2018年1月14日、小学館の運営するサイト「ビッグコミックbros」で漫画原作者の狩撫麻礼(かりぶ まれい)先生の訃報が伝えられた。狩撫氏は、池上遼一氏や弘兼憲史氏など数々の実力派の漫画家とタッグを組み、名作を世に送り出してきた。日本の漫画界に多大なる影響を与えた人物である。

若い世代には馴染みのない原作者かもしれないが、ぜひとも狩撫先生の作品を読んで欲しいと思う。特に、1980年代後半のバブル絶頂期に、浮かれる世の中の価値観に一石を投じた作品『迷走王ボーダー』は、現代にも通じる名作だ。

・その影響は漫画界だけではない

狩撫先生は、カリブ・マーレィやひじかた憂峰など、別名義でも作品を手掛けている。タッグを組んだたなか亜希夫氏との作品『リバースエッジ 大川端探偵社』や、俳優・遠藤憲一氏の初主演作となった『湯けむりスナイパー』……などなど。

また、土屋ガロン名義の『ルーズ戦記 オールドボーイ』は、2004年韓国で映画化もされている。ちなみにこの映画作品(オールド・ボーイ)は2004年にカンヌ映画祭審査委員大賞を受賞している。1979年のデビュー以来、現在に至るまで、漫画界だけではなく多方面に影響を与えているのが狩撫先生なのだ。

・バブル絶頂に、無職の男たちの物語

そんな狩撫先生の名前を初めて聞いたという人は、『迷走王ボーダー』を読んで欲しい。連載当時(1986~89年 漫画アクションで連載)はバブル期真っ盛り、テレビではトレンディドラマと、多額の予算を割いたバラエティ番組がバンバン放送されていた。「不景気」という言葉とは無縁の時代と言ってもいいだろう。

その羽振りの良い時代に登場したこの作品の主要人物は、海外放浪を経て日本の安アパートに住む無職の男たち。ことに主人公格の蜂須賀は、家賃をまともに払うことができないので共同トイレを部屋代わりに過ごしていた。

・何もかもぶち壊す

登場人物がムチャクチャなら物語もハチャメチャ。今読み返しても、この後どうなってしまうんだ!? という展開の連続。「既成概念」や「世の中の常識」をことごとくぶち壊して、読者の心にさまざまな疑問を投げかけてくる。

価値観とは何か? 豊かさとは何か? 生きるとは何か?

答えのある疑問ではないのだが、ガムシャラに突っ走る蜂須賀の姿を通して、読者は自らの人生や価値観について考えさせられたと思う。

・今だからこそ

今は、バブル期の頃とはまた違う意味で、豊かさや価値観について問われている時代ではないだろうか。就職や転職に頭を悩ませている若い人も多いと思う。また将来に不安を抱えている人は、何も若者だけではないはず。そんな人たちにぜひ『迷走王ボーダー』を読んで欲しい。作品を通して、豊かさや自由について何か見えてくるはずだ。改めて狩撫先生のご冥福をお祈りします。

参考リンク:Amazon『迷走王ボーダー』、ビッグコミックbros
執筆:佐藤英典
イラスト:Rocketnews24