もしゴッホやピカソに肖像画の作成を依頼したら、軽く1億円は要求されるのではないだろうか。もちろん、ゴッホやピカソが生きていたらの話だが……。

独テュービンゲン大学の研究者が発表した人工知能が今話題になっている。与えられた画像を絵画風に加工するのだが、加工後の画像のクオリティーが高すぎる!

・巨匠の作品が1時間で完成!

今回発表された人工知能の仕組みはこうだ。まず写真を用意する。東京タワーの写真でもいいし、自分の証明写真でもいい。次に好きな芸術家の作品を用意する。これもなんでもいい。ムンクの『叫び』でもいいし、ゴッホの『ひまわり』でもいい。

人工知能が何をするかというと、芸術家の作品を見てその特徴を学び、与えられた写真をその芸術家風に加工するのだ。例えばキムタクの写真とムンクの叫びを与えて、『キムタクの叫び』が完成! ……ということも可能なのである。

・さまざまな巨匠をコピー

今回の研究の論文に記載された人工知能の作品例を見てみると……これはすごい! 同じ運河の写真が、ピカソ、ゴッホ、ターナー、ムンク、カンディンスキーなどの様々な芸術家によって描かれたように加工されている。まるで人間の画家が亡き巨匠を真似して描いたような完成度だ!

ただ芸術作品と運河の写真を掛け合わせただけではない。「ピカソの作品が新たに発見される」みたいな感じで、この写真を見たら信じてしまうかもしれない。

・なにがすごいの?

ここまで読んで、「スマホで似たようなことするアプリなかったっけ? 例えば画像を鉛筆画風に仕上げてくれたりするアプリとはどう違うの?」と思われた方もいるかもしれない。

既存のアプリは、あらかじめ人が設定したルールに従って画像を加工する。それに対し、この人工知能は与えられた作品をその場で解析して、”作風” と “作品に固有の要素” に分けて学習することができるのだ。これには作品が何を描いたものかということを “理解” する必要がある。

・”作風” と “作品に固有の要素”

ちょっとややこしいが、ピカソ作の『裸婦』を例にあげて、すこし乱暴に説明してみよう。

この作品では、白や黒を基調とし、三角のタイルが並んでいるように描かれているのが “作風” だ。対して腕があったり、目があったりするのは “作風” ではなく、描かれた対象が人だからである。それが “作品に固有の要素” だ。

人工知能はこの二つの要素を分けることができるため、運河の写真を加工する際に、運河に目を付けてみたり、腕を付けたりしないのである。

・人工知能を持った芸術家

人間の脳の仕組みは、まだ明らかにされてないことばかりだ。絵を描くときに、人の脳がどのような働きをしているのかを知るすべはまだない。ただ、もしかしたら “今回のプログラムの働き方” と “人の脳の働き方” は、意外と似ているものかもしれない。

このような研究がさらに進めば、ただ既存の作品を模倣するだけではなく、新しい作品を作り出せる人工知能が開発されるかもしれない。人工知能を持った芸術家が作った作品が売りにだされるのも、そう遠くない未来なのかもしれない。

参照元:論文「A Neural Algorithm of Artistic Style」(英語)
執筆:ゴールド土方

▼左上から、A:運河の画像 B:ターナー作『ミノタウルス号の難破』 C:ゴッホ作『星月夜』 D:ムンク作『叫び』 E:ピカソ作『裸婦』 F:カンディンスキー作『コンポジション』