ウマいそば屋を求めて色んな街を放浪する「立ちそば放浪記」。私(中澤星児)にとって、立ち食いそば屋と言えば、味だけではなくレトロな佇まいも魅力の1つだ。過ぎ去った時代の忘れ形見……そんなノスタルジーを愛でているのである。
今回ご紹介する『神楽坂そば』は、言わばノスタルジーの塊のような場所だ。時代と人生を匂わせる味と外観には、心の奥深く柔らかい部分が握られてしまうこと必至!
・長屋のような区画
JR中央総武線飯田橋駅から3分ほど、現代的なビルが立ち並ぶ大都会を歩いていると、突然レトロな雰囲気の区画が姿を現す。ぎゅっと詰め込まれたように雑多なその1角にあるのがこの店。
入り口を入っていくと、予想以上に店内には奥行きがあった。入ってすぐ7人くらいのカウンターがあり、さらに店の奥には机席もある。奥に長い店の造りゆえに、太陽の光は入ってこないが、それが隠れ家っぽい雰囲気を醸し出していた。知らない人は入りにくいかもしれない。
・女将さんが温かい
席に座ると、人懐っこい笑顔で出迎えてくれる女将さん。メニューは8種類と少数精鋭ではあるが、「やさい天そば(390円)」「なっとうそば(360円)」など、普通のラインナップとは少し違う。私は「コロッケ玉子そば(430円)」を注文。ちなみに、食券ではない。
・優しいそば
運ばれてきたそばは、濃い色のつゆがコロッケに染みてウマそうだ。白身がつゆの熱で白っぽく固まっているのも高ポイント。ビジュアル的には「食堂」という感じ。食べてみたところ……
甘めのつゆが優しく舌を包む。そして、ソフトな食感の麺も、優しいつゆと相性抜群。思いやりすら感じるどこか懐かしい味がそこにあった。しみじみウマイ……。
・おふくろの味
その味に、大阪から上京してきた頃の様子が走馬燈のようにまぶたの裏を流れていく。なかなか渡れなかった渋谷のスクランブル交差点、悔しさの掃きだめのような歌舞伎町のネオン、あふれかえる人・人・人……生き急いだ10年間だった。
耳をすませば、私を呼ぶ声が聞こえる。セ~イちゃーん! この声は……幼馴染の美樹の声だ!! 分校で隣の席だった幼馴染・美樹。毎朝私を起こしてくれた彼女は元気にしているだろうか。
……そばや店からあふれ出る懐かしく優しい味に、脳内が理想の田舎にトリップしてしまった。なお、私は分校出身ではないし、女の幼馴染もいないことを追記しておきたい。
ともかく、この味は誰にとっても「おふくろの味」となるのではないだろうか。現代的でキレイな店も良いけれど、たまにはノスタルジーで都会を忘れるのも良いもんである。
・今回紹介した店舗の情報
店名 神楽坂そば
住所 東京都新宿区神楽坂1−14
営業時間 月~金6:00~18:00 / 土6:00~15:00
定休日 日、祝日
Report:立ちそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼東京でのことが走馬燈のようにまぶたの裏を流れていく
▼おふくろの味!