たとえ「ラーメン二郎」を食べたことがなくとも、「二郎と言えばこってり」というのは多くの人にとっての共通認識だろう。二郎がこってりでなくなるとしたら、核戦争とパンデミックと隕石衝突が同時に起こった末に地球最後の日がやってきた時くらいだろうと、筆者もまたそのように思っていた。

だが、どうやら「こってりではない二郎系ラーメン」はすでに完成しているらしい。とあるラーメン屋では、にわかには信じがたいことに「さっぱり系二郎」が食べられるというのだ。人智を超えた響きにつられ、気が付けば筆者の足は現地に向いていた。

やってきたのは東京・渋谷にある「凛」という二郎系のラーメン店である。

店先の看板に「しょうゆ(800円)」や「塩(930円)」などのメニューが記してあり、最上部にはなんと「ポン酢(900円)」の文字が。そう、このお店ではポン酢を使った二郎系ラーメンを提供しているのだ。

かくして「さっぱり系二郎」は普通に人智の範囲内であることが判明したわけだが、それにしても驚きのメニューだ。未体験の身からすれば、本当にさっぱり系として成立しているのだろうかという疑問も湧く。

なにせ二郎とポン酢は、それぞれこってり界とさっぱり界の元締めであり、水と油が泣いて逃げ出すような好対照の存在だ。喧嘩どころか、互いに一切の手心なしで殺し合いそうな予感さえある。

願わくは丼の中で手を取り合い、共存していてほしい。融和への願いを胸に秘めつつポン酢ラーメンを注文したところ、10分ほどで実物が到着した。

麺の上にうずたかく積み上がったもやしとキャベツは、まさしく二郎のランドマーク。縮れた太麺も含め、見た目は完全に二郎のそれである。注文時に「ニンニク入れますか」と聞かれて瞬き1つのあいだに「入れます」と答えたため、ニンニクもトッピングされている。

肝心の味の方はいかがか。やや緊張を覚えながらもスープを飲んでみると、まずさわやかな酸味が口の中に広がった。ポン酢そのものの味というわけではなく、ラーメン向けにマイルドに調整されている。実にほどよい酸っぱさだ。

そしてポン酢の要素のあとに、すかさず二郎の風味が通り過ぎていく。独特の醤油感と、パンチのあるニンニクの香り。柔らかめの麺をすすってみても、ポン酢に負けないジャンキー成分が確かに絡んでいる。

例えるなら、ポン酢の海の上を二郎の風が吹き抜けていくような感じだ。有史以来初めて使われたであろう比喩を使ってしまったが、ともかくこれはまさしくポン酢二郎、さっぱり系二郎と呼ぶほかない一品である。

味といい具材のボリューミーさといい、「二郎を食べている」という感覚に十分没入できるし、なおかつ濃厚さと絶妙に溶け合う爽快感までも堪能できる。ここまで徹底的な融和路線が打ち出されていたことに、己の不勉強を悔いるほかない。

歴史は自分の知らないあいだに動いているものだ。地球最後の日などではなく、ここから新たな時代が始まっていくのだろう。二郎をよく知る人こそ、このラーメンを食べればそんな感想を抱くに違いない。ぜひともご賞味あれ。

・今回紹介した店舗の情報

店名 凛 渋谷店
住所 東京都渋谷区宇多川町6-20
営業時間 11:00~15:00 / 18:00~22:00
定休日 日曜

Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

▼さっぱり系二郎、ポン酢ラーメン

▼ボリューミーな具材、縮れた太麺。外見は二郎そのまま

▼味は「ポン酢の海の上を二郎の風が吹き抜けていく」ような感じ

▼要は美味しい。確かな満足感

日本、〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町6−20