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もし仮に人生が100年と考えたならば、その4分の1に当る25年という月日は、途方もなく重い。それだけの時間を費やして、何かひとつのことに打ち込むのは大変な努力と忍耐が必要になる。それを貫ける人はおそらく稀ではないだろうか。

さらに25年をかけて、最高の状態にたどり着くとなると、至難のわざだ。挫折という言葉ではたやすいと感じるほどの困難が、常に付きまとうに違いない。人生のさまざまな苦難を乗り越えて、今まででもっとも良いコンディションを迎えているバンド、それが人間椅子だ。2013年8月に新譜を発売し、迎えたツアーファイナルは即完売。その日のライブは「凄まじい」と呼ぶにふさわしいものだった。

・「オズフェスト」以来、熱視線を浴びる

彼らはアルバム発売後のツアー、いわゆる「レコ発」のファイナルをいつも渋谷のライブハウス「o-west」で行っている。新譜は発売前から高い注目を集めており、5月のビッグイベント「オズフェスト」に出演して以来、各方面から熱視線を浴びていた。そのことはメンバーも重々承知しており、作品づくりにおいてただならぬプレッシャーを感じていたに違いないはずである。

・ツアーファイナル即日完売

そんな状況で完成した新譜『萬燈籠』(まんどろ)は、25年間の集大成といって良い作品となったのではないだろうか。それを示すように、アルバムセールスは過去最高を記録し、デビューアルバムをしのぐ勢いとなった。つまりは、彼らの成熟したハードロックと時勢がぴたりと一致して、アルバムだけでなくツアーファイナルのチケットも即日完売となったのである。

・ツアーで手ごたえを感じる

ツアーそのものでもメンバーは手ごたえを感じていたようだ。それはステージを見ればすぐにわかった。ファイナルは2日間設けられていたのだが、初日のライブの充実ぶりと言ったらなかった。ステージにメンバー3人の気迫が満ち溢れ、これまでにも増して重厚なサウンドが会場に響き渡る。それなのに、どこかで音が軽やかに舞っているように感じた。何も語られなくても、ツアーが成功したということは、ファン一同感じとったはずである。

・張りつめた空気

最終日の30日、開演を待つ人の熱気で会場は早々と温まっている。いやむしろ、暑いと感じるくらいだ。時計を見ながら、開演時間を待つ間に、場内はピンと一本のワイヤを張ったような、固くて力強い緊張に包まれ始めた。それが次第にキリキリとさらに張りつめ、もはやここが限界か? と思われた頃、新譜1曲目の『此岸御詠歌(しがんごえいか)』の鈴の音が鳴り響いた。すると、緊張のワイヤはパンと弾けて「オオオ!」というはち切れんばかりの声に包まれたのである。

・開演直後にヒートアップ

ライブでは1曲目がその日のすべての流れを決めると言って良いだろう。またファンも、「何を持ってくるのか?」とワクワクしながら待ち構えている。ギター・ボーカル和嶋慎治氏がおもむろにアルペジオを奏でると、場内はアッという間にヒートアップ。それもそのはず、最初の曲は新譜のなかでも、合いの手がユニークな『新調きゅらきゅきゅ節』。この曲は「キュッキュキュ~」という掛け声が入る。余談だが、この曲は北島三郎氏のデビュー曲『ブンガチャ節』のオマージュである。奇妙な掛け声の理由は今回はあえて伏せておこう。

・世界を紡ぐ

いきなり場内は熱気に包まれ、続いてベース・ボーカル鈴木研一氏の歌う『人生万歳』でさらに盛り上がる。この曲もまた「バンザーイ!」の掛け声と共に、ファンが飛び跳ねるような曲だ。最初からそんなに飛ばして大丈夫か? と一瞬心配になってしまうのだが、気力みなぎるメンバーの勢いは止められない。SFホラー小説の鬼才、H・P・ラブクラフトの作品を題材にした曲、『時間からの影』、『狂気山脈』と続き、勢いのあるナンバーだけでなく、彼らの彼ららしい奥深い人間椅子世界を順調に紡いでいく。

・畳みかけるような「ロック」

もはやこの会場は、彼らの創造した世界観で埋め尽くされ、来場者はそのすべてにどっぷりと浸っているような状況なのである。新譜から『十三世紀の花嫁』、『衛星になった男』、ドラムのナカジマノブ氏歌う『蜘蛛の糸』が繰り出されると共に、古くから愛される曲『黒猫』や『青森ロック大臣』など、畳みかけるようにして「ロック」が押し寄せてくる。油断していると息をつく暇も忘れてしまうくらいの勢いだ。

・昂揚感のある音が光り輝く

時々ふと思い出すのだが、ステージに立っているのは20代のイケイケな「ロックあんちゃん」ではない。経験と少なからぬ苦労が顔に刻まれた、「ロックおっさん」。ちょっとキツく言えば「ロックおやじ」である。なのに聞こえてくる音は、なんて鮮烈で生きいきとしているのだろうか。昂揚感のある音は聞いててワクワクする、そのうえ円熟味を帯び、音の粒はつややかに光り輝いているようにさえ思える。平たくいえば、ロックが心地よいのである。

・まばゆいほどに照らす萬燈籠

和嶋氏は度ごとに、人間椅子について「気持ち悪い音楽」と説明することがあるのだが、そうではない。気持ちの良い音楽である。そうでなければ、歌詞もメロディーも心を揺さぶり、また身体を揺らしたりはしないはずである。少なくとも、歌詞の一節に胸を打たれて励まされたりはしないはず。いや、理屈はどうでもいい。今まさに感じている「生きている」という感覚が、何よりの証拠だ。ステージで躍動する人間椅子の音と、それを見る来場者の呼吸がひとつになって、このときこの場所が「生きてる」を伝えている。まさにライブである。

彼らがが培った25年は、刀を鍛える鋼。研ぎ澄まされた光を携えて、人々の心を静かに揺さぶっている。その様を例えるなら、水面に映る満月の光だ。シンと鎮まった水のうえをまばゆいほどに照らす、萬燈籠のようだ。

・人間椅子 ライブスケジュール

タイトル: 樋口宗孝追悼ライブ vol.5
日程: 2013年11月30日(土)
会場: 東京都 Zepp Tokyo
出演者: LOUDNESS、人間椅子、MAKE-UP(NoB、Yohgo Kohno)

タイトル: ワンマンツアー「バンド生活二十五年 ~ 猟奇の果 ~」
大阪公演: 2014年1月15日(水) 会場 ROCKTOWN
名古屋公演: 2014年1月16日(木) 会場 Electric Lady Land
東京公演: 2014年1月18日(土) 会場 Shibuya O-EAST

参考リンク:人間椅子公式サイト
Report:ちょい津田さん(佐藤)
Photo:Rocketnews24

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