日本で「海賊」と言えば『ONE PIECE』を想像する人が多いのではないだろうか。もはや説明の必要もないほどに爆売れしている本作。『ドラゴンボール』以来の少年マンガの金字塔と言っても過言ではない。

そんな『ONE PIECE』に幻の0話があることをご存じだろうか。しかも、その話には大人になり、髭を生やして大海賊団を率いる未来のルフィが登場するのである。

・シャンクスやウソップの親父っぽいキャラも登場

その0話のタイトルは「ROMANCE DAWN(ロマンスドーン)」という。尾田先生が『ONE PIECE』を連載する前に描いた読切だ。

主人公はもちろんルフィ。さらにはシャンクスやウソップの親父っぽいキャラも登場し、ラストでは大人になり、髭を生やしたルフィが、連載作品の10倍くらいの人数の海賊団を率いて航海するシーンまで描かれている。

・3つの「ROMANCE DAWN」

ここまで読んで、ファンの中には「私の知ってる『ROMANCE DAWN』と違う!」という人もいるのではないだろうか。実は、尾田先生は「ROMANCE DAWN」を3話描いているのである。

まず、1つ目は『ONE PIECE』の第1話「ROMANCE DAWN-冒険の夜明け-」。2つ目は連載前に週刊少年ジャンプに掲載された読切「ROMANCE DAWN」。そして最後が、ジャンプ増刊号に掲載された読切「ROMANCE DAWN」だ。

・ジャンプに新しい風を吹き込んだ衝撃作

20年以上ジャンプを読んできた私(中澤)だが、3つ目の「ROMANCE DAWN」に出会った時の強烈な印象は今でも忘れない。

当時、ルフィの顔は、ジャンプの主人公にあるまじき薄い顔で読む気が起きなかった。下手したら読み飛ばすくらいの軽いノリでページをめくってみると……

読み終わる頃には鳥肌が止まらなくなっていた。『ONE PIECE』をギュッと凝縮したような本作。その絵の異質さや、軽やかで痛快なリズム、ダイナミックさが連載陣も含めた他のマンガとは明らかに違ったのである。

・ファンに読んでもらった

試しに、今でも週刊少年ジャンプで『ONE PIECE』を読んでいるロケットニュース24の記者・あひるねこにこのマンガを見せてみたところ、以下のような感想が飛び出した。

あひるねこ「この読切の存在を初めて知ったんですが、第1話の重要なシーンがこの時点ですでに完成していたことに驚きました。ルフィのキャラが若干違うのも新鮮。今なら言える。これは売れるわ」


──現在の『ONE PIECE』を知るあひるねこも感動。なお、1つ目の「ROMANCE DAWN」は1巻、2つ目は1998年発売の『WANTED! 尾田栄一郎短編集』、最後は少し遅れて2002年の『ONE PIECE RED』に収録されている。

なぜ、最初の作品の公開が一番最後なのか? 『WANTED! 尾田栄一郎短編集』に掲載しなかった理由について尾田先生は以下のように語っている。

・尾田先生が語る『ROMANCE DAWN』

「収録ページ数の関係で載せる事はできませんでした。前作(3つ目のロマンスドーン)を切った理由は、その読切があまりに『ワンピース』のプロトタイプであった事。『ワンピース』という連載漫画はつまり、その読切をたくさんのページを使ってじっくり描いたもの

──また、2つの「ロマンスドーン」については『ONE PIECE RED』の後書きで以下のように語っていた。

「この時(3つ目のロマンスドーン)からルフィの麦わら帽子のエピソード(シャンクスとの約束)は決まってて、変える気なんてサラサラなかったということです。(中略)が。しかし、この半年後、もう1本『ロマンスドーン』という読切を僕は描いてます。

(中略)その読切では、麦わら帽子はルフィのじいちゃんから貰った事になってるんですね。(中略)載った雑誌が違ったんです。この本に載ってる『ロマンスドーン』はジャンプ増刊号、そして次に描いた『ロマンスドーン』はジャンプ本誌(週刊少年ジャンプ)。

つまりジャンプ本誌の読者に対してシャンクスというキャラクターの存在を隠したのですね。だって連載する時にインパクトがなくなるから


──新人の時点でそこまで考えているなんてお見それしました。『ONE PIECE』を濃縮還元したようなこの作品。ファンで知っている人も多いだろうが、もし初めて知ったという人はぜひ読んでみてくれ。

参考リンク:集英社マンガネット『WANTED』『ONE PIECE RED』
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.