日々、当たり前のように利用しているエレベータ―。

その裏側について、考えたことはあるだろうか?

先日、日本オーチスが開催した「大人の社会科見学」に参加し、エレベーターの裏側を見学する機会をいただいた。

機密情報保持契約書にサインをして足を踏み入れた先には、普段見ることのないエレベーターの世界と、その奥深さに目を輝かせる参加者たちの姿があった。

・日本オーチスに行ってみた

向かった先は千葉県山武郡にある日本オーチス・エレベータ・ロジスティックス&エンジニアリングセンター(NOLEC)である。東京駅からバスで約1時間40分。のどかな風景の中に現れたNOLECには、製品開発研究所やテストタワー、研修施設などが集まっているらしい。

見学前には、機密情報保持契約書への署名も必要だった。なんだか潜入捜査のようで、頭の中では勝手にコナンのテーマソングが流れ始める。

建物に入ってまず目に飛び込んできたのは、かつて新宿コマ劇場で使われていたエレベーターの展示だ。

展示されている美空ひばりさんのポスターは永久貸与品とのこと。担当者によると、これを手に入れるのが一番大変だったそうだ。

私は、その下にあった伍代夏子さんのポスターに目を奪われた。帰宅後に「女のひとりごと」と検索し、今まさに聴きながらこの記事を書いている。


今回の見学会には一般公募で当選した参加者も多くいた。何人かに参加理由を聞いてみると「エレベーターが大好きだから」と即答。

中には、会社やエレベーターへの想いを手紙にして持参した人や、事前に調べた内容や質問したいことをノートにびっしり書き込んでいる人までいた。

その熱量に圧倒される……! 多くの人にとってエレベーターは、あまりにも身近な存在だ。だからこそ、そこに強い興味を持つ人がいるなんて考えたこともなかったが、彼女たちの話を聞いているうちにだんだん興味が湧いてくる。

今回は、そんなあつーい参加者たちに囲まれながら、エレベーターの裏側を見学することになった。


・参加者の熱気に包まれる

まずは代表取締役のパトリック・ヨング氏らによる会社説明からスタート。

オーチスは、世界トップクラスのエレベーターメーカーで、世界中で約350万台が稼働。毎日約25億人を運んでいるという。正直スケールが大きすぎてピンとこないが、私たちの生活に欠かせない存在であるということは理解できた。

と、同時に通訳ができるほど、語学を極めるってかっこいいなぁと通訳のおじさまを見ながら思う。

少し真面目な話にはなるが、日本では建物や設備の老朽化が進んでおり、エレベーターの改修需要が高まっているそうだ。

また、都市部への人口集中や高齢化によって、移動を支える設備の重要性も増している。普段は意識しないが、エレベーターは社会を支えるインフラそのものなのである。


・あの気まずさも解消されないかな

さらに、超高層ビルなどで導入されている「行先階運行管理システム」など、最新技術についても紹介された。

利用者が乗車前に目的階を入力し、同じ階へ向かう人を効率的に振り分ける仕組みで、待ち時間の短縮につながるという。日本ではまだ珍しいが、アメリカや中東では比較的よく見られるシステムらしい。

たしかに、エレベーター前で待つ時間は、場合によっては気まずい。商談や取材を終えて「それでは失礼します」と別れたあと、エレベーターが来るまで続く微妙な雑談タイム。あの時間を上手につなげられる人を見ると、ニュース番組のアナウンサー並みの尺管理能力だなと思う。

できればオーチスさんには、乗った後に扉が閉まるまでの絶妙に気まずい時間も解決していただきたいところである。


・声を大にして言いたい

ここまでエレベーターの最新技術や業界の話を聞き、十分興味深かった。だが、正直なところ私が見たいのはここでしか見られない裏側である。

そう思っていたところで、ついに施設見学の時間がやってきた。


最初に案内していただいたのはコンストラクショントレーニングセンター。

エレベーターの据付や改修に関する技術研修施設だ。2025年に開設されたばかりで、実際の設備を使った研修が行われているという。

今回はメンテナンス作業の様子も見学させてもらい、普段なかなか見ることのない光景にワクワクする。

エレベーターを支えるさまざまな進化についても紹介していただいたのだが、なかでも印象に残ったのが、エレベーターを動かす「フラットベルト」だ。

一般にはほとんど知られていない部品だが、従来のワイヤーロープと比べて耐久性や屈曲性に優れ、寿命は約2倍になったという。メンテナンス性の向上や省エネにも貢献しており、エレベーターの安全性と快適性を支える重要な技術のひとつだ。

食品などでよく見かける「〇%増量しました!」のような分かりやすい話題ではない。しかし、誰もが日常的に利用するものの中にも、こうした知られざる企業努力が数多くある。裏側好きとしては、そんな “縁の下の進化” こそ声を大にして伝えたくなるのである。


・テストタワーで輝く参加者の目

続いて訪れたのは、パーツセンター。

ここにはエレベーターに使われる数多くの部品が保管されており、24時間体制で全国へ出荷しているという。

個人的には「珍しい部品とか見せてくれないかな」と期待していたのだが、見えるのは大量の箱。多くの部品が整然と保管されており、我が家も見習わねばと思わず反省した。


そして、いよいよ今回のお目当て、テストタワーである。

エレベーターをテストするためだけに建てられた巨大な塔。地上39階、地下6階、高さ約150メートルで設立当時は世界最大級だったそうだ。

本当はもっと高くしたかったらしいが、成田空港が近く、航空法の制限があったため上には伸ばせない。そこで地下を深く掘ったという。こういう話、好きだ。

最近はコンピューター上で多くの設計やシミュレーションができるようになったものの、最終的には実機を動かして安全性や性能を確認する必要がある。そのための施設がこのテストタワーなのだ。多くの参加者が、このタワーに目を輝かせていた。

実際にエレベーターに乗せてもらい、展望室へと向かった。

この日はあいにくの曇り空だったが、天気が良ければ筑波山まで見渡せるという。


・何気ない日常は当たり前じゃない

普段は何も考えずに乗っているエレベーター。しかし今回は、それらを支える裏側を見せていただいた。

そのせいだろうか……帰りに乗ったエレベーターは、「安全が当たり前じゃない」といつもより少しだけ緊張した。

そして扉が閉まるのを待ちながら、ついエレベーターの中を見回してしまった。普段は見ない裏側を知ると、何気ない日常も少しだけ面白くなるものだ。

参考リンク:日本オーチス
執筆:夏野ふとん
Photo:RocketNews24.

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