
今もなお世界中の人に愛される不朽の名作『ライオン・キング』。その “超” 実写版が8月9日に公開される。
フルCGで作られた今作を一足先に観てきたのだが、あまりのリアルな映像に度肝を抜かれた。風に吹かれて揺れるライオンのたてがみ、豪快かつ優雅に宙を舞う滝のしぶき、そして壮大なサバンナの大地を美しく照らす日の出。その全てがあまりにリアルで、手を伸ばせば、スクリーンの動物たちや草花に触れられるのではないかとさえ錯覚したほどだ。
そのとんでもない作品を監督した人物に、今回なんとインタビューできる機会をいただいた。彼の名はジョン・ファヴローさん。天才とも称されるファヴローさんに、心臓をバクバクさせながら質問してきたので、そのインタビュー内容をぜひ見てほしい!
・監督、脚本、演技なんでもできちゃう “ジョン・ファヴロー”
インタビュー部分に移る前に、今作の監督を務めたジョン・ファヴローさんについてもう少しばかり説明しておきたい。
ニューヨーク市出身のファヴローさんは、映画『アイアンマン』『アイアンマン2』で監督・製作総指揮を務め、さらに両作品で主人公スタークの運転手ハッピー・ホーガン役としても出演している。
この他にも映画『アベンジャーズ』シリーズの製作総指揮、『スター・ウォーズ』の新ドラマシリーズ “ザ・マンダロリアン” の製作総指揮・脚本を務めており、まさに現代の映画界を代表するスゴイ人なのだ!
そんな人物にインタビューできる機会はめったにないと、全身全霊をかけて臨んだファヴローさんへのインタビューは以下の通りだ。
・サークルオブライフに隠された深い意味
──今日はこのような貴重な機会をいただき、本当にありがとうございます。映画を通して、たくさんのことを考えさせられたので、今日はいろいろ質問させてください。
「はい、よろしくお願いします」
──まず最初の質問です。この映画のひとつの大きなテーマとして、 “自分が何者であるかを知る” ということがあると思います。
「そうですね」
──多くの人が自分が何者であるかを知りたいと思っています。でもその見つけ方が分からず困っている人もたくさんいます。そこでお聞きしたいのですが、自分が何者であるかを見つけ出すうえで何か大切なことはありますか?
「興味深い質問ですね。実は映画のなかでシンバ(主人公)は自分が何者であるかを “見つけ出す” のではなく、“思い出す” ということをしています」
──あっ、確かに!
「私たちは心の奥底では本当は自分が何者であるかを知っていると、私は思うんです。映画のなかでは、ムファサ(主人公の父)はシンバに単に『自分が何者であるかを思い出せ』と言っているわけではなく、祖先のライオンたちからの大きな流れを見て自分とは何者なのかを思い出せと語りかけています」
──なるほど。
「そしてシンバはサークル・オブ・ライフ(生命の環)において、自分にはどのような役割があるかについて考えます」
──サークル・オブ・ライフにおける自分の役割ですか。
「そうです。自分が何者であるかを考えるというのは、“自我” を見つけ出すという個人的なテーマのように捉えられがちです。しかしこの映画の素晴らしい点は、サークル・オブ・ライフという大きな命のつながりのなかで自分の役割を思い出すことが、自分が何者かを思い出すことにつながると示唆しているところなんです」
──そういうことだったんですね……。(映画に込められた意味が深すぎる……)
・やっぱりあの日本映画監督は凄かった
──次の質問です。監督として、一番苦労したシーンはどのシーンでしょうか?
「ワオ……考えたこともなかったですね」
(しばらく黙考)
「……雲ですね」
──雲ですか?
「ムファサが雲となって現れるシーンです。ここは映画のなかでも最も心が動かされるシーンで、最初に私が製作陣と話し合ったシーンでもあり、最後に完成させたシーンでもあります」
──こだわりようがハンパない!
「自然な雲の動きや光の当たり具合を保ちながら、どうやってそのなかにムファサの存在を感じさせるのか、そのバランスが非常に難しかったです。この目でその完成シーンを見るまで、ずっと気にかけていたシーンです」
──あのシーンはすごく印象的で、見ているだけで様々な感情が湧いてきました。このような観客の心を動かす映画を作るには、何が必要なのでしょうか?
「自然には人の心を動かす力があると、私は思っています。偉大な映画制作者たちは自然を巧みに操る術を知っていて、観客の様々な感情を引き出すため、天気や風、日光をうまく活用していました」
──自然を操る?
「はい、そのいい例が黒澤明監督です。黒澤監督は、自然を操るマスターです。私には到底できないくらい、雨や風といった天気のコンディションに凄まじい量の情熱を注いでいました」
──黒澤監督はやはりすごい方だったんですね。
「いま私はスターウォーズの新ドラマシリーズの製作に携わっているのですが、そのことについて最近よく製作陣と話しています。確か映画『用心棒』のシーンだったと思うのですが、主人公の侍が風が吹き荒れるなかを、静かにまっすぐ歩き進んでいくシーンがあります。これは登場人物を引き立たせるために風が “演技” をしているんです」
──なるほど、黒澤監督の作品では自然も役者なんですね。
「そうなんです、黒澤監督は自然にも演技をさせているんです。そういった考えは、今作の『ライオン・キング』でも活かされています。ムファサとシンバがプライドロック(劇中に登場する巨大な岩)に登り、広大なサバンナを見渡すシーンがあるのですが、よく見ると、ムファサとシンバの毛が風で揺れています」
──ああ! 確かにそうでした!
「そうすることでプライドロックの高さを表現、そして子ライオンであるシンバがその高さから感じる恐怖も表現しました。使用するツールや表現方法は異なるかもしれませんが、偉大な制作者たちが行ってきたように、自然の力を取り込むことで観る者の感情をより動かす映画が作れるのかもしれません」
──これから映画を観る目が……なんか変わった気がします。
・「CGの世界」と「現実世界」の差を埋めるもの
──次の質問は、映画における現実世界の表現方法についてです。この映画を観たとき、全ての動物、虫、植物がすごくリアルで本当にビックリしました。
「そうですよね」
──近年CG技術が飛躍的に進化し、現実世界そっくりのものを作り上げられるようになりました。しかし、まだ何か足りないと思うのです。「現実世界」と「CGが作り上げた世界」には、まだ何か差があると思うのです。
「まさにその通りです」
──そこでお尋ねします。CG技術が凄まじい進化を遂げた今、映画のなかの世界を現実世界により近づけるためには、次に何が必要なのでしょうか?
「興味深いですね。映画の世界をより現実のものにするには、 “監督の感性” が必要だと私は思います」
──感性ですか?
「はい。例えば、動物にはそんな動きはできないとか、そんなふうに撮影したらそんなに長く動物の動きは追えないとか、そういったことに気づける感性です」
──なるほど!
「今の時代、誰もが素晴らしい技術にアクセスすることができます。なかには、CGでしか作れないようなとんでもない世界を表現しようとするクリエイターもいます。しかし私がCG技術で表現したいのは、自然を徹底的にリアルに描いたナチュラリズムの世界です」
──確かに今作の『ライオン・キング』の自然描写は驚くほどリアルでした。
「『白雪姫』(1937年公開)の動物描写と『バンビ』(1942年公開)の動物描写を比べたら分かるのですが、ウォルト・ディズニーもより自然な描写に挑戦しました。そこには作り手をワクワクさせる何かがあり、今作の『ライオン・キング』でも私はその限界に挑戦しました」
・天才監督にどうしても聞きたかった質問
──それでは、最後の質問です。ライオン・キングの動物になれるとしたら、どの動物になりたいですか?
「ワオー! ラフィキ(ヒヒのキャラクター)になりたいですね! 私はラフィキが好きでして」
──どうしてですか?
「魔法に精通しているからです。まるでヨーダのように、まるでガンダルフのように。そしてサークル・オブ・ライフがどのようなものであるかも理解しています」
──賢者のような存在ですもんね。
「ラフィキは最適なときに、最適な形でシンバを導いていきます。歳をとってくると皆が気づくと思うのですが、ちゃんとした知恵を持ち、それを正しく使えば、ほんのちょっとしたことで他人に大きな導きを与えることができるんですよね」
──言われてみれば、そうですね。
「小さい頃はシンバやムファサに憧れる人も多いと思いますが、歳をとってくると、やはりラフィキに惹かれますね。彼がなにを考え、世界をどのように見ているのか、すごく気になります」
──私もラフィキのように賢くなれるよう頑張ります! 本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました!
「お話しできて良かったです。本当に素晴らしい質問ばかりでした。本当に!」
・映画を楽しむ最高のスパイス
いや~、深かった。監督の話についていくのに頭をフル回転させ続けたため、インタビューを終え、部屋を出たときにはもうヘトヘトだった。
しかしこれで「作り手の想いへの理解」という映画の面白さを何倍も引き立てる最高のスパイスをゲットすることができた。みなさんも監督のこだわりや信念を思い出しながら、ぜひ劇場で超絶リアルな『ライオン・キング』を楽しんでほしい!
よ~し、もう一回観て、もっともっとライオンキングの世界を堪能してやるぞ♪
参考リンク:ライオン・キング
Report:田代大一朗
Photos:© 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. / RocketNews24.
▼さすが天才と称されるだけあって、映画に対する思慮深さと情熱がハンパなかった!
田代大一朗







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