ある日のことだ、私(佐藤)が仕事を怠けて編集部の近所をブラブラ散歩していたときのこと、子連れ出社してきた副編集長の和才雄一郎が、突然「子どもを見ていてほしい」と言い出したのだ。

え? 俺が!? 子どもに絶大な不人気を誇るこの俺が!? おたくの1歳4カ月の息子さんを見るの!

しかしながら、後輩の頼みである上に、和才は急を要していたようで、断ることはできない。ヨシ! ここはひとつおじさん、がんばっちゃうぞ! ってことで、公園までお散歩に行ったら泣いた! ひたすらに泣いた!!

佐藤「記事書きたくねえなあ~。読者の皆さんは、俺が真面目に仕事してると思ってるみたいだけど、全然そんなことないもんな~、マジで」


佐藤「出社した瞬間に帰りたくなるのは、入社当初から変わってねえんだよなあ。15年もここに通ってて、いつか克服できると思ったのに、ムリだなあ」


佐藤「こんな自分もいつか変われると思った。でももうムリっしょ、52歳だぜ、30代ならまだ可能性はあるかもだけど、50代で劇的に人間が変わるわけないっての。怠けグセは直んねえわ。世の中に言いたい。俺のことは諦めてくれと


佐藤「あ? あれは」


和才「公園に行きますよ~」


和才「パパのお仕事前に、すべり台に乗ろうか。あっくん、好きだもんなあ~」


和才「ぶらんこもあるかなあ~。あっくん、ぶらんこも好きだもんなあ~」


和才「あ、さっさん。何やってんすか? また怠けてんすか?」


佐藤「オッス、オラ、佐藤。和才。怠けてないぞ、リフレッシュしてるだけだ」

和才「佐藤は知ってますよ。リフレッシュって、永久にリフレッシュする気ですか。そもそもストレス抱えるほど仕事してないじゃないですか」


和才「あ、あれ? 財布どこやったっけ? あ、まさかさっきのコンビニで……」


和才「さっさん、すみません。俺、コンビニに財布忘れてきたみたいなんですよ。ダッシュで取りに行きますんで。この子をそこの公園まで連れて先に行ってもらえませんか? あっくんっていうんです。すべり台好きだから乗せてやっておいてもらえると」


佐藤「ウッソ、マジか。俺、子どもにめちゃくちゃ人気ねえぞ。拒絶レベルのギャン泣きする子は数知れず。我ながら、子どもに嫌われる才能はピカイチだと自負してるくらいだ。いいのか?」


和才「むしろ好都合……、いや、お願いします! すぐ戻りますんで、すぐ!


佐藤「わかった。この世で「迷惑かけてる人ランキング」、トップ5に確実に入る和才の頼みだ。引き受けた、行って来い! 待ってるぞ!」


ということで、私とあっくんの大冒険が始まった。



佐藤「あっくん、佐藤のおじさんだぞ。2人で公園に行って遊ぼうね」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「あっくん、早えよ、10秒ももたんとは、俺は子どもを不快にさせる何かを発してるらしい、残念ながら……」


佐藤「だいたい今日みたいな日に限って、スカジャンと革パンはねえよな。でもあっくん、おじさんカッコいいだろ? この革パン、3500円なんだぜ。イイ買い物した」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「そうか、似合ってねえか……」


佐藤「あっくん、すぐ着くからな。すべり台が好きなんだろ、俺が最高にエクストリームなライディングを体験させてやるからな」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「イヤか。じゃあ、普通に乗ろうな」


佐藤「この調子で無事に公園まで着けるのか。徒歩5分の道のりが、とてつもなく険しい気がしてきた」

和才(心の声)『さっさんには悪いんだけど協力してもらって……』


佐藤「あっくん、少し落ち着こうかね。深呼吸深呼吸。声が枯れちゃうぞ」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「あっくん、パパからアムアムするお菓子預かったから、それ食べるか?」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「く~……、不甲斐ない。何もできないじゃないか。こんなに純粋に拒絶されると、さすがにこっちまで悲しくなってきてしまう。これでも人当たりはいいって言われる方なんだけど、子どもには関係ないんだな……」


佐藤「あっくん、もうすぐ着くからな。すべり台で遊ぼうな。ぶらんこしような」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

和才(心の声)『ちょっとそろそろヤバいかなあ。さっさんも段々元気なくなってきたし……』


佐藤「よし、あっくん、お待たせしました~! 公園だぞ~! やったね、無事に目的地に着きました~! よ~し、遊ぶぞ~!

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「何ひとつ好転しない、何をすれば喜んでもらえるのか……」


和才(心の声)『2人ともがんばれ』


佐藤「あっくん、すべり台キター! ここのすべり台、マジでヤバい。都内にこんなの置いてていいのか!? ってレベルで楽しいんだぜ。すべるとテンション爆上げになるから、あっくん、覚悟してくれよな。ハイになり過ぎて、夜泣きしてもしらねえぞ!

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「じゃあ行くぞ! レッツ、パーーーリーーーーーッ!


佐藤「シューーーーーーーーーーーッ!!!!」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「よし、ぶらんこだ。こいつもやべえ。こいつに乗って揺られてると、自然とまぶたが閉じてくると言われている。おそらくチェーンの長さが絶妙で、「f分の1ゆらぎ」ってヤツを感じるんじゃないかな。それが呼吸と鼓動にシンクロして、ある種の絶対領域に突入するとかしないとか。一言でいえば「ゾーンに入る」ってヤツだ。何を言ってるかわからないと思うけど、俺も自分が何を言ってるのかわからねえ」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「……あっくん、すべり台好きって言ってたじゃない。ぶらんこも好きって言ってたじゃない……。なのに、まったく通じひんやん」

あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


あっくん「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」

佐藤「ワーーーーーーーーーーーーーーーーン!!(泣)」


佐藤「パパーーーー! 和才パパーーーーー!! もうアカン、ワシにはムリやーーーーッ!!!!」


タッタッタッタ……


タッタッタッタッタッタ…………


タッタッタッタッタッタッタッタ!


和才「あっく~ん!」


和才「パパだよ~~~!!」


佐藤「パパキターー!」

和才「ほら、おいで。あっくん!」

あっくん「…………」


和才「さっさん、ごめんなさい。実はですね、財布失くしてたわけじゃなくてですね、あっくん、そろそろ保育園が近いので、知らない人にも接する機会を作んなきゃって思ってたんですよ。まだ家族としか接してないから。

それでさっき偶然さっさんに遭遇したから、チャンス! と思って、急きょ面倒を見てもらうことにしたんです。急にお願いしちゃってすみません。ご面倒をおかけしました」

佐藤「ええんやで。むしろ俺は日々和才に迷惑かけてるから、お安い御用や。ただ、少し自尊心は傷ついたかな。自らの不甲斐なさを痛感しました。子育ては大変だな~。そして親は偉大だ! 間違いない」


ということで、あっくんは秒速で機嫌が直り、パパとすべり台とぶらんこを楽しみましたとさ。めでたしめでたし……


執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
イラスト:Microsoft Copilot