見知らぬ街を歩いていると、想像の範疇を超える出来事に遭遇することがある。それはたとえば、怪しい男性が街路樹に何かを隠す場面であったり、自分の既成概念を覆すような飲食物に出会ったり。

東京・王子駅近くの『カレーハウスじゃんご』との出会いもまた、刺激的なものだった。店先にあったメニューを見ると、そこには「とんこつスペシャルカレー」とある。カレーなのにとんこつ? まさか白濁したルウなのか。実際に注文したら、その想像を超える美味しい一品だった。

・王子と紙

最近、王子駅の南に位置する飛鳥山公園を訪ねる機会があった。新1万円札の肖像画に選ばれた、渋沢栄一の史料館を訪ねるためだ。


渋沢栄一は、日本を代表するさまざまな企業の創立に関わった人物だ。王子製紙(現・王子ホールディングス株式会社)も渋沢が創立に携わり、のちの製紙業界をけん引していく企業として成長している。王子はいわば、渋沢のお膝元と言っても良いだろう。

実際渋沢は、飛鳥山公園内にある旧渋沢庭園から、眼下の製紙工場を眺めていたという。同じく飛鳥山公園には紙の博物館もある。王子と紙のつながりには深いものがある。


・初めてなのに懐かしい

今回紹介するじゃんごは、国立印刷局王子工場の隣にある。


お店の外観からは昭和レトロの雰囲気が漂っている。「じゃんご」のひらがなのフォントが可愛らしく、親しみを感じさせる。中に入ると、店の雰囲気を象徴するような温かみあふれる店主が「いらっしゃいませ」と気持ちの良い挨拶で出迎えてくれた。家庭的なぬくもりのあるお店だ。

壁にはメニューと、古き良き昭和の王子駅周辺の写真が貼られている。初めて訪れるのに、懐かしいさえ思えるほど、温かみがある。


・とんこつ? 鍋焼?

メニューを見ると、一般的なカレー屋さんのものと変わらないように見えるのだが、1番上と1番下に、ほかでは見ないモノの名前がある。


とんこつ? グルメ鍋焼? カレーなのコレ? 添えられた写真はたしかにカレーのようだ。意外なオリジナルメニューを提供しているらしい。鍋焼も気になったが初めての訪問なので、とんこつスペシャル(1150円)を注文することにした。


料理が出てくるまでの間に、店内の様子を見てみると、どうやら「モヤモヤさまぁ~ず2」(テレビ東京系)の取材を受けたようだ。さまぁ~ずと2代目アシスタントだった狩野恵里アナウンサーのサインが飾られている。どんな番組内容だったのだろうか。想像していると、注文の品が来た。


・角煮 + 豆腐 + きゅうり + ニンニク

テーブルに置かれると、まずはその見た目に驚いた。カレーに添えられていたのは、豚の角煮と豆腐!? 角煮の上にはきゅうり。そして豆腐の脇にはニンニク。


おお~。豚の角煮が添えられているカレーには出会ったことがあるが、豆腐ときゅうりは初めてかも。出てくるまでは、とんこつラーメンのスープのように白濁したルウなのかと思っていたが、この角煮を前にして、そんな想像は一気に吹き飛んだ。


角煮はそのルックスを裏切らない柔らかさ。ナイフがなくてもスプーンでサクっと切り取ることができてしまう。口に入れると瞬間にトロけてしまう。


人生初の “カレーに豆腐” 。豆腐が他の食材の味を邪魔する訳はなく、当然カレーと合わない訳がないのだ。食べるとスパイシーなカレーの味を含んでおり、噛むとルウの美味しさがにじみ出てくる。


このカレー最大の神秘はルウにある。メニューの写真から日本では一般的な、「日本式欧風カレー」のルウをイメージしていた。スープカレーのお店でない限り、ほとんどが小麦粉が入ったとろみのあるルウのはず。ところが、ここはいわゆる “シャバシャバ” 系カレーだ。


液状ではあるものの、味は濃く、スパイスの香味がしっかりときいている。ほど良い辛さが食欲を刺激して、あっと言う間にすべてを平らげてしまった。食べ切っているのに、さらに食いたい! そんな衝動に駆られてしまった。

カレーの味もさることながら、店主の控えめながら丁寧な接客にも感服。真摯でひたむきなお店経営を垣間見た気がする。渋沢栄一史料館を訪ねた帰りに、ぜひともじゃんごのカレーを食して欲しい。

・今回訪問した店舗の情報

店名 カレーハウスじゃんご
住所 東京都北区王子1-5-4
営業時間 11:00~23:00
定休日 不定休

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

日本、〒114-0002 東京都北区王子1丁目5−4