最近なにかと話題になる「LGBT」という言葉。レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取り「セクシュアルマイノリティの総称」とされるワードだが、どうだろうか? あなたの知り合いや友人、家族にはLGBTの人がいるだろうか?

私、P.K.サンジュンには数名のLGBTの知人がいるが、初めて知り合ったのは今から15年ほど前に勤めていた「会社の上司」であった。今回はその上司からゲイであることをカミングアウトされたときの話をしたい。

・15年ほど前の話

私がサラリーマンデビューしたのは今から約15年前、ちょうど25歳のときのこと。当時私は東京駅から徒歩3分ほどの「証券系コンサルティング会社」に勤めていた。いま思うと非常に怪しい会社であったが、そこで出会ったのが今回の主役「中田さん(仮名)」である。

その会社は超が3つ付くくらいの社長のワンマン経営で、私が入社した当時は10名ほどの従業員がいた。ただ、全員が50歳以上と平均年齢が異常に高く、私1人だけがフレッシュマンという精神的にも肉体的にも厳しめの環境であったことは間違いない。

社長は天才と狂気が入り混じった人で、真面目な話、1時間でも2時間でも怒鳴り続けることができた。悪い人ではなかったが、まだ人間としても社会人としても未熟だった私は社長が恐ろしくて仕方がなく「仕事が楽しい」と思えたことは1秒もない。いま思えば典型的な「ブラック企業」だったのだろう。

・爽やかイケメン上司

中田さんが入社してきたのは、私から遅れること半年ほど経ってから。中田さんは超大手証券会社で優秀な業績を収めた方で、歳は私の4つ上。大学時代を大阪で過ごしたせいかいつも軽快な関西弁を駆使しており、性格も明るく人当たりも良い “爽やかイケメン” であった。

歳が近かったこともあるのだろう、中田さんは非常に私を可愛がってくれた。業務に関することは当然として、ルーキーの私に社会のイロハを教えてくれたのも中田さんだ。それだけではなく、社長がブチギレて私に怒りの矛先を向けてきても身を挺して私を守ってくれもした。



「パクのミスは上司である私のミスです。彼を責めないでください。それに社長、パクはまだ社会人になってから半年ですよ? よくやってるじゃないですか? 社長は社会人になってから半年で何ができましたか? もっといいところも見てあげてください」


か、かっこいい……! しかも私に対してビシッとするところはビシッとしており「あれはあんたが悪いぞ? 気を付けろよ」などと、ちゃんと叱ることもできる人であった。言うなれば若き日の島耕作──。それくらい中田さんはカッコいい男性だったのだ。

当然、人数が少ない会社で歳も近ければ、行動もほぼ一緒になる。週に3回か4回は飲みに行っていたし、私は純粋に中田さんを尊敬していた。中田さんもプライベートな話も含め、私には気を許していたのだと思う。そんなある日のことだった──。

・突然のカミングアウト

いつもように会社近くの居酒屋で一杯やっている時のこと。私がトレイから戻ると、変な間合いで中田さんがこう切り出してきたのだ。




「……パク、ちょっと聞いてくれるか?」




「ん? どうしたんですか? 真面目な顔して」




実は俺……ホモやねん




「……マジっすか?」




「……マジやねん」




「……じゃあ、僕もそっち系に関して長年の疑問があるので遠慮なく聞いちゃっていいですか?」




「え、ええけど、驚かへんかった? 気持ち悪いやろ?」




「いや、驚きましたけど気持ち悪くはないですよ。そうか、中田さんが普通の人となんか違ったのはそういうことだったのか……」




「どういうこと?」




「いやね、関西出身じゃないのに関西弁でしょ? しかも普段はメチャメチャ明るいのに、たまに死んだ顔してるときあるじゃないですか? テンションが両極端というか。なんか普通の人っぽくないなぁと思ってたんですよ」




「あんた、よう見てんなぁ」


驚きはしたものの、私は中田さんのカミングアウトを数秒で受け入れた。そして、これまでに聞くに聞けなかった数々の疑問を中田さんにぶつけたのだ。




「中田さん、ホモとゲイとオカマって何が違うんですか? どう呼んだらいいんですか?」




好きに呼んだらええよ。こだわり持ってる人もいるけど、全部男が男を好きなことに変わりないから。全員ゲイでホモでオカマや、間違ってない」




「なるほど。じゃあ、攻めと受けってどうやって決めるんですか? 両方が攻めたい場合とかどうなっちゃうんですか?」




「それは……△☆●×※▼◎※★×(以下自粛)」




「奥深いなぁ……人間ってのはよく出来ている。じゃあ、芸能界でも多いっていうのはどうですか?」




「そりゃ多いよ。先週も二丁目で△☆●×※▼◎※★×(以下自粛)」




「大物! でも言われてみればそんな気もするかも……」


その後、私が先に会社を辞めからも中田さんとの交流は続いた。というか、次の勤務先は中田さんが紹介してくれた。不思議なもので、中田さんにカミングアウトされて以来、私は少し話すと「この人そうかもしれない」とわかるようになり、その能力は今でも消えていない。

また、中田さんを皮切りに何人かのゲイと知り合ったが、全員に共通しているのは「メチャメチャ気遣いができる」ということだ。人当たりもソフトな人が多く、一緒にいてイヤな気持ちになったことがない。ただ、そのうちの1人は「ゲイが気遣いできる理由」をこう教えてくれた。


「私たちはさ、基本隠さなきゃいけないから人をすっごい見てるのよ。だから、気遣いつつもこっちに変な疑惑が来ないように牽制してるわけ。オカマ同士になってごらんなさいよ? 解放しちゃってる分、実際はドロドロなんだから!」


あくまで1人の意見にしか過ぎないが、ゲイの人がかなり人間を観察していることは事実だろう。そして自分がゲイであることを隠す行為は、傍から見てみて「メチャメチャ疲れるだろうな」といつも感じる。それこそ中田さんはいつも安定剤を持ち歩いていた。

LGBTを始めとする “多様性” が徐々に受け入れられつつあるように見えるこの世界。だが一方で根強い嫌悪感を持つ人が多いこともまた事実だ。どんな意見があってもいいが、人の自尊心を傷つけるような発言だけは避けた方がいい。この世界の住人はあなただけではない、人間は寄り添いながら生きていく生き物なのだから──。

執筆:P.K.サンジュン
イラスト:稲葉翔子
Photo:RocketNews24.
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