
今年デビューから25周年を迎えたベテランのロックバンド、人間椅子。25年前、あなたは何をしていただろうか? もしかしたら生まれていなかったという人もいるだろう。逆に考えてみて欲しい、今から25年後の自分がどんな活躍をしているか想像つくだろうか? おそらくほとんどの人がイメージできないはず。
それは人間椅子でも同じである。若き日の彼らが、25年後にもっとも脂が乗った状態で精力的に活動しているとは思っていなかったはずだ。その彼らが2014年12月3日に25周年記念のベストアルバム『現世は夢』をリリースする。この作品は過去の作品を集めて作られた、ただのベストではない。彼らの起源と未来を一度に垣間見ることができる集大成の作品だ。
・円熟味と切れ味
人間椅子は2014年6月に、アルバム『無頼豊饒』(ぶらいほうじょう)をリリースしている。このアルバムは、長年ロックし続ける彼らの円熟味あふれるサウンドが余すところなく詰め込まれており、なおかつこれが熟年バンドマンの音か!? と思うほどエッジがきいている。およそオジサンたちが演奏しているとは思えないほど、切れ味が鋭いのだ。
・どこに余力があったのか?
2013年以降、活動の幅が広がり、勢いを増すばかりの彼らは、6月のアルバムですべての力を出し切ったとばかり思っていた。ところが今回のベストで、新曲を4曲収録しているのである。これがまた、隙がない。ムダがない。張り詰めたヒリヒリとするようなロックに満ちあふれているのである。アルバムリリースから全国ツアーへと駆け抜けたのに、どこにそんな力が余っていたのか? と思わざるを得ない。
・0枚目から2曲
もうひとつ特筆すべきは、これまで音源に入っていなかった、インディーズ盤『人間椅子』の楽曲が2曲収録されていることだ。通称0枚目といわれるこのアルバムは現在入手困難になっている。当時の音を聞きたいと願うファンも少なくないだろう。今になってなぜ、このアルバムから「陰獣」と「神経症I LONE YOU」の2曲を入れることになったのだろうか? ギターボーカルの和嶋慎治氏は次のように語っている。
和嶋「25周年ということで、人間椅子の最初から最新までの楽曲を届けたかったんですよ。初期の2曲は現在入手困難になってしまったので、やっぱり入れたかったですよね。我ながら、当時の音を聞いて驚きました。自分たちは全然変わってないって」
「全部通して聞くと、僕たちの足跡を知ることができると思います。活動初期から現在に至るまで、ぶれずに変わっていないということを表せたベスト盤じゃないかな。初期の曲を入れたDISC1は僕たちのルーツですよね。それでDISC2は人間椅子のこれからですよ。非常にクリエイティブなことをやれたベストだと思います」
・0枚目の秘話
実は、インディーズ盤を出した時の秘話を、ベースボーカルの鈴木研一氏が教えてくれた。メジャーデビュー前の当時、1989年インディーズ盤『人間椅子』をリリースした時と、現在とでは音がまったく違うというのだ。それには理由があった。
鈴木「昔の音は今と全然違うんだよね。あの頃、アンプとか楽器とか全然わからなかったから、勧められるものを勧められるままに使ってたんだよね。それから、やたら褒められたことを良く覚えている。何やっても「いいね! いいね!」って。新人だったし、持ち上げてくれたんだろうね」
・一貫した姿勢
何かとバンドのやり方にいろいろ口を出されたこともあるそうだ。「バンド名を変えた方がいい」とか「ボーカルを入れた方がいい」などと言われてきたのだが、それらの口出しに応じることはなく、鈴木氏は「即答でノーと答えてきたけど」と話す。25年間、ひたすらにロックに対する一貫した姿勢をつらぬいてきた。その答えが今に至る精力的な活動につながっているのではないだろうか。
・1週間で形に
2004年のアルバム『三悪道中膝栗毛』からバンドに加わったドラマーのナカジマノブ氏は、今作に対して和嶋氏、鈴木氏とはまた別の角度から全体を見ているようである。ベスト盤について、ナカジマ氏はこう説明している。
ナカジマ「過去から現在まで、楽曲の雰囲気がずっと一貫してますよね。25年間ずっと一貫してるって本当にスゴイと思う。今回の新曲も、2人(和嶋氏・鈴木氏)らしいと思う。それが大体1週間で形になったことが、2人のスゴイところだよなあ」
・走り続けていたからこそ
ベスト盤の制作に当てられた時間はわずかだった。その限られた時間のなかで選曲と、4つの新曲の制作が行われたのだ。「6月発売のアルバム制作からツアーに出て、そのままの勢いで4曲を作ったから、いいグルーブが出たんじゃないかな」とナカジマ氏は分析している。またナカジマ氏は、DISC2の楽曲のすべてで、自分が演奏していることも喜んでいた。
・目盛りを1つ上げて
とにかくベスト盤、DISC2に収録された新曲4曲を聞いていただきたい。熱量の高さに驚かされるはずである。しかも驚きなのは、この4曲はこのベスト盤だけのための曲で、ほかの作品に反映はさせないそうである。それだけ強い思いをもって、作りこんだ曲なのだ。
和嶋「今、勝負するときだと思って、出せる力の目盛りを1つ上げたんです。メンバー全員の底力が出ていると思います。音源を心待ちにしている人、皆さんに、楽しんでもらいたいですね」
これまでの25年間、そしてこれからが詰め込まれたベストアルバム、それが『現世は夢』である。25年の歴史のなかで培った人間椅子の夢が、今まさに現世に顕現(けんげん)した秀逸な作品だ。
取材協力・画像提供:徳間ジャパン
撮影:ほりた よしか
執筆:佐藤英典
▼ベスト盤のための新曲『宇宙からの色』PV
佐藤英典

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