客席からバナナが投げ込まれたり、差別的なヤジが飛んだり。サッカーの試合と人種差別問題は切っても切り離せない。Jリーグでも、浦和レッズサポーターが「JAPANESE ONLY」という横断幕を掲げて大きな問題となった。
イングランド・プレミアリーグのチェルシーも、人種差別を行うサポーターに頭を悩ませてきた。2017年9月にも、サポーターが対トッテナム戦前にユダヤ教徒への差別的なチャントを行ったと報じられている。
だがこの度、チェルシーが新たな対処法を打ち出したと英メディア『The Sun』が伝えた。人種差別的なサポーターをアウシュビッツ強制収容所へ送って教育させるというのである。
・アウシュビッツで教育を受けるか、出禁になるか
チェルシーのクラブオーナーで、ユダヤ人でもあるロマン・アブラモビッチ氏が中心となって打ち出したこの対処法。同クラブは、差別的な問題を起こしたサポーターに対して、最長3年間の試合への出入り禁止処置を行ってきた。
しかしそれでは差別的なサポーターは排除できても、サポーター個人の考え方に働きかけられない。そう思い至ったチェルシーは、新たな方法で人種差別に立ち向かうことにした。
同クラブのブルース・バック会長は、差別的なサポーターに対して「アウシュビッツ強制収容所を訪問して教育を受ける」か「シーズンチケットの没収」か、2つの選択肢を与えたいと話している。
「私たちは、サポーターにこう呼びかけたいんです。『あなたは間違いをおかしましたね。でも、これからどうすればいいか選ぶことができます。試合への出入り禁止、もしくは、職員と一緒に多様性について学び、自分がどのような過ちを犯したか理解すること。どちらがいいですか?』とね」
第二次世界大戦時、ナチスが設けたアウシュビッツ強制収容所では110万人ものユダヤ人が虐殺されている。
・5年かけて新しい対処法を作り上げたチェルシー
この案が形になるまで、何年もかかったようだ。2018年4月には、ホロコーストの犠牲者を悼む「生者の行進(March of the Living)」にクラブの代表団が参加。6月には150名ほどのサポーターと職員が、アウシュビッツ強制収容所を見学に訪れている。
「試合への出禁阻止を講じても、何にもならない。私たちは、そのことに5年間かけて気づきました。アブラモビッチは世界中で反ユダヤ主義が広がっていることを危惧(きぐ)しており、私たちにも長期的な対応を取るように指示を出しました」とバック氏は語っている。
本件に対して、ネット上では様々な意見が上がっている。「人種差別なんてする奴らが、アウシュビッツに行っても何も学ばないだろう」「へー、人種差別すると、無料でポーランドに行けるんだ」など皮肉めいたコメントも見られるが、「素晴らしい」とチェルシーを応援する声も多い。
参照元:The Sun、Mail Online(英語)
執筆:小千谷サチ
Photo:Wikimedia Commons[1]、[2]