福岡県の中西部に位置する大野城(おおのじょう)市にやってきた。なんでも静かな住宅街の一角に、知る人ぞ知る「珍美術館」があるらしい。芸術の秋だし、たまには本物のアートに触れておこう……そんな気持ちだった、目的地に到着するまでは。
最寄り駅であるJR鹿児島本線「水城駅」から、ナビが示したルートに従って細い路地を歩いて行く。数分後、ゴール地点にひっそりと佇んでいたのは、美術館というよりは妖怪屋敷……「芸術の秋」というよりは「怪談の夏」だった。おいおい残暑が厳しすぎるな。
・こてえ美術館
美術館の名前は「三浦鏝絵(こてえ)美術館」。こて絵とは、左官職人が “こて” を使って家や蔵などの壁に絵を描いたもの。漆喰を用いた日本式のレリーフである。まあ、説明はこのくらいにしておこう。住宅街の中に突然現れたのは……漆喰彫刻の巨大な白竜だ。
迫力よりも怪しさが圧倒的に勝っている。下校途中の小学生たちもスルーしているのだ。しかし、記者のような凡人には本物のアートが理解できないだけなのかも……。
ということで、とりあえず中に入ってみようと決意したわけだが、入口と思われる「まっすぐ伸びる木の板」があまりにも心もとない。大丈夫なのか、本当に大丈夫なのかこれ。
ギシ……ギシ……ギシ……1歩ずつ慎重に。バキッといきそうな恐怖と戦いながら美術館を目指す。けっこう急な坂道だ。アートに触れるのもひと苦労だが、ゴールまではきっともう少しのはず。しかし……
2階には何もなかった。
マジかよ。
・美術館は2階ではなく地下
その後、地下駐車場のようなエリアを改造したと思われる展示室を発見。どうやら、こっちがメインらしい。不気味な「こて絵」がズラリと並ぶ通路を、奥へ奥へと進んで行く。ドラえもんらしきキャラクターもいるから安心だ。
たどり着いたのは手作りの展示会場。「ご自由に電気をつけて見てください」というフリーダムな美術館だ。入館料は無料で、写真撮影もOKとのこと。入口はごみごみしていたが、館内はきれいさっぱりな印象。いきなり別世界にやって来たような感覚である。
・約200点の作品
聞くところによると「三浦鏝絵美術館」は、鏝絵創作家である三浦辰彦さんの私設美術館で年中無休、日の出から日の入りまで開館しているようだ。作品の数は200点以上あり、どの作品も独特な雰囲気を漂わせている。たとえば……
「おえほん」を持った宣教師や……
ミステリアスなノーパン青年……
またしてもノーパン姿の方……
作品名は「初音ミク」とのこと。
・作品名もアーティスティック
そう、感性の鋭い作品名も要注目なのだ。たとえば、ルーブル美術館に出展した作品には『花は花は花は咲く』と名付けられていた。生命の喜びが湧きあがる縁起の良いタイトルである……ってか、「ルーブル美術館」という言葉がこの場所から出てくるとは。
対照的なのが、タイで賞を受賞した作品『わ~すごい』である……おいどうした、急にやる気を失ったのか。
いや、人間らしい豊かな感情を作品名にダイレクトに落とし込んだ結果が『わ~すごい』なのだろう。
・芸術の秋にオススメ
というわけで、気づいたら「こて絵」の不思議な世界観に引き込まれてしまった。芸術の秋は、未知の領域に足を踏み入れるいい機会かもしれない。かなり刺激的なので、興味を持った方はぜひ「三浦鏝絵美術館」に足を運んでみてほしい。夢に出てきそうで不安になるけどな。
・今回ご紹介したスポットの詳細データ
名称 三浦鏝絵美術館
住所 福岡県大野城市下大利4-7-1
時間 日の出から日の入りまで
休日 無休
Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
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▼三浦鏝絵美術館で見つけた作品たち
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