
最近引越しをしたゆえに、今の筆者の生活圏には、これまで馴染みのなかった外食チェーンが数多くひしめいている。そのうちの一つに、金沢カレー専門のチェーン店「ゴーゴーカレー」がある。筆者は同店に行ったことがない。
せっかくなので評判を調べたところ、どうやら同店のカレーは濃厚でこってりしているらしい。ラーメン屋で言えば「天下一品」を愛するくらいにはこってり好きの筆者にとって、到底無視できぬ評判である。何なら「カレー界の天下一品」と形容するレビューさえ見かけた。
これは大変なことになってきた。「ゴーゴーカレー」の存在が、脳内で急速に膨らむのを感じた。「近場に未知のこってりがあるらしい」というのは、例えるなら「近くの川で河童が出たらしい」というのと同じで、一度そのことが気になりだすと何も手につかなくなるのである。
辛抱たまらなくなった筆者が、初実食を遂げるべく「ゴーゴーカレー」へ出かけるまでに、大して時間はかからなかった。
そしてたどりついた先でこちらを出迎えたのは、河童ではなくゴリラであった。マクドナルドであればドナルドが、ケンタッキーであればカーネル・サンダースがいるような店先のポジションに、金色のゴリラが堂々鎮座していた。
妙な洗礼を受けつつも、「まあ、そういうこともあるだろう」という気持ちでやり過ごし、店内に入る。注文用のタッチパネルに、1番人気のメニューとして「ロースカツカレー」が表示されていたので、それのMサイズを選んだ。価格は1000円だった。
席に着いて料理を待つあいだ、期待に沿うクオリティだろうかと不安がったりもしたが、じきにそれどころではなくなった。店内では、要約すると「ゴーゴーカレーを食べれば元気になる」「とにかくクセになる」という内容のオリジナルのテーマソングが熱烈に流されていた。
内壁にでかでかと描かれたゴリラのイラストを眺めながら、耳に入る音楽をぼんやりと聞く。しっとりしたものやらアッパーなものやらが2曲、3曲と次々に流れ、やけにレパートリーが多いことに気付いた時にはもう、とめどない洗礼の洪水によって頭がぼうっとしていた。
「そういうこともあるだろう」という度合いを超えた異空間に、筆者は侵されていた。想像以上にとんでもないところに踏み込んでしまったのかもしれないと意識の片隅で思ったのと、「ロースカツカレー」がやってきたのは同時だった。
ルーの上に乗るカツに加え、千切りのキャベツが目に映る。これらは石川県で生まれた金沢カレーの大きな特徴だという。先端がカツで隠れたフォークを引き抜き、ぼんやりと誘われるがまま、カツとルー、それにライスをまとめて頬張った。
頬張ったあとはもう、いよいよもって頭から爪先まで、余すことなく「ゴーゴーカレー」に溺れるのみであった。
サクサクに揚がったロースカツが、それにまとわりつく粘り気のあるルーが、我先にと味覚に押し寄せる。何と言っても衝撃的なのはやはりルーである。もはやおびただしい量のソースと表せるような、舌にのしかかる質感と、スパイシーで濃厚な味わいを兼ね備えている。
まさしく評判に一切違わぬこってり具合は、筆者の総身を歓喜で埋めた。ともすれば胃もたれしそうな造りのカレーだが、ジャンクでいてしっかりとコク深いおかげか、フォークを動かす手は止まらない。口元に運んだカレーが次の一口を渇望させ、むしろ勢いづくばかりである。
それでも少しは箸休めならぬフォーク休めが欲しくなるのだが、そこへぴったりとキャベツがはまる。他のどの野菜でもない。不思議とキャベツのさっぱり感がこれ以上なくはまる。こんなにも芸術的な仕事をするキャベツには出会ったことがない。
「ゴーゴーカレー」の隅々に感嘆していたところ、「おいしさのひみつ」と書かれた掲示が視界に入った。55の工程を5時間かけてじっくり煮込み、55時間寝かした成果がこのカレーらしい。
普段ならやや皮肉交じりに「なんと深遠な秘密だ」と思ったことだろうが、すでに「ゴーゴーカレー」に染まりきっていた筆者は、心の底から「なんと深遠な秘密だ」と感動を深めたのだった。
かくして酔いしれるように食べ進めるうちに、「ゴーゴーカレー」初体験は幕を閉じた。すっかり皿を平らげたあとになって、隣に座っていた方が無料でキャベツをおかわりをしていたのを目撃してしまったのが唯一の心残りである。
「ただキャベツだけを食べる人」になりたくなかったので渋々おかわりを諦めたが、次にこの店に来る時の良い目標ができた。次回は今回よりも、いっそう満喫しよう。そう思いながら店を出た。
店を出てもいつまでも、魅惑的な異空間での記憶は色あせぬままだった。胸に生まれた「ゴーゴーカレー」への想いは、今なお燃え盛っている。この轟々と燃える炎を絶やさずにいたい。なんとも深遠な表現を披露したところで、筆を置くとしよう。
参考リンク:ゴーゴーカレー 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:RocketNews24.
西本大紀









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