「富山ブラック」と呼ばれるラーメンをご存知だろうか? 真っ黒なスープと濃い味が特徴で、実際に食べたことがないという人でも、テレビや雑誌で一度はその名前を目にしたことがあるに違いないだろう。実はその元となるしょう油を、正当に継承している店は少なく、富山県内で数軒しかないという。
私(佐藤)は最近富山に行き、あるお店でそのしょう油を使ったラーメンを食べることができた。あえてお店の名前は伏せる。というのは、本来そのお店はラーメン店ではなく、現在も数量限定で提供するにとどめているからだ。そのお店の店主いわく、本来の流れを汲むお店は少なく、秘伝のしょう油があってこその富山ブラックなのだという。
・濃すぎる味の歴史的背景
私は富山ブラックの歴史について、店主からお話を聞くことができた。富山ブラックとはそもそも、味の濃いラーメンである。人によっては味が濃すぎて塩辛いとさえ感じるものもあるという。なぜ味が濃くなったのか、それは歴史的な背景があった。
・ラーメンはおかずだった
第二次大戦後、日本中が焦土と化し、富山もその例外ではなかった。モノはないが、米はある。ラーメンをおかずにご飯を食べるということが一般的だった時代に、今の味の元ができたようだ。また、汗をかく肉体労働従事者の要望に応えて、味が濃くなったとも店主は話している。
・時勢に合わせた味作り
店主は40歳で脱サラし、都内で有名なそば店で修行。富山に帰り、富山ブラックの元祖といわれる店でさらなる修行を重ねて、後に独立することとなる。本来の味の濃い富山ブラックは、今の時代に合わないと考えていた店主は、独立を機に時勢に合う富山ブラックを開発。しかし元になったしょう油を変えることなく、本来の良さをいかしつつ、スープに改良を加えたそうだ。
・テレビ出演を機に全国に浸透
独立した後に、店主がテレビ出演し、富山ブラックを紹介したことをきっかけにして、「富山ブラックラーメン」の名は全国に知れ渡ることになったのだとか。以来、富山のご当地ラーメンとして浸透し、現在に至っている。店主はすでに引退して、別業種の小さなお店を自分で切り盛りしているのだが、昔を知る客から頼まれて、今でもその小さなお店でラーメンを出している次第である。
・飲んだ後にあっさり
実際に店主の作るラーメンを食べてみると、一般的な富山ブラックのイメージと異なり、大変あっさりしている。しょう油のコクがしっかりとしているのにくどさはなく、それでいて、スープは魚介の旨味が凝縮されている。これはお酒を飲んだ後に食べるために、さらなる改良を加えたものなのだそうだ。
・魅力的な店主
数に限りがあり、あくまでもお店は飲みがメインであるため、あえてお店の名前は伏せる。それにしても、店主の物事に対する真摯な姿勢には、学ぶことが多かった。いずれまたお会いして、いろいろと意見を仰いでみたいと思った。何か強烈に人を惹きつけるものを感じる。
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24