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皆さんは覚えているだろうか? 2010年に悲しすぎるツイートを投稿しネット上で注目を集めた、ネパールカレー屋「だいすき日本」のことを。店主のビカスさんは当時、来る日も来る日もお客さんが来ず、経営危機に瀕していた様子をTwitterで投稿していた。

それが話題となり、全国からお客さんが殺到。一時は原宿に2号店を設けるまでに成長した。そのビカスさんのお店が、2016年8月8日、閉店したのである。その理由をビカスさん本人に聞いたところ、突然お店を閉めることになったのには意外な事情があった。それが彼の人柄の良さによるものであり、何だか胸が熱くなってしまう……。

・にじみ出る人柄

一度でもビカスさんのお店に足を運んだ人ならわかると思う。彼はとても良い人だ。笑顔からにじみ出る人柄の良さは、出会った人を癒してしまうほど。少しでも言葉を交わせば、まっすぐで正直な人間であることがすぐにわかる。私(佐藤)は、原宿のお店で1度会ったことがある。丁寧な応対と、混じり気のない瞳に、この人は本当に日本のことを好きなんだろうなあと感じた。

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・同じ名前、別のお店

中板橋にある彼のお店は、地元でも愛されており、これまでの経営には何ら問題がなかった。だが、最近になって困った事態が発生した。それは2015年11月に、店の並びに「だいすき日本2」がオープンしたのだ。

そのお店は、もともとビカスさんのお店で勤めていたネパール人シェフが開店させたものだ。弟のように可愛がっていた従業員が独立することを、ビカスさんは歓迎し、お店を開けるための準備をいろいろと手伝ったそうだ。ネパールカレーのお店が2店舗並んでいても、客をとり合うだけになってしまうので、その時ビカスさんは、自らのお店をステーキ店に業態変更している。カレーは弟分のお店に譲った格好だ。

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・ビカスさんに会いに来たはずの人たちが……

しかし、「だいすき日本2」は経営を続けて行くにつれて、味や接客の面がおろそかになり、あまり良い声を聞かなくなっていったそうだ。それでも「だいすき日本」という名前で営業している以上、ビカスさんのお店と混同されてしまう。経営は無関係といっても、地方からビカスさんに会いに来たお客さんが、間違えてしまうことが続いていた。

そこで店舗名を「だいすき日本2」から、別の名前に変更して欲しいことをビカスさんが提案したのだが……。名前を変えることに応じてもらえなかった。味や接客に問題なければ、そのままで営業することに問題を感じなかったそうなのだが、見過ごすことができないほど、影響が出るようになってしまった。

ちなみにビカスさん自身は「だいすき日本」という名称の商標を持っている。しかしそれは、あくまでも自己防衛のためであり、「訴えることはしたくない」と、彼は語っている。

・最終日前に在庫切れに

ふたつの異なる「だいすき日本」がある状態が続いた後、ビカスさんは決断した。自分の店を閉めようと。8月8日に閉店することを決意し、お世話になった地元の人たちに、そのことを伝えると、近所の人たちが続々と足を運び、8日を迎える前に在庫切れになってしまった。閉店日には何も出せない状態になったのである。彼がいかに、地元で愛されていたかが良くわかる。

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・なぜそこまで?

私は不思議に思った。なぜ、「だいすき日本」の生みの親が、店をたたむことになったのか? ビカスさんに会いたい、それだけのために全国から人が集まるというのに、なぜビカスさんの方が退くことになってしまったのか?

それにも、彼の優しすぎる理由があったのだ。「だいすき日本2」のシェフ、つまりビカスさんの弟分は、いずれ店を誰かに売り渡すつもりでいるという。もしその時に、ビカスさんのお店があったら「だいすき日本2」に買い手がつかないかもしれない。カレー屋が2店並んでいたら、商売が成り立たないかもしれない。そうなると、弟分が店を売ろうにも売れず困るから、ビカスさんは店をたたみ、弟分がお店を売りやすいように配慮したのだ。

なぜ、そこまでするのか?

周りの人が、ビカスさんに「店を閉めることはない」と言葉をかけても、彼は自らの信念を曲げず、閉店の日を迎えた。さらに驚くことがある。彼が店を閉めた後、居抜きで若い人がカフェを経営することが決まっているそうだ。その次の人のために、備品のほとんどを残して出て行くという。なぜ、そこまでするのだろうか? もしかしたら、見返りを求めず人に施すことが彼の美徳であり、信念なのかもしれない。

・門出に幸あれ

彼はいずれ、中板橋を離れて新天地で新たにお店を始めることを計画している。だが、それはすぐのことではなく、この先1年近くを経て実現する計画のようである。彼自身「どうなるかわからない」と言っているのだが、きっと多くの人が、彼の再スタートを支えてくれるに違いない。

少なくともこれだけは言える。彼がいる場所、それが「だいすき日本」だ。ビカスさんの新たな門出に、幸多きことを心から願う。

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼最後の日に、取り置きしてあったカレーを振舞ってくれた
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▼この優しい味ともしばらくおわかれ……
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▼いつになるかわからないけど、新しいお店でスタートするビカスさんに幸あれ!