kickCOACH

男だったら誰だって、「強い男」に憧れるはずだ。その強い男がプロレスラーなのか、武術家なのか、スポーツ選手なのか料理人なのか棋士なのか、それとも違う意味の “強さ” なのかは人それぞれだが、ここぞという時に背中で見せる男の強さは、同性である男から見ても「カ、カッケェ〜!」とシビれまくるほどに美しい。

私(筆者)が至近距離で見た “強い男” は、中学生時代に通っていたキックボクシングジムのコーチだった。単に腕っ節が強いだけではない。「本当に強い男ってのは、こうなんだ」ということを、コーチは背中とケツで教えてくれたのだ。

・一番ヤバイ時代に生きたキックボクサー

モロに “九州男児” といった顔をしているコーチの年齢は、その当時で45歳くらいだったと思う。詳しくは分からないが、若い頃は毎週のように試合をしていたらしい。第一次キックブーム「キックの鬼・沢村忠」の時代に生きたキックボクサーだ。

顔にはヒジでカットされた傷もある。戦いを続けてきた男の顔だ。しかし、コーチはいつもニコニコ、ナチュラルなボケをかましてジム生を唖然とさせる達人でもあった。

・マウンテンバイク事件

ジムの前に停めていたコーチ自慢のマウンテンバイクが、今まさに目の前で、若い女性2人によって盗まれようとしている時があった。しかしコーチは、「おーい、なんか女の子たちが俺のチャリンコ乗ってっちゃったよォ〜」と、盗まれていることに気づかないレベルなのだ。優しいというか、かなりのレベルで抜けているのだ。pakuri

ちなみにその直後、ジム生から「コーチ、乗ってっちゃってるんじゃなくて盗まれてます!」と言われた瞬間、「そっか!」と叫んだと思うと、下は紫色のジャージ&上半身裸で「オーイ! まってくれー!!」と、爆速ダッシュで犯人たちを確保。だが、コーチは笑いながら彼女たちに「だめだぞぉ〜☆」と優しく注意するだけだった。dashCOACH

・牛丼屋のコーチ

こんなこともあった。あるとき、牛丼の『吉野家』でコーチと鉢合わせしたことがある。「じゃな」と先に帰ったコーチ。その後、いざ私が会計をしようと思ったら、「もういただいております」との返事。なんと、コーチが私の牛丼を払っておいてくれたのだ! その時の思いが忘れられず、私は『吉野家さん』というキャラクターで、コーチのイラストをロケットニュース24で描いたことも過去にはあった。yoshinoyasan

・コーチのケツ

とても優しいコーチだが、いざキックの練習になると真剣な眼差しで技のひとつひとつを教えてくれた。そしてコーチのパンチ、蹴りを見ていると、当たり前といえば当たり前だが、「どう考えても強い」ということが一目で分かった。

特にコーチの蹴りは変幻自在。腰の回し方がハンパなく、ハイキックを放つ時などは「ケツが横に割れてるんじゃないか?」と思えるほどの回転っぷり。コーチのケツがプリッと動くと、そのコンマ数秒後にはとんでもないキックが炸裂しているのだ。puriketu

パンチの時の腰の回転も、腰が「パーンッ!!」と鳴ってるんじゃないかってくらいのスピードであり、とても中年の男性とは思えないシャープな動きを維持していた。あえて勝手にニックネームを付けるとしたら、“薩摩の黒豹” といったところか。

・静かにコーチがブチギレた伝説のスパーリング

そんなコーチのことを、ジム生はとても尊敬していた。ちょっとバカなところもあるけれど、いつも優しいし、厳しいところは厳しい。ジム生のことを思いながら教えてくれる、心の広い薩摩の男。なにより “誰がどう見たって絶対に強い” のだから。

だが、ある時、事件が起きた。入門から1年も経ってないのに調子に乗ってしまったジム生が、恐れ多くも「コーチって本当に強いんすかァ〜?」とコーチを挑発。結果として、伝説の「究極ハンディキャップのガチンコマススパーリング」が始まってしまったのだ。そこで何が起きたのか!? ゴングは次ページ(その2)で鳴らされる。

執筆:GO羽鳥
イラスト: マミヤ狂四郎