台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、経営再建を目指す大手電機メーカーの「SHARP」。偶発債務の影響で出資額が減額されることが明らかになり、ますます先行きが不透明の状況だ。
そんななか、ある男が一言いいたい! と立ち上がった。冬はほとんど出番のない、扇風機評論家の星野祐毅氏だ。彼によると、SHARPが扇風機業界にもたらした功績は、あまりにも大きいのだとか。以下は、SHARPの功績を振り返りつつ、同社にエールを送る星野氏のコラムである。
・SHARPあやうし
扇風機評論家の星野です。SHARPがいま、経営的に危ない。救いの手を差し伸べるかに見えた台湾のホンハイが、出資額を当初予定から大幅に減らそうとしている。まあ色々あって “ムベなるかな” と思う部分もあるにはあるが、このままでは月末に決済できなくなるという、最悪の状態とか。詳しくは経済誌など読んでみて頂きたい。
この事態、扇風機評論家としては、非常に悲しい。あんな素晴らしいメーカーが、消えてしまうのか!? いや、そんな悲しいことにはなってほしくない! SHARPあっての扇風機業界、扇風機業界のなかでこそ活きるSHARPなのだから。
当初、本稿は「ありがとうSHARP! 君を忘れない」的な企画にしようかなどと考えてもいたが、やっぱり私はSHARPの扇風機が好きだ。SHARPがなくなるのは嫌だ! だから、この本稿には「がんばれSHARP!」とタイトルを付け、SHARPが扇風機業界に残してきた偉大な爪痕を振り返り、もって応援歌としたい。がんばれSHARP。
・SHARP扇風機 栄光の歴史その1 「上下左右によく廻る!」
SHARPの扇風機は、変態(ホメコトバ)の歴史なのだ。まず、この頃やたらに増えて来た、ウインウインとグルグル180度回るアレ。最初にやったのはSHARPなのだ。
はじめてみた時は、「なんて気持ちの悪い動きをするのだろう」と思ったものだが、いまや “空気をカクハンすることで、エアコンと併用して使う”、“冬もストーブの暖かさを部屋に広める” ということで他社もこぞって取り入れている。
最初のうちは、なんとも気持ちが悪く思ったものだ。目の付けどころがSHARPでしょ!
・SHARP扇風機 栄光の歴史その2 「蝶の羽根だぜ! ネイチャーウイング!」
SHARPの扇風機の羽根は、自然界の生物の羽根にインスパイアされて、微妙に曲げたり捻ったりされている。たとえば、東北から九州まで足を着くことなく飛べる蝶「アサギマダラチョウ」。もうそのことだけで十二分に凄まじいのだが、SHARPはその蝶の羽根の構造や曲がり方を徹底的に調べ上げ、扇風機の羽根に応用したのだ。遠くまで風が、ふんわりと届きますよ、と。
研究者も、まさか家電のメーカーに入社して、蝶の解剖を延々やることになるとは思わなかっただろう。ほかにも、グライダーの要領で長く飛行するアホウドリの羽根を徹底的に解き明かしてつくられたシリーズもある。この着眼点。もう! やっぱり目の付けどころがSHARPでしょ!
・SHARP扇風機 栄光の歴史その3 「プラズマクラスターはSHARPだけ!」
ある時期から、儲からないとでも思ったのか扇風機の生産販売から遠ざかっていたSHARP。戻って来たのはいまから数年前。震災後の節電ブームで扇風機が売れに売れ、こりゃ出せば売れるんだから出さない訳に行かないじゃない、と。その時は、さすがに急なハナシだったものだから、自前で製造ラインもありませんよ、ということで近所のよしみか(おなじ大阪に本社がある)ユーイング、昔の名前は森田電工にOEM(受託製造)をお願いした。
しかし、SHARP。ただバッチのつけ替えだけで売るほど目玉がぱっちり開いていない。なんと、後付けでプラズマクラスターを載せてしまったのだ。そして、ユーイングでいままで売っていた姉妹モデルより約1万円高く売り出してバカ売れ。このあたりも! やっぱり目の付けどころがSHARPでしょ!
・SHARPがんばれ
買収すると言っていたホンハイは、コストカットの鬼と聞く。「ナニ? アホウドリ? アサキマダラチョウ? アホなことを言っているんじゃないよ! 扇風機なんて回って涼しけりゃいいんじゃないの。基礎研究なんていますぐやめちまいな!」、こんなことになったら、実に寂しい限りである。
ホンハイの方々には、是非SHARPがどういう会社なのかをご理解いただき、自由にやらせてあげてほしい。もともとベルトのバックルを作っていた会社が、シャープペンシルを発明し、後には電卓をつくり液晶テレビをつくり、そして扇風機を作ったのだ。なんと目の付けどころがSHARPな会社なんだ!
いや、そもそもホンハイが確実に救ってくれると決まった訳ではないのだ。そこを忘れては困る。銀行団にもありったけの支援をして頂きたい。
次の夏、店頭にSHARPの扇風機がないのは、ちょっとさみしいじゃないか。これからも「おいおい、SHARPそこまでやるのかよ!」と、驚きと笑いを提供してほしいのです。
参照元:読売新聞、SHARP
執筆:扇風機評論家 星野祐毅
イラスト:Rocketnews24
▼上下に約100度、左右に約90度も動く3Dファン。初めて見た時は気持ち悪いと思ってしまった
▼蝶の羽を研究したハイブリッドネイチャーウイングの扇風機