脂が乗った身が舌の上でトロける。ウメェェェエエエ! 私(中澤)は『ごめんなさんま缶』を食べて叫び出しそうになった。これが税込290円なんだから衝撃と言わずしてなんと言うのか。それほどにさんまの旨みが詰まった一品である。

ところが、生産元はこの缶詰に「ごめんな」とつけた。さんま水揚げ量日本一・北海道根室の缶詰製造会社マルユウが平成29年に1度だけ作ったこの幻の缶詰。これまで食べたどのさんま缶詰よりもウマイ上、味を考えると値段も破格である。一体何を謝ることがあるのか

・マルユウが謝る理由

実は、この缶詰の名前が『ごめんなさんま缶』になったのにはワケがある。それは缶詰にも記載されているのだが、マルユウが謝っている理由は以下の通り。

・平成29年は不漁のためいっぱいつくれなくてごめんなさい
・大きいサイズのさんまでつくりたかったけどつくれなくてごめんなさい
・いっぱいつくれなかったので売り切れたらごめんなさい

──そう、平成29年はさんま大不漁の年で、マルユウ印のさんま缶の基準を満たすサイズが獲れなかったのである。そのため、上記の気持ちを持って作られたのが『ごめんなさんま缶』。1度だけしかこの缶詰が作られていないのも同じ理由からだ。

・どこまでもさんま缶に向き合う

とは言え、冒頭で述べた通り、その味は抜群。私は、マルユウ『限定さんま缶(税込498円)』も食べたことがあるが、正直違いがよく分からない。『ごめんなさんま缶』を『限定さんま缶』として売ったとしても、大した問題じゃないような気さえする。

だが、マルユウは謝る道を選んだ。全てを明かし200円安くした。そこには、マルユウのさんま缶への真摯な姿勢が垣間見える気がする。どこまでも正直にさんま缶と向き合った結果が、この幻の缶詰『ごめんなさんま缶』を生んだのだ。

北海道本島の最東端にあたる根室。そこにある小さな工場・マルユウ。肌には寒いが、さんま缶への想いは熱い。そんな熱い想いがより強く感じられる『ごめんなさんま缶』が私は好きだ。

缶詰はただの保存食ではない。そこにはそれぞれの物語が詰まっている。今回もそんな物語を知ることができた。290円は非常に安いと言える。

執筆:缶詰評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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