、初見でその真髄が伝わるとはとても思えない。


要するに『男はつらいよ お帰り寅さん』はシリーズのエピローグ的作品でしかなく、そういう意味では初見の人にはハードルが高いし、やもすればこれまでの「男はつらいよ」49作品を誤解してしまう可能性を秘めている。これまで散々、寅さんの布教活動をしてきた私だがここは心を鬼にしてこう言おう。


初見の人は『男はつらいよ お帰り寅さん』を観るな。


その前にやるべきことがある、と──。


できる事ならば「男はつらいよ」のシリーズ全作品をご覧いただき、せめて「寅さんあるある」の半分くらいはわかるようになってから『男はつらいよ お帰り寅さん』に入っていただきたい。これは「男はつらいよ」を全人類に知らしめたい、私の切なる願いだ。

・まずは過去作を観て欲しい

本来ならば「みんな最新作を観てね! そして興味を持った人はネットフリックスとかで全作品観てね!!」と書きたかった。純粋に「最高だった(涙)」と言いたかった。だがしかし、私は自分に素直で正直な車寅次郎のことを心の底から尊敬している。ゆえに、ウソは書けない。

とはいえ、上映中でも笑いたいときに笑える「男はつらいよ」は、当時を連想させる大らかな空気が劇場を覆っていた。……当時を知らんけど。そんな空気を感じたい人は「男はつらいよをきっちり吸収してから」劇場に足をお運びいただきたい。

参考リンク:男はつらいよ公式サイト
Report:P.K.サンジュン
Photo:©2019松竹株式会社

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