
もしも未来が見通せたら、人は幸せに生きられるのだろうか? すべてが約束された将来があるとしたら、希望を持って生きて行くことができるのだろうか? 私(佐藤)はそう思わない。未来がわからないからこそ、今を一生懸命に生きることができると思っているからだ。
そのことを教えてくれる人たちがいる。それは長年お付き合いをさせてもらっている芸能事務所「アリスプロジェクト」である。最近、長らくユニットを引っ張ってきたメンバーの藤崎麻美さんが卒業した。彼女は本来、アイドルとして活動することを目指していた訳ではなかった。だが、彼女は手探りで走り続けた末に、彼女の望む未来の一部を手に入れたのである。
・2010年にすでに出会っていた
彼女が所属していたユニット「アリス十番」を最初に取材したのは、2012年2月のことだ。朝の情報番組でその存在を知り、事務所に問い合わせをしたところ、「せいじ社長」直々に返事が来たのである。
実は彼女たちと私の最初の接点は、さらに2年前にさかのぼる。東京・浜松町で行われた「つけ麺博」に取材に行っていた私は、そこで『トッピングガールズ』というアイドルユニットの撮影をしていたのだ。それがアリスプロジェクトに所属していたとも知らず。また、そこに私がいたことを、せいじ社長をはじめとする事務所スタッフも知らなかった。
だが、その写真のなかに、すでに藤崎麻美さんはいたのである。2013年に卒業した月村麗華さんも、そこにいた。月村さんは今年6月からマネージャーとしてタレントをサポートしている。
・誰も予想できなかった今
2010年当時、そこで偶然出会わせていた私、アリスプロジェクトのスタッフ、そして藤崎麻美さんは、今に至る未来を予見できたであろうか。いや、誰一人として今のようになる未来を想像していなかっただろう。もしかしたら、せいじ社長だけは頭にそのビジョンを描いていたかもしれない。だが、前座とはいえ武道館に出演し、常設劇場を持ち、ZeppTokyoでワンマンライブを行うことまでは、きっと予見できなかったはず。まして、冠番組を持つに至るとは。
Zeppワンマンを完売できなかったとはいえ、2000人を超える集客を果たせることなど、2010年の段階で考えもしなかったはず。なぜならそこには、イベント会場であるにもかかわらず、10数人の観客しかいなかったからだ。
・顔を隠して
翌年事務所は「東京アイドルフェスティバル」に所属タレントを出演させることを決める。このイベントは有名無名を問わずにアイドルが集結する一大イベントだ。このときに他の出演者との差別化を図るために、メンバーにジェイソンマスクを着用させることになる。顔が売りのアイドル、その顔をあえて顔を隠すことにより一線を画すというブランディングである。そうして生まれたのがアリス十番だったのである。
・卓抜したパフォーマンス
マスクだけではなく、ライブ中にダイブやヘッドバンキングを行うなどして、パフォーマンスそのもので差別化をすることにもこだわっていた。その努力の末、次第に固定ファンを獲得するに至った。演出がいくら秀逸でも、パフォーマンスの質が低くては意味がない。求められるクオリティをもっとも高く表現できたのが、藤崎さんだったのである。彼女はダンスと歌唱力を買われてセンターになった。そして、唯一ピンクのマスクの着用を許された。
・卒業した彼女との闘い
ファンを増やし、劇場を持つようになり、次第に若いメンバーが増えるなかで、彼女はダンスと歌唱で他のメンバーの手本となり続けていたように思う。彼女が卒業を迎えるまで、結局彼女を超えるようなパフォーマンスを身につけたメンバーはいない。2年間見てきたなかで、私はそう思っている。つまり他のメンバーは、卒業した藤崎さんとの闘いが始まることになる。彼女の功績を越えて行くことは、並の努力では難しいに違いない。
・もう悔いはない
そんな彼女は卒業イベントで、最後の挨拶でこんな風にこれまでを振り返っていた。
「アイドルを長くやるつもりはなかったけど、気が付けば4年間経っていました。音楽でいつか武道館に立てればいいと思ったけど、ファンの皆さんに支えられて、前座ではありますが昨年12月に武道館に立つこともできました。もう悔いはないです。ありがとうございます」(藤崎さんの発言要約)
・険しすぎた道のりを
彼女の望む形ではなかったのかもしれない。それでもひたすらに走った結果、目標とする場所にたどり着けたのだ。もしも4年前に、今という未来が見通せていたら、彼女は武道館にたどり着いただろうか? ひょっとしたら彼女はここまで走ってくることはできなかったかもしれない。なぜなら、ここまでの道のりはあまりにも険しく、その道程は困難であるあまりに、走る前に違う道を選んでいたはずだからだ。
・美しく潔い
メンバーの解雇や脱退が相次いだ時期があり、そんな最中に不幸は重なるもので、ケガをしてステージに立てないメンバーまで出てしまった。藤崎さんの卒業ライブを共に迎えたメンバーは、苦楽を共にした仲間であり、家族のようなものなのかもしれない。そこから離れるに当たって「悔いはない」と言い切った、彼女の生きざまは、美しい潔いとさえ言えるのではないだろうか。
・2年前に受け取った手紙
実は私の手元に、彼女たちを最初に取材したときに受け取った手紙がある。手紙の消印は平成24年2月21日。藤崎さんの手紙にはこう書かれている。
「もっと有名にメジャーになれる様に頑張っていくので、これからも宜しくお願いします」
・あの日から続く道
いまだメジャーという訳には行かないが、それでも随分光の当るところまで走ってきたよ。振り返っても当時の自分の姿が遠すぎて、とても小さく見えるかもしれない。だけど、その道は確実にあの日から続いている。この先、歩みべき道は違うかもしれないけど、これから行く先もあの日から続いている道であると、覚えておいて欲しい。卒業イベントで染まった会場のピンクは、先を行く道しるべ。
執筆: 佐藤英典
Photo: Rocketnews24
▼劇場を埋め尽くすピンクのTシャツ。藤崎麻美さんのイメージカラーであるピンクのTシャツは完売したそうだ
▼ライブは「アリス十番」のワンマン。都合16曲、2時間半にわたるロングライブ
▼最後の挨拶。「武道館に立てたもう悔いはないです」、そう話す彼女の姿にメンバーもファンも涙
▼2010年に私が偶然撮影していた、藤崎麻美さん(中央)と月村麗華さんのライブ時の画像
▼そして、2012年2月に取材時に当時のメンバー全員から受け取ったお礼の手紙。この心遣いがいまだに自分を動かしているように思う
▼2012年2月、ライブ映像
▼2012年3月、薄給の告白
▼2012年3月、東日本大震災から1年のチャリティーイベントの様子
▼2012年7月、ライブ映像
▼2012年9月、青森ロックフェス「夏の魔物」出演時の映像
▼2012年10月、たった一人のためのライブ
▼2012年11月、常設劇場「P.A.R.M.S」完成
佐藤英典










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